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観劇記録|『これから正義の話をしようゼ』『檸檬日和』

とやまジェットシアター 旗揚げ公演
戦うか、逃げるか~Fight or Flight~

『これから正義の話をしようゼ』
作|歳岡孝士  演出|中島亮
『檸檬日和』
作|伊吹一   演出|中易百恵

総合演出 西村まさ彦

2022年4月16日(土)17時45分の回
at 富山県民小劇場オルビス 後方上手側より観劇

西村まさ彦さん主宰の俳優塾W.V.A.より発生した劇団、とやまジェットシアターの旗揚げ公演を観劇。1期生、2期生による公演。
観劇後、なかなか感想が出てこず、ここにまとめることもできないかもしれないと思ったが、整理する意味でも何かしら残しておこうと思ったため、観劇記録として記載する。


『これから正義の話をしようゼ』

ストーリー

正義のヒーロージャスティス・ファイブが悪と戦い、必殺技を決めるシーンから物語は始まる。戦いを終えた彼らは、正義のヒーローとは思えない様な力の抜けた、やる気の感じられない様子をしている。ただ一人、レッドの甘寧大雅(阿閉三興)のみが熱血感のある様子で、悪の幹部・カスミのジョー(森田亜美)を追いかけていた。
戦いの内にカスミのジョーの正体が、知り合いのかすみさんであることに気が付いた大雅は、話し合いにもつれ込む。ところが、大雅のやっていることが本当に正義か、悪側にも正義や家族がいることを知り、正義が揺らぐ大雅。
そこへパワードスーツなどを開発提供している博士・氷浦鏡四郎(山本竜征)が現れる。氷浦とかすみの過去が気になる中、氷浦からかすみを捕まえろと命令される大雅。結局、かすみは氷浦とは道を別ち、困難な自分の正義の道を進むことにし、氷浦の後押しを受けた大雅はかすみを追いかけるのであった。

この作品全体の感想

演劇を初めて、1期生は2年目ということもあり、技術的にはできることが増えていた、という印象だった。とにかくテンポ良く台詞をつなぎ、作品全体のスピード感を出し、見ている人の気持ちの良いテンポで進めているという感じがした。殺陣シーンも初演から一新され、衣装なども合わさって世界観が何となく表現されていた。

ただ、テンポに全振りしたせいで、それ以外のニュアンスや表現、キャラクターなどがすべて消えており、中身が感じられなかった。この台本はもう少し面白かった印象があったのだが、台本自身が面白くないという印象になってしまった。先の展開も台詞も知っているのに、全く台詞が入ってこなかった。個々のキャラクターも良さが見えず、台本が透けて見えてしまったため、自分で読んだ方が面白く感じられたのではないかと思った。

個人的には、稽古の状態や諸々等も予想でき、稽古時間などの兼ね合いで「公演にするには、お客様に入ってもらって見せるにはこうするしかない」という印象もあるのだが、役者の良さが全く見えず、とても窮屈そうにお芝居をしているのが気になった。もっと伸び代を感じていたのだが、それが今回感じられなかった。技術的に向上したのかもしれないが、最初の台詞から声が枯れているのが目立ち、最後まで(この後上演した『檸檬日和』に至っても)気になってしまい、世界観に最後まで入っていけなかった。

照明のオレンジ系の光はきれいだったが、終始単調な感じがした。音、特に効果音にお芝居が負けている感じがした。お芝居とのバランスもあり、照明、音響的にはこれ以上のことができなかったのかもしれないが、残念だった。選曲はあまり気にならなかった。ジャスティスレッドの必殺技も光で演出効果が付いていたが、分かりにくく感じた。台詞の単語とお芝居のアクション、台詞の強さなどのバランスが悪く、こじんまりとした印象だった。


お芝居/役者について

博士・氷浦鏡四郎の、背の高さを生かした不気味な印象がサングラスの雰囲気もあり、面白かった。お芝居が綺麗だったので、どこかで不気味さや気持ちの悪さが出れば、かすみが氷浦と別れた感に納得する気持ちに説得力が出たように思う。
大雅の面白さがあまり感じられなかった。アクションや動きから正義感を感じることはあったが、内情的な正義感が感じられず、感情移入できなかった。それっぽさが見えてしまい、心からの正義感があるのかという疑問があった。
思ったよりもピンクの真面目さが新鮮に感じられて面白かった。
イエローは個人的にそういう感じじゃない方が役者の個性が出たのではないかと思う。見た目的にあざとい系女子も狙えると感じた。

