橘しのぶ

新詩集『水栽培の猫』もうすぐです。詩集『道草』、第19回日本詩歌句随筆大賞奨励賞受賞。…

橘しのぶ

新詩集『水栽培の猫』もうすぐです。詩集『道草』、第19回日本詩歌句随筆大賞奨励賞受賞。2024年『詩と思想』現代詩の新鋭。書評委員。第三回サンリオ「いちごえほん」童話部門グランプリ受賞、2004年度「詩学」新人。第8回、9回、15回アンデルセンメルヘン大賞入賞。

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最近の記事

小野田潮詩集『あかるい部屋のなかで』

 「一 日常」「二 記憶」と題した2部構成、30の詩篇から成る詩集。COVID-19が世界を毒する直前の2020年3月24日発行。読後感が、雨上がりの風のように爽やかである。目次のページの後ろに小さく、「a neuf petit-enfan」と添えられているので、成長なさった後にお孫さんに読んで頂きたくて上梓なさった詩集かと推察した。  幻想的でありつつ、くっきりと目に浮かぶ写生味も在る詩風である。詩集後半に置かれた『白いワンピースの少女』の美しさに胸を衝かれた。    

    • 詩の教室 中尾一郎

       岡山の同人詩誌『ネビューラ』に、中尾一郎さんが連載しておられる『詩の教室』に注目している。小、中学生を対象に、中尾さんは公民館で詩の教室を開催し、その様子をエッセイに綴っている。理屈でなく、肌で、子供たちに寄り添い、詩の楽しさを伝えておられる。私自身、子供の詩の選考をする機会があるので、たいへん参考になる。  例えば、草野新平の『春のうた』の講義が面白い。(『ネビューラ』87号より) 春のうた 草野 心平 かえるは冬にあいだは土の中にいて春になると地上に出

      • 恐竜の飼い方

         岡山の詩誌、ネビューラ88号の山下耕平さんの「恐竜の飼い方」という散文詩が好きです。一部、あげさせていただきました。岡山は、文芸活動が盛んで、停滞している広島県人としては羨ましい限りです。 恐竜の飼い方               山下耕平  マリーの足の爪先がうろこ状になったのは、一年前の春のことだった。たいして気にも留めなかったし病院にも連れて行かなかった。そのうち鉤爪が出てきて羽毛が生え膝から下が変化し、いまではすっかり諦めてしまった。マリーはどうやらプテラノドンと

        • 俳句やってました

           30年余り前に、子供が生まれて、575だとすぐできるという安易な考えから俳句を始めた。『ラ.メール』俳壇で、今をときめく夏井いつきさんと一緒に投稿者として掲載されたりした。そのまま続ければよかったのかもしれないけれど、詩が一番好きだったので、俳句からは遠ざかってしまった。これはこれでよかったのだと思っている。  当時所属していた俳句結社『春燈』に発表した句で季節に合うものを時々紹介させていただきます。 蒲公英や本日主婦業休業なり 万華鏡砕けて春の愁ひかな 高野聖脛に傷もつ

        小野田潮詩集『あかるい部屋のなかで』

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          空腹時にアスピリンを飲んではいけない

          榎本櫻湖さんの突然死に衝撃を受けています。 ご冥福を祈りながら、櫻湖さんの詩を1篇、あげさせていただきます。 空腹時にアスピリンを飲んではいけない     ピザが運ばれてくる─腰にタブリエを巻いたきれいな黒髪の生年が、注文したペリエをもってテラスへとやってくる妄想─、チーズの海にはオタリアなどの海棲哺乳類が産卵のためにあつまってきていて、にぎやかな祝祭が衛星中継によってその腥みとともにテーブルのうえへと─ 飴いろのニスが剥げかけて、エボラ出血熱の流行をくいとめることもできな

          空腹時にアスピリンを飲んではいけない

          紙切れになった猫

           詩集『水栽培の猫』の編集をしてくださっている藤井さんが、カバーの色校を送ってくださった。出来上がりの色合いなどを確認するための試し刷りで、これでOKなら本印刷となる。色校は、イメージ通りだった。紙に刷られた猫の次郎が、私に向かって、「元気ですか?僕はこちらの生活にも慣れてきましたよ」と話しかけてくる。  詩集『水栽培の猫』の中の詩、『口笛』 日に日に削がれて 紙切れになった猫で飛行機を折る もしも、飛ばしたなら、 二度と会えない             (『口笛』部分)

          紙切れになった猫

          言葉という凶器

           言葉1つで、人を殺すことも、生かすこともできる。言葉は諸刃の剣である。相手を刺したつもりが、自分自身を刺し貫いていたりする。その程度の覚悟は、詩を書き続けてゆくにあたって必要だ。  第二詩集『しなやかな暗殺者』を上梓した頃のことである。当時、パートナーだった人は、私の詩を読んで嘔吐した。私自身、自覚できていない心の一部分が詩に潜んでいて、それが彼を不快にさせるらしかった。彼は、私のスイッチを探した。スイッチをoffにしたら、私がどこにも行かないと信じていた。私に、スイッチは

