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2024.04.10 UEFA Champions League 2023/24 ベスト8 レアル・マドリーvsマンチェスター・シティ

・はじめに

おはようございます。こんにちは。こんばんは。
前回書いた10月のジローナ戦に続き、今季の転換点になりそうな試合をマッチレビューの形で記録しておきます。

以下、スタメン。

両チームのスターティングメンバー

ホームのマドリーは少しサプライズ的な前線の並びでこの大一番に臨む。
4-2-3-1のシステムを採用し、左サイドでのプレーが得意なヴィニシウスを中央最前線に配置。トップ下のベリンガムとコンビを組ませた。
そして、直近のアスレティック戦で左サイドから2Gを記録し好調のロドリゴをLSHで起用
試合前から最大の論点となっていたリュディガーの相方CBには中盤が本職のチュアメニを添える。

対するシティはウォーカーとアケが不在
しかし、なんだかんだ4CBで組めるぐらいには人がいるDFラインよりもシティ視点で痛かったのは、直前で体調不良を訴えたデ・ブライネの起用が叶わなかったことなのだろう。
代わりに中盤に入るのはなんか毎年会っている気がするコバチッチ。
グリーリッシュとベルナルドという昨年のCLでも苦しめられた両翼の無限正対ゲイン構成に、今季更に欠かせない戦力になっていると聞くフォーデンが中央、最前線にはハーランドが鎮座する前線4枚の組み合わせ。

・試合内容

開始1分。
ポジトラで抜けてきたグリーリッシュをファウルで止めたチュアメニがイエローカードを貰い、2ndLeg出場停止が決定。
そのFKからルニンの謎ポジショニングも相まって失点。早々に1点ビハインドの状況に。
初手から論外ではあるが、気を取り直して試合内容を振り返ろう。

・“中盤空洞化“のリバイバル

この試合に臨んだマドリーのキーワードとして“中盤空洞化“を挙げたい。
数年前、コンテ式ユヴェントス/チェルシーやミシャ式浦和レッズ等の存在によって改めて注目されたこの戦術は、中盤に人を配置することに拘らず、横幅を拡げながら前後に選手を分断させ、ピッチ中央のスペースを能動的に空洞化させるものである。
主たる目的は後方の数的優位によるボール保持の安定と、前線へ送り込む複数人の選手で相手最終ラインに負荷をかける攻撃、そして相手中盤の後方からの連動したプレスを牽制して敵のハイプレスを抑制することが挙げられる。

中央3レーンを彷徨う2枚のIHやストーンズの列上げ(俗に言う偽CB)を使ったドブレピボーテ化など、あの手この手で中盤のゲーム支配を目論む姿勢を見せるシティに対し、この日のマドリーのアプローチはそのアンチテーゼにすら映った。

中盤空洞化の概略図

保持フェーズのポイントは3つ。
①ビルド隊にGKのルニンも組み込んで後ろの数的優位を担保しつつ重心を落とすこと。
②クロースに自由を与えて相手の手が届かない位置に安全弁を作ること。
③前線の的を複数確保しつつ手前・裏・大外のパスの選択肢を持つこと。

①被プレス下でボールを回して保持する際、数的優位を作る必要があることは当然である。
シティの守備は基本ハイプレスと4-4-2型のミドルブロックを使い分ける。
それに対してマドリーは、「GK+2CB」で3枚、「+クロース」で4枚、大外の「+カルバハル」と「+メンディ」で6枚、といった具合に常に後方で数的優位を確保。
加えて、自陣ボール保持で重要なのが重心を無理に上げすぎないことである。
中盤空洞化の目的は中盤に余白を作り、前線の選手が降りること等を通してそのスペースを後出し的に活用することも含まれるため、重心を上げて下手に圧縮してしまうと効果が半減する。
「前と後ろの距離感が離れる」というシンプルな懸念事項はマドリーのストロングポイントであるキックのレンジと精度でカバーできるため然程問題にはならない。

