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小山修一詩集『風待ち港』

 あとがきに、「‥‥手もとに置いてたのしく読んでいただくことができたなら著書としてこのうえない喜びです」とある。確かに、童謡詩でも高い評価を得ておられる小山さんの詩の言葉は柔らかく、淀みがない。「梅雨のあいまの/日差しのなかにいて/僕はひとり/花がらを摘んでいる(『花がらを摘む』より)」という謙虚なお人柄も、詩のあちこち、に滲む。本詩集のテーマは、大きく二つに分けることができる。一つめは奥様へのラブレター、二つめは言葉遊び。ラブレターの代表的な詩を挙げる。

ぜんぶ  

ぜんぶ好き、と言ったり 
言われたり 
そんな甘い時代もあったように 
うっすら記憶しているが 

まっすぐ顔を向けて
きらい、とひとこと
妻が言った
ん?どこが
と、僕は問うた

妻は間髪入れず
ぜんぶ
とこたえた
僕は
ぜんぶか、と声をあげた

それから
顔を見合わせ
僕らは
声を合わせて爆笑した 
           (全文)

 長年月、寄り添い支え合ってきたご夫婦の「愛」と名付けるのさえ軽々しく思われるような、温かく、深いものを感じる。普通であること、当たり前であることが、いかに幸せか、いかに大切か、教えてくれる一冊だ。

 小山さんは、昨年末、新詩集『未:完成』(土曜美術社)も発行しておられます。

小山修一詩集『風待ち港』文化企画アオサギ
   2021年9月23日発行

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