『四月馬鹿』
彼はいつも歌っている。
彼はとても人気があった。
手際良く仕事ができ、平均年齢4~50代の営業所で唯一の20代前半、人当たりも良く、周りからは息子や孫のように可愛がられながら上長の右腕として職場を仕切っていた。
短期で入った私に仕事を教えてくれたのも彼だ。
人見知りの私にも気さくに接し、打ち解けるのも早かったと思う。仕事が残っていれば笑顔でしょうがないなと残業し他の人を手伝う。
私と二人だけになると、彼は上長を含めた営業所全員の愚痴をこぼす。
年月重ねた人への敬意を捨て、くまなく均等に馬鹿にする。
私の他に誰かいるときは、その場にいない人を日替わりで揶揄する笑いで盛り上がる。
私は彼が怖かった。
いや、彼を人気者に至らしめている場所が気持ち悪かった。
彼はいつも歌っている。
真実の花を毟って飾り、舌を何枚も携え、笑い、見下しながら。
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