②「自陣CBとSBの間」即ち相手の手は届きにくいが、考え無しに使うと被プレスで嵌められやすいエリアにチームで最も技術のある選手を送り込むアプローチはアンチェロッティの得意技。
そして、この日も御多分に洩れず自由に保持を司るクロースがそのエリアを活用していた。
ボールを預ければ奪われることは無く、パスを届けた味方に時間を配ることができるクロースが保持の安全弁として機能し、チームに齎したシティのプレスに対する抵抗力は、この日のゲーム運びに大きく寄与した。

③距離感が広がる分、主体はやはりロングフィードや長めのスルーパス。
しかし、単純に蹴るだけではなく、ベリンガムの強度と高さで競らせる、ヴィニシウスは裏のスペースを狙う、大外のバルベルデやロドリゴを狙ってボールを逃す等、受け皿の選択肢を複数用意していたことがポイント。
正直、個人的に思っていたよりもこの策は上手く機能しており、定期的にフィニッシュまで移行できていたのは好印象。
理不尽にロングボールを収める、もしくは収められなくとも簡単には競り負けない前線の奮闘はこの日の計画を遂行するために必要不可欠であった。

上で挙げたが、中盤空洞化のメリットは守備面にも。
相手の中盤(主にドブレ位置)に対し、前プレで中央にスペースを空けてしまうジレンマを突きつけることで後方からの連動したプレスを牽制し、ハイプレスを抑制する効果が期待できる。
反対に空洞化した状態で自分達が安易にボールを失うと、広大なスペースを侵攻される危険性があるが、そこはバルベルデやカマヴィンガの可動範囲でカバー。
広いキックレンジと精度の高いパス能力、そして広範囲を動けるアスリート能力を有した選手が名を連ねる今のマドリーに自然に適応する形とも言える。
(なんならここ数年その気配がありながら歩んで来た節もあるが)

中盤空洞化をベースに相手陣内に攻め込む糸口を掴んだ後は、シティ守備ブロックの外から左右にボールを展開しつつ隙を伺うシーンも。
そこで産まれたのがマドリーの同点弾となったカマヴィンガのミドルシュート。

マドリーの1点目のシーン

この試合の攻撃の基本線はカウンター。
その分押し込んだ後のフィニッシュ設計には苦戦するかと思われた矢先、最初に訪れた押し込み局面で「連動した前線のフリーランの噛み合わせ+直近そこまで良い印象のなかったカマヴィンガによるブロック外からのミドルシュート」で得点を産んだ事実は、“試合を繋ぐ同点弾“という意味と同等のインパクトを残すエンタメ性があった。

序盤からハイペースで進む試合展開には、攻守4局面一瞬足りとも気を抜けないハイレベルな攻防が顕在化しており、改めてこの試合に挑むマドリーの中盤空洞化アプローチは異端なものとして目に映った。
我が道を謳歌し、ポジショナルの概念に囚われないマドリーがマドリーたる所以である。

・意表を突く前線配置転換策で促すリレーショナルの考え方と少しばかりの弊害

“計画はヴィニシウスを9番、ロドリゴを左サイドで起用し、シティを驚かせることだった。上手くいったと思う。満足している。“
“自分が今日左サイドでプレーするとは誰も予想だにしなかったと思う。“

マドリーが仕掛けたブラジルコンビの配置転換策はこの試合最大のトピック。
表層的に捉えられる意図としては、ヴィニシウスの守備負担軽減やロドリゴの直近の好調と志向するプレーによるもの。
加えて、最大の目的はもっと根本的なリレーショナルプレーの促進にあると推察する。

実際、この2人で完結させるカウンターからマドリーは2点目を奪う。

マドリー2点目のシーン

グリーリッシュのクロスをキャッチしたルニンがカウンターの嚆矢。
(少し脱線するが、ここで改めて触れておきたいGKがクロスをキャッチするプレーの有用性。
今季覚醒中のルニンが得意とするこのプレーが起こる状況を紐解くと、「相手がかなり前がかりになっているため後ろには大きなスペースがある+GKは手でボールを扱っているため絶対にボールを奪われることがない起点になっている」というカウンターに打ってつけの状況下であるということになる。)

