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雑草ではなく、人間。

休日の昼下がり。田んぼに沿ったアスファルトの道を、身長100cmに満たない娘と手をつないでゆっくり歩く。

右側には田んぼが広がり、左側には母屋を守るブロック塀が連なっている。

田んぼのほうに目を向けると、足元で膝下ほどまで生い茂った雑草たちがやさしい風に吹かれ、サラサラと揺れている。

シロツメクサ、カラスノエンドウ、タンポポ。名前の知らない草も多い。

同じ場所、同じ環境で、多くの種類の雑草が生きているんだな。そう思ったとき、私の思考の旅が始まった。

ライター歴1年、未経験で始めてたいした実績もなくくすぶる私は、どの雑草にあてはまるだろうか。

きっと、名はあまり知られておらず、花も咲かせない地味な植物なのだろうな。

先ほどとは反対の、左側にあるブロック塀に視線を移す。足元には、塀に沿ってきれいに整列しているスイセンたち。

誰かが育てているのだろう。雑草に比べ、一つひとつの花が大きく、その色は鮮やかでよく目立つ。

たとえるならば、出版社に入社して着実に力を蓄えているライター、といったところだろうか。

歩を進めると、人がひとり通れる幅の路地に入った。娘とつないでいた手を離し、娘から先に一人ずつ前に進む。

地面には田んぼで見かけた種類と同じ雑草が、まだらに生えていた。田んぼで生い茂っていたものとは様子が違う。全体が小さく、茎も細い。地面にぴしゃんと、張りついているようだ。

ここには栄養がないのか? 母屋と母屋の間の路地で、日が当たりにくいのかもしれない。田んぼの周りに生えた雑草は、あんなにも生い茂っていたのに。環境の違いで、ここまで差が出るのか。

またしても、自分に置き換えて考えてしまう。

いまの私は、駆け出しのライターとして、どういう環境にいるのだろう……。

水があり、日の当たる場所にいると信じたい。ライターになって、これまで出会った先輩や仲間たちの顔が頭の中に浮かんで消えた。きっと、大丈夫。

視線が、地面から目の前を歩く娘の背中へと移る。ずんずん進んでいく小さな背中を見て、たくましさを感じた。

そうだ。私は人間だ。雑草ではない。どういう場所で、どういうライターになるのか、自分で選ぶことができる。

何をするか、何をしないか、それを決めるのも私なんだよね。

私が生きていきたいのは、誰かに必要とされて、相手と一緒に切磋琢磨できるような環境。

場所はどこでもいいけれど、見つけてくれた人が笑顔になるような存在になりたいな。

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