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レバーの謎~伝わらなかった話~

レバーの話。ここでいうレバーというのは、モツ焼き屋さんや焼肉屋さんで食べる、あのレバー、つまり食べ物のレバーのことだ。


先日、友人とモツ焼き屋さんで飲んでいたとき、私がレバーについてのある疑問を話したところ、その友人は(そのモツ焼き屋さんの大将も)私の疑問を理解してくれなかった。

共感してくれなかった、ということではない。疑問それ自体が、つまりは「何が疑問なのか?」ということが伝わらなかったのだ。
酒も入っていたため、多分、私の話し方が論理性を欠いていたのだと思う。

なおこの友人は、論文とかも書いている言語学者である。

で、そのとき私はこの疑問を伝えるのを諦め、一人で考え、「おそらくこの疑問の回答はこういうことだろう」という結論をつけた。なので、友人にはもういいや大丈夫、と伝えた。

しかし友人は「諦めないでくれ……! お前は作家ではないのか、それが言葉で人に伝えることを放棄するとは……!」 みたいなことを言った。

そこで私は、よし分かった文章にしてまとめるから後日それを読んでくれ、と話した。本記事はその文章である。

世界は広いので、私と同じ疑問を持つ人が2人くらいはいるかもしれないから、こうして公開もする。前置き終わり、友人よ、そしてまだ見ぬ同じ疑問を抱えた人よ、ぜひ読んでくれ。

レバーについての疑問。要約すると

【何故、レバー好きな人がレバー嫌いな人に勧める『本当に美味しいレバー』とやらは、レバー好きな人も嫌いな人も美味しいと感じるのか】

ということである。これだけだとちょっと意味が分からないと思う。なので、説明していく。
まずは下の会話を読んでみてほしい。

~モツ焼き屋にて~

太郎「俺はレバーが好きなんだよ」

花子「え、私は嫌い。なんかレバーの風味が苦手」

太郎「それはホントに旨いレバーを食べたことがないからだよ。ほら、この店のレバーを食べてみて」

花子「もぐもぐ……。! ホントだ! ちっとも臭くない! レバーじゃないみたい! 美味しい!」

太郎「だろ? ここのレバーは最高のレバーだからね。俺もここのレバーが一番好きなんだ」

~二人は楽しく過ごした~

以上である。一見すると、とくにおかしなところがないやりとりだと感じないだろうか。しかし私は大いに疑問を感じた。

おそらく日本中で似たようなやりとりが数万回はあったであろう場面。これに疑問を感じないだろうか。いやレバーはどんなレバーでも不味いとかそういう話ではない。

太郎はレバーが好きな人だ。レバーが好きなのである。ということは、レバーが持つレバーたる要素が好きなはずだ。例えば食感とか風味とか、とにかくロースやハラミとは異なるレバー固有の特質がである。

一方、花子はレバーが嫌いな人だ。しかし、この店のレバー(仮にレバーAと呼ぶ)は美味しく食べられた。それはレバーAが「臭みがなく、レバーじゃないみたい」だからだ。

つまりレバーAは、レバーが持つ固有要素が弱い個体なのだ。

花子がレバーAを美味しく食べられたのはいい。当然だ。普通のレバーを嫌う花子は、レバーたる要素が低いレバーAならOK、納得できる。

問題は太郎である。レバーAはレバーたる要素が弱い個体であるのに、レバーが好き(レバーが持つ要素が好き)な太郎が『良いレバーであり一番好き』というのはおかしくない?
という話だ。

わかりにくいだろうか。私の友人はわかってくれなかった。

「いや本当に美味しいレバーを食べると世界が変わることが~」とか「レバーは鮮度が大切だから~」とか「食わず嫌いはちょっとしたことで~」とか言われた。

いやそうじゃねぇよ!!! たしかに俺はレバーは好きではないが、

俺が言いたいのはレバーが旨いとか不味いとかそういう話じゃなくて!