ルニンのスローからクロースを経由し、左ハーフレーンで降りてボールを受けたヴィニシウスがストーンズを釣り出しシティのDFラインに歪みを生み出す。
前を向いて少し運び、ロドリゴへスルーパスを通す。
受けたロドリゴがギリギリまでGKと駆け引きしながら股下を通す技術の詰まったシュートでこの試合も得点を記録。

中央からフラフラと左サイドへ寄り添い、隣を駆け上がっていく選手とのパス交換を介して2人で前進していく。
かつて抜群の関係性を構築したフランス人CFと共に好んできたプレーを、ブラジルの同胞と再現してみせたヴィニシウスが積み重ねてきた引き出しの多さと無限大の可能性。
そしてそんなリレーションシップを軸に用意した策を、確りとチームに落とし込み、大一番でぶつけたアンチェロッティの手腕には脱帽である。

非保持に目を移すと、シティはウォーカーの不在が確定していたこともあり、この試合のLSH位置の選手にはそこまで守備力を求める必要がないことはある程度予測できた。
加えて、去年使えなかった単騎で守れるLSBメンディの存在もロドリゴをLSHで起用する助けになったことも推察される。

この流れで併せて触れたいのがこの日のベリンガム。
前述の通り、LSH位置に守備要員を置く優先度が低いこの試合では最前列でのプレーに集中。
持ち前の運動量で75回もの高強度のプレスをかけた守備での奮闘が目立った。

しかし今季のマドリーにおいて、主役中の主役と言って差し支えないほどの活躍でファンを惹きつけてきた彼は、この日脇役としての働きにとどまってしまった印象。
なぜなら、彼の持つクオリティと照らし合わせた時、肝心の攻撃で目立つシーンが少なかったことは物足りないパフォーマンスとして受け止められるからである。
後半52分、ボックス内の切り返しで相手を躱して左足で放ったシュートが枠外へ逸れたシーン等は際たる例で、普段の彼なら決めていてもおかしくはない。
ヴィニシウスとロドリゴによる手数をかけない攻めを志向する中で、イマイチ同じリズムに乗り切れなかったことも1つの理由であろう。
2ndLegでどのように整備されるか、ここは1つ注目ポイントである。

アンチェロッティが用意した策には思わぬ弊害が生まれたものの、彼が試合後インタビューで述べた通り、概ね計画通りに試合自体は運ぶことができた印象を受けた。
また、ヴィニシウスのこの起用法に目処がつけば、更に選手起用の幅が広がるため、未来への希望となり得る試合であることも感じさせた。

・オープン/クローズド両対応の守備を支えた2人のドイツ人

この日マドリーの守備を支えた選手を敢えて挙げるならば、リュディガーとクロース。

ベリンガムを1stプレス隊として運用し、機を見たハイプレスを敢行したマドリー。
当然、前から嵌めていくと後方には広大なスペースが生まれる。
そんな懸念事項に対してアンチェロッティが用意した解決策は、従来の守備のセオリーを無視する狂気的なものであった。

リュディガーを軸にしたマドリーの守備

上記の図は相手陣内からのFKを切り取ったもの。
見て分かるように、リュディガーが1人で最後尾に残ってハーランドとタイマン勝負させられている。
前の嵌め方から考えても、寧ろ「ハーランド目掛けて蹴ってください」と誘導しているようなものである。
相方CBのチュアメニを1列前に上げているため、余らせたカバーもいない。
(SBがボールの移動中に内側に絞っていく素振りを見せていたのでこの2人が一応のリスクヘッジ要員だとは思う)
マドリーはこの試合、リュディガーに守備の自由を与え、どちらかと言うとライン管理よりハーランドを封殺することを優先させる強気な手法を取っていた。

オープンスペースの1対1を99%ではなく100%で勝つ前提で組み込み、ラインは無視して単騎で怪物を封殺させる。
セオリーから外れた常軌を逸したハーランドシフトは今季積み上げてきたリュディガーへの圧倒的な信頼の結晶である。

反対に、ボール保持に強みを持つシティに押し込まれた後のクローズドな展開に目を移す。
この試合におけるマドリー自陣守備ブロックは、集中力を保ったかなりレベルが高いものを出力できた印象。

