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小野田潮詩集『あかるい部屋のなかで』

 「一 日常」「二 記憶」と題した2部構成、30の詩篇から成る詩集。COVID-19が世界を毒する直前の2020年3月24日発行。読後感が、雨上がりの風のように爽やかである。目次のページの後ろに小さく、「a neuf petit-enfan」と添えられているので、成長なさった後にお孫さんに読んで頂きたくて上梓なさった詩集かと推察した。
 幻想的でありつつ、くっきりと目に浮かぶ写生味も在る詩風である。詩集後半に置かれた『白いワンピースの少女』の美しさに胸を衝かれた。    

白いワンピースの少女

西の空があざやかな橙色に染まるとき
空の色を反射して海面は
多彩な光を点滅させながら
音のない音楽を奏ではじめる

白いワンピースの少女が
波が洗ったばかりの浜辺を
貝殻を探しながら歩いていく

風景が沈黙したようで 
不安にかられたぼくは
少女の後を追った 
岬は黒い影となって
輪郭だけが際だっていた

あなたの骨片のいくつかは
ともに焼かれた花々の色に染められ
白いワンピースの少女が
ふるさとの海で拾った貝殻になっていた

別れの庭に
桜が満開だ
通りすぎる風に花びらが舞う
雲間から光が射し
ふるさとの浜辺で
夕映えの淡い光に包まれ
白いワンピースの少女に戻って
あなたさくら桜貝を拾っている
               (全文)

 白いワンピースは純粋無垢な魂の象徴か。産着、花嫁衣装、そして、死装束も純白だ。大切な節目のたび、新しい色に染まってゆけるように、ヒトは白を身に纏うのかもしれない。第4連は、火葬を連想させる。少女(もしくは、かつて少女であった女性)は、死んでしまったのだろうか。葬り去った「少女性」の比喩か。白い骨片、桜の花びら、さくら貝が、読むものの脳裏に、忘れの雪のように切なく舞いあがり、しめやかにふりしきる。

小野田潮詩集『あかるい部屋のなかで』 舷燈社
            2020年3月24日発行

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