きよのみえこ

現在、神戸大学で教員をしています。こちらは、フィールドワークや大学内での実践のなかで起…

きよのみえこ

現在、神戸大学で教員をしています。こちらは、フィールドワークや大学内での実践のなかで起きた出来事について、思考を整理する場として、利用させていただいています。

最近の記事

妊娠・出産を経験して母性について考える

今年の1月に息子を出産した。息子と共に大学に顔を出すと、T先生に、「妊娠・出産を経て、ご自身はどのように変化しましたか?」と聞かれた。とっさに出てきた答えは「体」の変化だったが、質問の本質は「心や思考」の部分だとすぐに気づいた。しかし、すぐに答えられなかった。 妊娠・出産とは、人生においてこれまでに経験したことのない体の変化を感じるプロセスである。想像以上に伸びる皮膚、無尽蔵に続く食欲、急に鼻血が出てくらっときたり、内部から蹴られてウッと声が出る痛み、最後はとてつもない大き

    • 2022年度「獣がい対策」実践塾のお知らせ

      兵庫県丹波篠山市の高校生と、神戸大学等の大学生が地域の方々と一緒になって、獣害の問題を体験的に理解し、解決に向けた新たな企画を立案するこの企画、2018年から始まり、今年で5年目を迎えます。 今年のプログラムは以下の通りです✨ 第1回 5/29 (日) 9:30~15:00 サル用電気柵の設置実習 第2回 6/19 (日) 9:30~15:00 黒豆苗植え、サル追い払い実習 第3回 7/24 (日) 9:30~15:00 獣害柵点検実習、痕跡調査 第4回 8/21 (日)

      • 火起こしから大学生たちはなにを学ぶか

         学校などフォーマルなカリキュラム外の学びは「社会教育」と呼ばれ、人間が社会で生きていく上で必要な様々なことが含まれます。私が担当している「社会教育課題研究(自然共生地域支援)」という授業では、自然資源を使ってどんな学びを促進しうるか、また、実際に地域の自然資源をベースとした暮らしや自然資源保全のために活動する方々に寄り添いながら、学びを成立させるための条件や課題などを明らかにしていきます。  授業を始めるにあたり、「皆さんと自然との関わりはありますか?」と学生たちに尋ねる

        • どんぐりに全集中してみえてきたもの

          ちゃめっこはくぶつかんの山中亜季子さんと小島まみさんがデザインされている「くらべっこ!ドングリ」ワークショップが、丹波篠山の子育て広場「Petit Prix」で親子連れの皆さんを対象に行われた。私は「どんぐりが好きな人」役で少し登場したが、そのワークショップにおいて子どもから教えてもらったことをご紹介します。 どんぐり、と聞くと「野生動物たちの貴重な食べ物!」とすぐに動物との関連を考えてしまう私に、どんぐりだけに集中してひと言!と言われ、言葉が詰まってしまった。 「じーっと

        妊娠・出産を経験して母性について考える

          動物たちからの恵みをいただき続けるために

          先日、NHKで、シカなどの獣害に困っている地域で起業した若者たち(Re-Social)の取り組みがニュースになっていました。有害(人間生活に被害を及ぼす)駆除されるシカの活用をビジネスにつなげるという話はよくあるのですが、シカの皮をキャンプで使う椅子に活用するということ、そしてそこに地域の「建具屋」に協力を依頼していること、その活用先として地元のキャンプ場との連携を考えているあたりが素敵だなと思って色々と調べさせていただきました。 地元の方々の技術を発掘しながら、協力者をみ

          動物たちからの恵みをいただき続けるために

          【獣害問題関連】人が住むエリアと野生動物が住むエリアが重なることのリスクとは

           私が博士課程後期のころタンザニアでチンパンジーの調査をしていました。 帰国する直前くらいから、食欲不振やゲップが硫黄の臭いがするなどの体調不良が続き、帰国後、長崎大学にすぐに入院し治療を受けました。 その時わかったことが 私は、Strongyloides fuellebornという糞線虫に寄生されているよ ということでした💦。  ちなみに、このことは重要な発見として論文になり、当時、大型類人猿と人との共通感染症に関するテーマで大型研究費をいただいていた故西田利貞さんには

          【獣害問題関連】人が住むエリアと野生動物が住むエリアが重なることのリスクとは

          子どもを対象としたワークショップにおける「ねらい」と「反応」のズレ、に学ぶ

          今年の7月24日に丹波篠山チルドレンズミュージアムで子ども向けのワークショップをする予定で、その企画を練っています。 どのイベントにも「ねらい」があるわけですが、ここでは、その場に参加してくれる人にどんなことを考えてほしいか、どんなことに気がついてほしいかを、場をつくる人が考えておくものとしておきます。では、その企画者の「ねらい」と参加者が「考えたこと・気づいたこと」との間にズレがないようにワークショップを企画するのが正しいのでしょうか。 今、授業で「博物館をつくりだすーそ