マドリーの4-4-2型ブロック形成概略図

ヴィニシウスとベリンガムを前線に残した4-4-2型の守備ブロック。
巧みだったのが、中盤ラインと最終ラインの間隔の管理。
ラインを下げすぎず、ボックス内に侵入させないこととライン間のバランス感覚の意思疎通を通して、シティの前線からスペースを奪うことができていた。
特にライン間を漂うフォーデンを管理しながら中央の密度を維持し続けたクロースが凄まじく、管轄内に入ってきたボールホルダーを上手く潰すのは得意技。
定期的に守備力を不安視されるベテランMFが明らかなブロック守備のキーマンとなっていた。

もう一つ面白かったのはバルベルデの使い方。
近くのコバチッチの監視と前進してグヴァルディオルへのチェックをメインタスクとして設定し、グリーリッシュ対策として考えられるマドリーの手札「擬似5バック化」は選択しなかった。
クロアチア人絶対許さないマンとしてあくまでも中央の密度を高めつつ、機を見た対面ボールホルダーへのプレスでショートカウンターの怖さも植え付ける。
それに伴い対面のWGを1対1で封殺する必要があるカルバハル(と逆サイドのメンディ)の健闘も見逃せない。

しかし、このような質の高いブロック持ってしても、たった二つの一瞬の隙を突かれ、立て続けにゴラッソを食らってしまうところがCLというハイレベルな舞台を象徴していた。

シティの2点目のシーン
シティの3点目のシーン

どちらも正直相手のシュート技術を褒めたいが、原理としては同じような形かつ予想が容易いパターンではあった。
WGの正対ドリブルによって相手を押し込みラインを下げさせ、ポケットの守備対応を強いることでブロックに歪みを生み出すところからマイナス方向にボールを送り込んでゴール前にできたスペースからミドルシュートという形。
このプレーはシティにおいて再現性の高い形であり、2ndLegまでに対応を整備しておきたい事項である。

その後はあの何度でも観たいバルベルデのボレーシュートで同点に追いつき、時間経過と共に若干オープンになる展開の中、両者選手交代を交えて1stLegでのアドバンテージを狙う。

しかし、試合のスコアは3-3のまま動かずドロー。
アドバンテージを得られないまま2ndLegでエティハドスタジアムに乗り込むことに。

・まとめ

昨季のリベンジを果たすため、中盤空洞化を現在の自分達に適合させる自然な形で復活させ、局所にリレーショナルな工夫を施しつつ一定の成果を得た試合。
引きすぎることもなく、かといって無謀なチャレンジもしない。
絶妙なバランス感覚の守備をベースに、前線の走力・強度・技術を活かしたカウンターを打ち込んで好ゲームを演出した。
最悪の1失点目で崩れることなく、カマヴィンガのゴールから上手く立て直したところには心的な強さを感じ、CLのマドリーらしさが表れていたようにも思う。

しかし、3失点を喫した守備はまだまだ改善の余地があり、特に1失点目は絶対に避けたい失点。
再現性の高い形から食らった残りの失点も合わせ、2ndLegに向けて修正を施してほしいポイントは確かに存在する。
特にこの試合と同じCBコンビを組めないことが確定していることもあり、尚更守備陣の整備は必要不可欠である。

理不尽なゴールの応酬となったCLベスト8の舞台は、緻密な駆け引きと積み上げてきた信頼ベースの戦術の上に成り立つハイレベルな試合となった。

タイミングもいいので2ndLegの展望として軽く個人的キーワードを。
「クロス対応」、「撤退/ハイプレスの判断精度」、「視線を振った中央ブロック崩し」の3本です。
2ndLeg、勝ちましょう。

・おわりに

ホームで3-3。勝ち切ってアウェイに乗り込みたかったのは本音。
が、そこまで悲観するものでもないのかな〜と思うのは自分が今季のレアル・マドリーを信頼しすぎているだけでしょうか。

稚拙な文章、お読みいただき誠にありがとうございます。

※画像はTACTICALista様、レアル・マドリー公式様を使用しております。

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