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初めてのデートは新宿の紀伊國屋だった 本屋に行くと死にたくなる という話はあえてしなかった この世にはこんなに魅力的な本が存在しているのに、私が読んだ本は、きっと1%にも満たないんだもの 辛いよ 辛すぎるし痛すぎる もうこんなに辛い思いをするくらいなら いっそのこと本の存在しない世界に生まれればよかった もう死んじゃいたい でも本当は本屋が好きだ 本屋で本を眺めている人たちの横顔を見るのが好きだ どんな人がどんな本を求めているのか 観察するのが好きだ そし

    • これは日記ですか?

      それは、”夏休み、始まりました!” の2日目に起こった出来事であったと記憶している。 私の夏休みは長かった。 ほぼひと月休みがあった。 こんな長い休み、なにかで充実させなきゃもったいない。 と思いつつも、実際にどうしたらよいものか、と考えあぐねていた。 とりあえず、本を読もう。 まだ読んでいない本は、本棚に幾冊か置いてあったけれど、 あまり好みのものではないため、読まずにいた。 自分が読みたいと思う本であれば、もっと意欲的に読めるだろう。 カバンにしまわれてい

      • これは日記

        これは日記である。 だから、その日実際に私の目の前で起こった出来事である。 私はそこに脚色することはしない。 もし、そのような事をした場合、それはその時点で、日記ではない別の何かとなってしまう。 私が事実を脚色して、ここに公開することに関しては、なんら問題はないけれど。 私が、ここに”これは日記”と書いてあるうえでは、それは、間違いなく日記でなければならない。 そんなことを書きながら思う。 日記とエッセイの違いって?…と。 調べてみると、、、 「日記は毎日書くも

        • 眠れぬ夜に聴こえる子守唄

          どうにもこうにも寝付けない夜だった。 梅雨が明けて唐突に訪れた暑さのせいなのか、それとも日中の昼寝のせいなのか、真っ暗にならない夜のせいなのか。 夜が明るいと感じるようになったのはいつからだろう。 新宿という街の夜に慣れたからかもしれない。 都会の夜に月の灯りなど必要ない。 もう私が知っている夜に真っ暗な夜などないのだ。 ひどく寂しい気持ちになった。 布団に横たわる私の耳に、遠くの方の車のエンジン音が届く。 車が止まる音がする。 信号が変わったのだ。 誰のためにその車

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          夏の夜 波の音 2

          「先生なのにいいんすか?」 「先生だからだよ。」 その数時間後、自分はその女の家にいた。 その女は高校の教員で、美術を教えていると言っていた。 「こんな遅くに、こんな若者がふらふらしてたら危ないでしょう。どうして家に帰りたくないのか分からないけど、帰りたくないのならせめてここにいなさい。」 その女が友人らと一緒に去っていった後、友人の1人の女が戻ってきて、 「トイレ貸してもらったんなら、ラインくらい教えてあげないとねー」と言って、その女の携帯を差し出してきた。 自

          夏の夜 波の音 2

          夏の夜 波の音

          その女と出会ったのは、夜の江ノ島の海だった。 調理の専門学校に通いながら、夏の間だけ江ノ島の海の家で土日にアルバイトをしていた。 その日は8月の一週目の土曜日で、昼間から客が絶えなかった。 夜もBBQの客が数組いたり、海で泳いでそのまま流れで飲みにくる客もいたりして、とにかく騒がしかった。 店は夜の8時には閉まる。 店の電気も全て消し、トイレやシャワールームにも全て鍵をかける。 店長や他のスタッフはとっくに帰って行ったが、自分は家に帰りたくなく、店の前のビーチ沿いの

          夏の夜 波の音

          あの子の乱れた髪を、もっと丁寧に直すべきだったんだ。

          彼女はまだ11歳だというのに、 もう既に生きることに疲れたような目をしていた。 そう考えるとすごいことだ。 まだ11年しかこの世に生きていない子どもが、 円周率について学んだりするのだから。 「ねぇ、おねえさん。 わたし最近こんなことを思うの。 どうしてわたしは、わたしなんだろうって。 わたしの魂は、どうしてこの身体と一緒になったんだろうって。」 バス停で私の隣に立つ彼女はそう話し始めた。 彼女とはほとんど毎朝同じバスに乗って駅まで行っていた。 時々姿が見られない時

          あの子の乱れた髪を、もっと丁寧に直すべきだったんだ。

          彼女が僕を抱きしめるとき

          あのね うーんと なんていうのかな えーと 彼女は僕を叱る時いつもこうだ あのね うーんと えーと えーとね 懸命に言葉を選んでいるのだ そこに確かに存在している怒りというものすべてを隠すために 彼女は懸命に言葉を選んでいる そんな彼女を僕は愛おしく思うし そうやって自分の中の何かを削りながらも 僕のことを叱ってくれると 素直に聞きたいと思える "だって" とか "いや" とか いろいろ反論はできるけれど しない そもそも言い争うことをしたくない 「分かっ

