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観劇記録|『父と暮せば』

劇団フロンティア 第107回公演
『父と暮せば』
作|井上ひさし  演出|鮫澤祐二

2023年4月15日(土)19:00の回(初日)
中央やや右側で観劇

劇団フロンティア、久しぶりのシアター公演。
某公民館から引き揚げたパイプ椅子がお目見え。手作りのベンチは間隔が狭かったり、目線が下気味になるので、パイプ椅子の導入は喜ばしいと思う。お客様からの反応はどうだったのか気になる所。環境が観劇を遠ざける理由になるのは悲しいので、観やすい環境があるというのは良いと思った。

劇団フロンティア、今回のキャスト、スタッフ等については、その人たちの人柄や裏側でどんなことがあったのか少しではありますが話に聴いています。そのことも感想に反映されていくと思いますので、純粋に観劇の感想を読みたい方のご期待には沿えないと思います。それでもよいという方のみ、読み進めていただければ幸いです。

はじめに

この役者だからこそ見られるものを

劇団フロンティアの『父と暮せば』を観るのは何度目かわからない。初演の美津江(岸本美佳)、ニューヨーク公演の美津江(佐藤潤子)、そして今回の3代目美津江(堀川綾香)と、稽古を含め、幾度となく見てきた。

同じ作品を上演し、演者が変わっていくとなると、何をどう楽しむか、見所をどこに置くか、という部分が面白さだと思っている。この役者だからこそ見られるもの、この役者だから意味があるもの、など、再演するからこそ見て欲しい部分というものが付加価値として無いと、同じものを上演する魅力というのが薄くなってしまうような気がしている。

今回稽古をする中で、「この役を自分が演じる必要はあるのか。それだったら自分じゃなくてもいいのではないかと思ってしまう」、という話を聞いた。私も同じようなことを自分の公演稽古で思っていた時だったので、共感した記憶があり、よく覚えている。

本人の杞憂かもしれないし、実際は本人が思っているよりも出来ているかもしれない。まずは作品を観てから、と思い観劇に赴いた。

初日だったが、お客様の雰囲気が良かった。終盤、父と美津江のジャンケンのくだりでは、すすり泣くお客様の声も聞こえて、伝わるものがたくさんあったのだと感じた。本人の役としての魅力は別として、キャラクターの持つ根本からのものを伝えることはできていたと感じた。本人の意図や想いと一致しているかは分からないが、後半はこの役者らしい美津江を感じた瞬間もあったと私は思った。

私はその役者らしいお芝居やキャラクターを観るのが好きだし、自分も、自分だから役者として参加してほしい、自分だからこの役をお願いしたいと思われてお芝居をやりたいと思う。演じる時も自分だからできる表現やキャラクターであるようにと思っている。

今回の美津江は、私の知るこの役者としては、もっと別のアプローチ(演出)をしてほしいと思った。美津江の持つ、根の芯の強さ、意思の強さ、生きたいと思っている力、みたいなものは今回の役者さんが持つ良さと通じていると思う。それを、「整った綺麗さ」みたいなもので包まれてしまったような演出はこの役者さんにはフィットしていないなと思った。どちらかというと、粗削りでも、自分の気持ちと戦う姿の方が見ている人の心を打ったように思う。初演の役者さんのイメージを求めているのであれば、初演の役者さんを起用したらいいと思うし、それができないのであれば、今回演じる役者さんだったら、初演の役者さんのイメージをどう反映させればより魅力的になるのか、など考えて欲しかった。

それでも、違う側面の美津江の良さはあったと思うし、この透明感はこの役者さんだからこそのものだと思った。この透明感を生かしつつ、根本のものが、この役者さんの表現で現れれば本人も納得できたかもしれない。


戯曲の力を再認識

久しぶりにこの作品を観たが、あらためてこの戯曲持つ強度を感じた。
最初から最後まで無駄がないシンプルさがあるのに、全てが必要で同じくらいの強度で書かれている。観劇しながら台本が透けて見えるのは良い方向とは思っていない。それでもお芝居自体が悪いように思えなかったのは、この作品をとりあえず舞台にする、というところまででも観られるものにさせてしまえる戯曲の力なのだろうと思った。

序盤の日常と終盤の落差が大きいが、それが表裏一体となって日常が送られているというのも私は好きなところだ。日常のほのぼのパートと凄惨な非日常が繰り広げられる、「ひぐらしのなく頃に」や「がっこうぐらし!」が好きな私の好みにもあっているのかもしれない。

そう考えると、序盤の日常が明るければ明るいほどその裏に潜み続けている問題や感情が大きく見えるかもしれない。匙加減は演出次第だが、役者さんの力量にあわせても良いかもしれない。
そういう風に演出として自由に幅が作れ、戯曲もある程度の幅や強度を作ってくれるのはとても心強い気がする。

普遍的な人間の生きる力や生きたいと思う力など、どの時代でも共感できるものが根本にある作品だとあらためて感じた時間だった。





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