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言葉という凶器

 言葉1つで、人を殺すことも、生かすこともできる。言葉は諸刃の剣である。相手を刺したつもりが、自分自身を刺し貫いていたりする。その程度の覚悟は、詩を書き続けてゆくにあたって必要だ。
 第二詩集『しなやかな暗殺者』を上梓した頃のことである。当時、パートナーだった人は、私の詩を読んで嘔吐した。私自身、自覚できていない心の一部分が詩に潜んでいて、それが彼を不快にさせるらしかった。彼は、私のスイッチを探した。スイッチをoffにしたら、私がどこにも行かないと信じていた。私に、スイッチはないし、仮にあったとしても、どこにも行きはしなかった。
 彼は私にとって、大切な人であったから、「詩を書くことをやめるから」と提案したが、聞き入れてもらえなかった。「貴女は、だけど、心の中で、詩を書き続けるでしょう」が、彼の答えだった。
 私たちは、それからまもなく別居した。その頃、1人で車を走らせて、海の見える場所に行って、鬼束ちひろさんの唄を聞いた。

カラになるくらいまで
言葉を並べ続けてた
それで満たされると
私は必死で望んで

私の放った矢は
貴方には刺さらなかったのに
私のやわな強さは
今こうして砕け始めてる

意外と簡単に
貴方の心は見えてた
だから何かが音を立て
狂い始めるのを待った

私の放った矢は
貴方には刺さらなかったのに
どうして私の方が
痛くて泣いてしまったのだろう
          (『Arrow of Pain』部分)

 聞いているうちに、涙が止まらなくなった。それでいて、その状況に酔っているだけと感じるもう1人の私がいた。泣きながら、泣いている私を冷笑していた。


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