旨いレバーの条件とかでもなくて!!

食わず嫌いが倫理的にどうかとかそういうことでもなくて!

食品が持つ要素に対する態度の矛盾について疑問を呈してるんだよ!!

と、思った。例えば、太郎がこう言ったのなら話は分かる。

「だろ? ここのレバーは食べやすいから素人にはオススメなんだ。俺にはちょっと物足りないけど」

何故ならレバーAはレバー要素が弱い個体だからだ。花子にレバーAを勧めつつ、自分はもっと臭みがあってよりレバーらしいどこかの店のレバニラ炒めが最高とかなら辻褄が合う。

しかし太郎お前はなんだ!! ホントにレバーが好きなのか!? もうカルビでも食ってろ!! と思ってしまう。

考えてみてほしい。あるところにコーラ好きを自負する男がいたとする。そしてソイツはこう言う。

「このメーカーのコーラ、(商品名マイルドコーラ)は炭酸が弱くて、甘くもなくて、黒くもなくて、スパイシーでもない。だからコーラ嫌いな人でも美味しく飲めるよ。俺もコカ・コーラやペプシよりこのマイルドコーラが好きさ!」

おかしいでしょ? お前が好きなのはマイルドコーラであってコーラではない!! お前もうバヤリース飲んでろ!! と言いたくなるでしょ?

例えば私はラフロイグというウイスキーが好きだ。ラフロイグはスモーキーな香りに特徴があり、煙臭いとか正露丸みたいとか、そう表現される。臭いから嫌いだ、という人が多い。が、ラフロイグが好きな人というのは、その煙臭さが好きなのである。

だから、煙臭くなくてスムーズな飲み心地のラフロイグAが発売されたとしても、きっと私はラフロイグとしてはラフロイグAが好きではない。これが最高のラフロイグだとかいうわけがない。スムーズな飲み心地のウイスキーが飲みたければマッカランとか飲んでればいい話だ。

なのに何故、レバー好きはそういう話にならないのか。

と、言うようなのが私が思った疑問である。伝わっただろうか。

この記事を読んだ人が、もちろん酒席でこの疑問が伝わらなかった友人も含めてだが、この記事を読んで、「ああ、そういうことか。またしょうもねぇこと考えてるな」と思っていただけたのなら幸いである。


さて、ここからは上述してきた疑問について私なりに一人考えた回答をついでに記す。多分、こういうことなのではないだろか。

「レバーを嫌う人が思うレバーの要素は、実はレバー好きな人も嫌っている要素であるから

これだけ言うとわかりにくいと思うので、もう少し説明したい。

レバーはいくつかの要素を持っている。風味や食感、味わいに色。そうした要素は実は二つに分けられる。「好ましい要素」と「嫌われる要素」である。

レバーが嫌いな人は、「嫌われる要素」を強く感じており、それによって生じる不快感が「好ましい要素」から得られる喜びを上回っている。そうじてマイナス。だから嫌い。

レバーが好きな人は、「嫌われる要素」は感じつつも、それによって生じる不快感よりも「好ましい要素」から得られる喜びが上回っている。そうじてプラス。だから好き。

美味しいレバー(レバーA)は、「嫌われる要素」が小さいレバーである。ゆえに、マイナス査定を受けず「好ましい要素」だけをダイレクトに感じられる。だから、レバーが嫌いな人も好きな人も「美味しいレバー」が好き。

これならば辻褄があう。ラフロイグの場合「好きな人の好きな要素」と「嫌いな人が嫌う要素」が要素としては同じだからそうはならない。

きっとそうだ、と私は結論付けた。
レバー好きな人も実はレバーの臭みは嫌いで、でもそれを乗り越えてでも食べたい別の魅力ある要素がレバーにはある。うむスッキリである。

こんなことをイチイチ考えてしまうのは、私がレバーの「好ましい要素」を理解してないからなんだろうなぁ、とか思った


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