          言葉という凶器

          原爆の詩

           今日は詩友の由美子さんとランチの予定。私の母世代だが、仲良しのお友達だ。彼女は原爆詩人としての評価が高いけれども詩風は繊細で叙情的。詩を書く以前には、油絵を描いていた。エメラルドグリーンを基調とした数々の作品は、宙を舞う孔雀の羽のように美しい。由美子さんには、生まれつき特殊な能力がある。目にした風景が、スクリーンショットになって、脳裏に刻まれるらしい。そのスクショを、色に託して絵を描いたり、言葉に託して詩を書く。  彼女は原爆投下当時、7歳だった。その数日後、当時住んでいた

          原爆の詩

          薫る 匂う

           源氏物語・宇治十帖の中心人物としてに、薫の君と匂宮という二人の貴公子が登場する。薫は生まれつき芳香を身体から発散していた。それに対抗して匂宮は、素晴らしい香を衣類に焚き染めていたという。両者は、性格も対照的。薫は、真面目すぎるほどで、匂は、プレイボーイだ。「薫る」も「匂う」も、芳香を感じさせることを表す動詞で、一体どこが違うのか興味が湧いて、角川書店「古典基礎古典基礎辞典」大野晋編で、調べてみた。 ◯薫る  もとは、煙や潮気など、気が立ちのぼり漂うこと。漂い立つものは、し

          薫る 匂う

          おしゃべりな猫

           次郎は、私が初めて飼った猫だった。最初のうちは、可愛いのと、もの珍しいのとで、毎晩一緒に湯船に浸かって入浴した。次郎が乾燥フードを食べる時は、その横に柿の種を入れた小皿を並べ、私も四つん這いになって猫と同じ仕草で、カリッカリッと音をたてて食べた。次郎の好物の鮪の刺身が食卓にのぼる頻度も高かった。自転車の前カゴに乗せて、町内をドライブした。滑り台を一緒に滑った。  気がついた時には、次郎は、猫の鳴き方を忘れていた。「おはよう」と声をかけると、はっきり「おあおー」と応える。ア行

          おしゃべりな猫

          すかんぽや羽根の折れたる扇風機

          扇風機の羽根が折れた もう翔べない

          すかんぽや羽根の折れたる扇風機

          女友達

           女友達と、平和公園を散策した後、近場のタリーズで休憩することにした。コーヒー二つ、卓に並べて、いただきますをしようとした矢先、彼女が突然立ち上がって、私の髪から何かをつまみあげた。一寸ほどの芋虫が、私の頭に乗っかって、公園からタリーズまで、お供していたのだった。コーヒーを混ぜるスティックに虫をのせて、私達はそそくさと店を出て、再び平和公園に向かった。芋虫の嗜好は不明だったけれど、いちかばちか躑躅の葉にのせて、顔を見合わせて笑った。芋虫の五分の魂を守るために、女二人、真剣だっ

          愛称

           私は、夫を、「ぶたくん」という愛称で呼んでいる。太っているのではない。アメリカ映画の『ベイブ』の主人公に似ているからだ。子豚のベイブは、色白で上品、優しい顔している。勇気があって賢い。そんなところが、夫と共通している。  夏目漱石は、胃潰瘍で入院した時、担当の看護婦に「鼬」という渾名をつけた。 或時何かのついでに、時に御前の顔は何かに似ているよといったら、どうせ碌なものに似ているのじゃ御座いますまいと答えたので、およそ人間として何かに似ている以上は、まず動物に極っている

          小山修一詩集『風待ち港』

           あとがきに、「‥‥手もとに置いてたのしく読んでいただくことができたなら著書としてこのうえない喜びです」とある。確かに、童謡詩でも高い評価を得ておられる小山さんの詩の言葉は柔らかく、淀みがない。「梅雨のあいまの/日差しのなかにいて/僕はひとり/花がらを摘んでいる(『花がらを摘む』より)」という謙虚なお人柄も、詩のあちこち、に滲む。本詩集のテーマは、大きく二つに分けることができる。一つめは奥様へのラブレター、二つめは言葉遊び。ラブレターの代表的な詩を挙げる。 ぜんぶ   ぜ

          小山修一詩集『風待ち港』

          にしもとめぐみ詩集『女は秘密を歩き始めてしまう』

           本詩集は、扉に、リルケの詩の一節を置き、27篇の短い詩から成る。そのいずれもが恋の詩だ。シャンソンのようであったり、和歌が出てきたりする。古代、日本人の性は、現代のそれよりもずっと開放的であった。日本の古典と、恋愛大国フランスとの組み合わせは、意外と相性が良いと感じた。  タイトル『女は秘密を歩き始めてしまう』は、収録の詩『モデラート・カンタービレ』の第一連、そのままである。マルグリット・デュラスの同名の小説を、ソネットに書き換えたものだと思った。 女は 秘密を 一日を

          にしもとめぐみ詩集『女は秘密を歩き始めてしまう』

          泉水雄矢詩集『unbox/開けてはならない』

           泉水雄矢さんの第一詩集(私家版)。20の詩篇収録。その中で、巻頭詩『深淵の里』だけを独立させ、目次の前に置く。「深淵は、覗き込む君の目を望みながら/決して許しもしない」とあるが、これは「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ(『善悪の彼岸』より)」というニーチェの言葉を意識して書かれたものだろう。タイトル〝unbox〟は、〝remove from a box〟の意味だが、この〝a box〟、巻末詩『二月の道化師』の「キモイ枠」が、泉水さんの言う〝深淵〟かと思う。

          泉水雄矢詩集『unbox/開けてはならない』