台詞を言うことに一所懸命になって、それ以外の部分には手が回っていないような印象を受けた。こういったアクション要素があり、テンポと間で面白さを出していける作品は上辺だけになりがちだが、全てではなく、どこかのポイントに真実味やリアルな部分を潜ませておくと説得力が出ると思う。そういった部分を演者自身が考えて仕込んでいったような形跡が見られず、言われた通りにやっているだけ、という感じがしてしまった。台本から、自分の役割だけでなく、展開や何を魅せていく必要があるのか、どうしたら面白くなると思っているのかなども全く読み解けていない印象だった。
言われた通りのことができるのももちろん必要だが、言われたことだけやっているのであれば、それは誰でも良いのではないかと思う。そういった意味でも、この作品をこの役者たちがやる良さが私には見いだせなかった。


『檸檬日和』

ストーリー

松本生花店のひまり(榊原明子)と裕希斗(武内良樹)は、花屋のオープン前日で店内の準備をしていた。そこへやってきたひまりの父・吉行(若林稔)だったが、ひまりとの会話から花屋をすることに対してや親子の不和を感じさせるのだった。
その後、オープンの準備を進めていると、店の前に女子大生の白木佳奈(森田亜美)が通りかかる。何気ない会話をしていると、さらに大久保元基(山本竜征)が花を買いにやってくる。ちょっとした記念日で花が欲しいという元基。その記念日とは、5年間引きこもっていたが、今日ある動画を見たのがきっかけで外に出てこられたことだった。その動画に興味を示す佳奈。2人は何か近いものを感じ、共有した空気を持ちながら別れるのだった。
その後、不動産屋社長の浅田昇(福田敏彦)と、その部下であり、ひまりの同級生・西凌真(阿閉三興)がやってくる。去り際に西は花束が欲しいと言い、それはカフェの気になる店員にプレゼントするのだという。高校生の頃に自分のことが好きだったのではないかとひまりは西に言い、図星の西だったが、そんな西が新しい恋に向き合うことを応援するとひまりは言うのだった。
夕暮れの時間帯になり、夏目浩平(木山紘臣)が見つけてきたお店で、棚を貰うため交渉に出かけた裕希斗。店に残り準備を続けるひまりの元に、差し入れのドーナツを持って吉行がやってくる。喧嘩腰のひまりといつものように受け止める吉行。ドーナツの思い出を話しているところへ、裕希斗が返ってくる。
ひまりのことを話す2人は次第に打ち解けるが、ひまりと吉行はまだぎこちないままだった。そして、ドーナツの思い出に対し、ひまりが思っていることを吉行に伝えると、ふたりの間に流れている空気が少し優しくなるのだった。
そして花屋オープン当日。朝からお店の前には佳奈や浩平、西らがやってくる。花束を渡したいから来て欲しいと言われた元基もやってくるのだが、肝心の裕希斗は道が渋滞していて、仕入れ先から遅れているという。やきもちして待つ全員の元に、元基は花束を抱えてやってくる。車は途中で置いて、走ってやってきたのだという。そして、花束を元基に渡し、遅れて吉行がやってくる。お祝いの言葉と、手作りのドーナツを持って。


この作品全体の感想

シンプルな台詞と箱馬の舞台セットでアクティングエリアを狭めつつ、登場人物が入れ代わり立ち代わり出てくるオーソドックスな台本だと感じた。入れ代わり立ち代わり出てくる構成は、昔の高校演劇的な印象も受けるが、作品全体から大人の作品として感じられた。

ドラマシナリオを書かれている方の作品ということもあるせいか、舞台というよりはテレビドラマを思わせるような雰囲気、空気感、台詞のチョイスの様に感じられた。大きく動きを付けづらく、この劇団、役者に対しては難しい作品だと感じた。
私はこういうシンプルで派手さのない作品は好みなので、台本は難しいものの、台本が読めて表現できる役者が演じれば、とても雰囲気の良い作品に仕上がるのではないかと思った。大人な作品だと感じたゆえに、お芝居も大人の芝居が求められるのではないかと思った。

全体的にBGMが多いのが気になった。お芝居だけで魅せられないという判断で音楽を多用していたのであれば台本が難しいという気がするし、演出として使用していたのであれば、演出過剰に感じた。(個人的には前者だと感じている)また、環境音も、不自然な所で音量が大きくなる箇所があり、台詞と被さった個所では、「笑わせたいのかな?」と思うようなタイミングで入っており違和感があった。照明は夕方のオレンジ系の光が印象的だった。ただ、ラストの檸檬の苗木に光が当たる所は、さほどそれまでのお芝居で檸檬が印象的に残っていないのに注目させられ、それもまた違和感があった。


お芝居/役者について

全体的に感じたが、台本が読めておらず全編に渡って感情移入が出来なかった。台詞から台本が透けて見える状態だった。特にひまりと吉行の会話が成立しているように感じられず、違和感しかなかった。演出を出しているのに役者がそれを受けて表現しきれていないのか、演出からこの作品の裏側を読めていないのかわからないが、この作品の中心ともいえるひまりと吉行が描写できておらず、この作品がよくわからなかった。