          彼女が僕を抱きしめるとき

          ブレない女

          「俺振られた時めっちゃ辛かったもん」 そんなこと言われて驚いた その子のこと振った記憶もないし、付き合った記憶もないし、告白された記憶もなかったから。 「でも本当にブレないね」 彼と久々に会ったのは、1年半以上ぶりだった。 もっと長い間会っていなかったような気がした。 振ったことを忘れるくらいだもの。 やりたいことは諦めて、まともに仕事につくべきだよなぁと話すまだ23歳のその男の子に、 周りの目なんて気にする必要ないし 社会の評価じゃなくて、自分の評価で生きた方が

          ブレない女

          ↪︎平成が終わるときにかいた詩

          大晦日のテレビ番組を見てると死にたくなるから 毎年テレビのない部屋にこもって好きな音楽を聴いてすごしている 昨日と変わらない今日なのに特別になったりするから だからぼくは明日だって今日と変わらない日を送るんだと意地になったりする 分からない言葉を分かったようなふりして 愛し方も分からないのに、愛してる気になって 愛されてなんかいないのに愛されてる気になって 平成が終わるよ 平成も終わるんだからさ

          ↪︎平成が終わるときにかいた詩

          ↪︎月が見えない夜にかいた詩

          東京タワーを見て思い出す男の子と スカイツリーを見て思い出す男の子が違うっていうのは なんだか感慨深いよね 東京っていいとこだなぁと思う どうしても私の過去の恋愛遍歴リストにあなたの名前を連ねたくないんだよ その結果がこれです 人類レベルで人を愛せるから 男女の友情なんて当たり前な人間だってことだけ言っておきます 夜に聴きたくなる曲 1人になりたい時に聴きたくなる曲みたいに ある時ある瞬間に求められて必要とされる音楽が羨ましい 私も音楽になりたい ある一時だけ思い出

          ↪︎月が見えない夜にかいた詩

          99匹も愛して1匹も愛する

          もっと丁寧に人を愛したい 『今目の前にいる人を世界で一番大切な人だと思って接しなさい』って お気に入りの神父が言ってた言葉を いつでも心に留めているつもりでも 時々"大切にするってどうゆうことだ" って思ってしまう時がある なんの取り柄もない自分が あなたの道具として生きていこうと決めたのはいつだったっけ 毎朝起きると 私は話を聞いてもらうことを望んでいる人のところへ行く わりとフットワークは軽いから 慰めの言葉を求めている人のところへ行って 優しい言葉をかける 私は

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          Pie-in-the-sky meets

          「語ってもいいですか」 僕のことをどう思っているのか聞くと、その女はそう言って語り始めようとした。 軽い気持ちで聞いたつもりだったが、軽く腰を持ち上げて座り直し、僕の目をじっとみつめて言うもんだから、僕は一度それを制して、ビールを一口飲んでから、胸を撫で下ろす動作を大袈裟にして見せた。 そして、どうぞ、と言った。 「まず、1つ目はですね、あなたのお仕事に惹かれました。 私も本が好きだから、本の装丁ってどんなことするんだろう。 どんな想いをもって仕事してるんだろうって単

          Pie-in-the-sky meets

          沈黙は承認のしるし

          ボルドー色のニットのドレスを着た自分が鏡に写っている。 特別な時にも着る服だけれど、カジュアルな場面にもさらっと着てしまう服である。 彼と車で2時間ほどかけてビーチに行った時にも、この服を着ていた。 風が強く、凍えるほど寒い日だった。 部屋に戻りベッドに横になると、彼は私の胸の中に顔を埋めてきた。 何も言わずに私はそれを受け入れる。彼は何も言わない。 だから私も何も言わなかった。 腕に彼の頭の重みと冷たさを感じた。 見ると彼は静かに泣いていて、ボルドー色のドレ

          沈黙は承認のしるし

          詩をよむ女の子

          6歳の女の子がはずかしそうに 絵本の詩をよんでいる 「あいするってどういうかんじ」 まあるい雰囲気が辺りをつつみ 兄ちゃんはテレビゲームの音を消す 鳩が屋根の上をスレスレに飛んでは 空高く舞い上がり たのしそうに、はしゃいでいる 鳩はどんな詩をよんだ それから 女の子は何度も詩をよみ それから 詩集を机の中に置き忘れ それから 詩はよめなくなって それから まわりの雰囲気は変わっていって それから なんだか少し寂しくなって 机の前に立って、何かここらに大切な 何かを無くし

          詩をよむ女の子

          活字をよむ女の子

          活字を読むのが好きなので、 よく分からない資料の文章を読むのも好きです。 本は常に持ち歩いています。 大地震が起きて、 電話も電波も繋がらなくなった経験をしてから、 携帯電話の充電が切れちゃって、 音楽も聴けなくって、 何もすることがなくなっても 本が読めるように。 活字を読んで心を落ち着かせられるように、 いつでも本を持ち歩くようになった。 人生の時間に対しては、かなりケチなところがある。 活字を読んでいるから、時間を有効に使っているということには、もちろんならないが

          活字をよむ女の子