          子どもを対象としたワークショップにおける「ねらい」と「反応」のズレ、に学ぶ

          Covid-19がもたらすウミガメ保全の次の展開

          フィリピンのアポ島でのウミガメの保全に関する記事が紹介されていた。この取り組みの素敵なところは、ウミガメの生態学的価値を上から押し付けることなく、地域の住民の方々と話し合いを重ねて、地域の理解を得た上でウミガメの保全が進められているところです。 “科学の有用性を人々に理解してもらうのではなく、まず科学を理解してもらい、その上で人々を納得させる。アポでは、シリマン大学の研究者が、保護区を設立する前に、まず人々を組織化しました“ 科学の有用性ではなく、科学を理解してもらう。こ

          Covid-19がもたらすウミガメ保全の次の展開

          2021年度「獣がい対策」実践塾のお知らせ

          「獣がい対策」実践塾とは、魅力ある地域を守るために、被害を受ける当事者だけでなく地域内外の多様な関係者が協力して、獣害対策をきっかけに地域が元気になる方法を学ぶ場です。これまで「獣害」問題とかかわりが少なかった高校生や都市住民・住宅地住民などの人材が、地域とかかわり地域の魅力を体感しながら、自分にできることを考えていきます。実践塾を通して、獣がい対策の新しいアプローチを共に創成しましょう。 オンライン説明会 2021/5/9(日)13:00〜 全体の概要説明 申し込みはこち

          2021年度「獣がい対策」実践塾のお知らせ

          SDGsの勉強会で陥りがちな「やった感」と空虚さを超えよう

          SDGsのことをもっと知りたい、学びたい、という声にお応えすべく、勉強会を開催しました。どのようなアウトプットがあったかを紹介しながら、「やった感」だけが残り、何も進まない勉強会にならないようにするためにはどうしたらよいか。自戒をこめて考えを整理しました。 SDGsをツールに「アクション」をイメージできるか  勉強会に参加した動機を伺うと、世の中の問題をもっと知りたいから、という意見がありました。SDGsのゴールそれぞれについて、今世界で起こっている問題を紹介すると、その要

          SDGsの勉強会で陥りがちな「やった感」と空虚さを超えよう

          持続可能な社会づくりと自然共生

           「持続可能な開発(発展)」に関する理念には,2つの潮流があるとされています.ひとつは「世界自然資源保全戦略(1980年)」に示されたもので,生態系や生命維持システムの保全,生物多様性の保全,種や生態系の持続可能な利用という自然や環境を適正な水準に保つことを前提としているもの.ふたつめは,開発途上国における人間の基本的ニーズに基づく参加型開発や「持続可能な開発」論の流れを発展させたもの.です.  その理念が様々な国際会議を通じてブラッシュアップされ,実践のステージにあるのがい

          持続可能な社会づくりと自然共生

          野生動物と人間との軋轢の"自然な"解消方法とは

          The scientists releasing cats in Australia  保全されている有袋類が捕食圧に耐えうるよう進化するのをサポートするため、有蹄類保全エリア内に捕食者を放すという研究が紹介されていました(オーストラリア・アデレード州)。実際に、捕食者を放したエリアのビルビーは、捕食者を避ける行動を身につけたという実験結果も得られています。  これを読んで、野生動物たちが構築してきた生態系に”人間が介入する”ことの倫理はどうなっているのだろう、と悩んでしま

          野生動物と人間との軋轢の"自然な"解消方法とは

          自然共生地域支援とは

          私の研究室では「自然共生地域支援」というキーワードを用いて授業や研究を展開しています。改めて、そのキーワードを用いている背景を説明してみたいとおもいます. 自然とそうでないものの区別はない まず、私の自然との関わりに関する考え方の源流には「霊長類研究」があります。人間は、霊長類(ニホンザル・チンパンジーなどのサル類)から進化したと考えられています。ヒトとは何か、社会とは何かを考える上で、人に近い霊長類の行動生態を参照するという手法は、人や人社会を直接みることではわからない気

          自然共生地域支援とは

          大学における学びを考える:留学生と日本人学生の「雑談」をどう設計するか

          私は、ESD(持続可能な開発のための教育)を地域で進める知の拠点(Regional experties on ESD:RCE)の一つ、RCE Hyogo-Kobeの事務局長を仰せつかっている。国連大学に認証されているRCEは今175箇所あり、昨日はそのAsia-Pacificエリアのweb会議が開かれていた。 留学生が混ざったクラスで感じてきた違和感 最近、中国からの留学生が増えている。ゼミや授業などで日本語でバーっと議論した後、ふと、「今の議論はきちんと理解してもらえてい

          大学における学びを考える:留学生と日本人学生の「雑談」をどう設計するか

          大学における学びを考える:企業とのコラボも「課題の切実さ」がポイント?

          今年は,神戸大学ESD(持続可能な開発のための教育)演習でパタゴニア日本支社と協働することになった.そのきっかけは,パタゴニアWorn Wear プロジェクトである.衣類を修繕する体験ができるリペアカーが大学にきて,Worn Wear プロジェクトをともに実施する予定であったが,結局,Covid-19の影響で中止になった.中止になったものの,パタゴニア日本支社の社員の方々にESD演習にスポット参加していただくことになった. 大学にくる相談を授業として取り組む わたしたち教員

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