舞台セットは箱馬を抽象的に使用していて、私は好きな雰囲気だった。箱馬を積み替えることによって色々と表現があり良かった。
その分、役と役の距離感が近いシーンもあり、違和感があった。最後のひまりと吉行がドーナツを食べるシーンでは、座る位置がお互いに近すぎると感じ、違和感だった。その距離感での、私が見たひまりのお芝居では成立しないのではないかと思った。お芝居を変えるか、ひまりの座る位置をかえるかしなければならないのではないかと感じた。

佳奈と元基は役者の経験から演じやすそうに感じた。佳奈の「なんで。なんで出てこられたんですか。」という台詞が良かった。役者なりに咀嚼し出せた台詞の様に感じられた。
元基のメリードーランドの動画を説明する長台詞も良い雰囲気だった。もう少し5年振りに外に出た感覚の喋り方、ドモり方、つっかえ方なども研究出来れば説得力が増したように感じた。
夏目も役割を果たせていて、成長を感じた。
西も役割をしっかりこなせていたが、ひまりに対して詰め寄り、花を買いたいというシーンはもう少し心情の変化が見たかった。ひまりに面と向かって言おうとして言えない部分は、ひまりに対してどういう心情で言い淀んだのかわからなかった。見た感じだと、ひまりに花をあげようとしているのかな?→実はカフェの店員にあげたい、という流れに見えたが、「ひまりに花をあげようとしているのかな?」という部分がごまかそうとしているのか、本当にカフェの店員にあげようとしているのかが分からず違和感だった。去り際のひまりとの「高校生の頃好きだったでしょ」という会話もすとんと落ちなかった。(これはひまりのお芝居も含めてすっきりしなかった)
ひまりは全体的に台詞の裏側が取れていないお芝居で、最後まで感情移入できなかった。ひまりというよりは、役者がところどころ相手役によって透けて見えていた。
裕希斗は根から真っすぐで誠意があっていい人、という役だと思ったが、根本の部分が全くなく、上辺だけの人に見えてしまい、説得力が感じられなかった。一緒に観に行った人の言葉を借りるならば、「いつも行く美容室の担当さんとの、営業的な会話で中身がない感じ」だった。逆に、そういった軽く、明るい人物像を描きたかったのであればよくできていたと思う。

個人的に、演劇の面白さは生身の人間が目の前で演じ、変化する空気、関係性、心情が感じられる音色などに面白さ(=自分が想像している斜め上の事象が起こること)を感じるところだと思っている。そういった演劇の面白さを表現しようという部分が感じられず、お客様に何を持って帰ってもらうかが希薄な印象を受けた。

1本目の『これから~』とも共通して言えることだが、中身が感じられず、形式的なお芝居のようなものを見たという感じだった。観劇後得られたものが無く、満足感が得られなかった。


公演全体について

受付、誘導から公演運営やお客様に対しての配慮が感じられず、それがそのままお芝居にも出てしまったように感じられた。
差し入れ等も沢山置かれている中で受付をされており、差し入れ受付とチケットの受付を分けたり、差し入れを管理する人員を置くべきだと感じた。誘導に人が立っていたが、中に入ってからの誘導が行われておらず、その分の人員を受付に回すべきだと感じた。

お客様を待っていたのか、開演時間が5分ほど押していたが、その際前説をもう一度流す、もうすぐ始まるという短い前説を入れてもよかったように感じた。時計を見ていたお客様も居たように思う。そうすることでお客様も安心できたのではないかと思う。また、幕間の転換が終わった後の時間が長く、お客様がどういう状態で居ればいいのか戸惑っていた。5分空くのであれば、幕間にその旨アナウンスを入れてほしかった。(あと、アナウンスが速い。もう少しゆっくり読んでほしい。また、アナウンスの内容には「私語禁止」とあるが、開演直前にそのアナウンスをされても意味が薄くなってしまうと感じた。)

また、開演前に下手の袖幕裏から声が聴こえてきており、下手側のお客様が気になってチラチラを見ているということもあった。私は上手側で離れていたが声が聴こえていたので、下手側のお客様はかなり気になったのではないかと感じた。同様に、スマートフォンの明かりの様なものも見られ、とても気になった。

こういった点から、お客様への配慮があまり感じられず、公演全体、この劇団の姿勢というものはこういうものなのかな、という印象を受けた。この劇団しか観に来たことがないというお客様も多いと思うが、そういったお客様にはこれが「当たり前」になってしまわないか不安に感じた。

チケットの価格帯も2,000円と、県内劇団の最高額となっている。それに見合ったものを今回私は観劇も含め、この公演全体でペイできたと感じられなかった。
県内で活動しているアマチュア劇団とは一線を画す劇団だと、その成り立ちや運営を見て思っている。お客様に対しての配慮等、経験やノウハウの蓄積が少ないかとは思うが、今後改善していってほしいと、同じ県内で演劇公演を行うものとして願っている。


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