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まっさらな生の繰り返し

起きる
歯を磨く
植物たちに水
着替える
玄関出る
空見上げ、さあ、これから仕事。喜びの顔
自販機で缶コーヒー買って
ワゴン車出す

仕事は渋谷区内公共トイレの掃除。
きっちり、しっかり、やる。
手鏡使い、見えない裏側も逃さない。

ランチは決まった神社の決まった場所。
木の前。フィルムカメラで木漏れ日を撮る。

仕事終わりは決まった居酒屋で決まったものを。
店のおにいさんもわかってる。

銭湯。
週一、コインランドリー。
たまにママのいる店で軽く飲み、食べる。

古本屋。文学の文庫本を一冊。

主人公 平山の生活は極めてシンプル。
ルーティン。

使うお金はしれてる。

毎朝の缶コーヒー 140円
ランチのコンビニ(サンドイッチまたはパック牛乳)289円
居酒屋 千円札と小銭
古本屋 350円
コインランドリー 800円
フィルム・現像代 1500円


部屋には何もない。
布団と文庫本。

高等教育受けた人と推測される。
何しろ読む本が
フォークナー
幸田文

実はいずれの本も「木」に関連している。

経済的に豊かな環境で育ったことも推測できる。

銭湯でのクセ。

口を水面下まで。ブクブクブクブク泡立てて喜んでる。

これは幼い頃、家に風呂があって、そうやって遊んだのでクセになった。

大人になって銭湯通いするようになったが、クセは無意識にやってしまう。

銭湯のお湯に口つけるというのは、抵抗ある。
誰の汗が入っているかわからないお湯。

ぼくは5歳から26歳まで銭湯通いしていたが、お湯に口沈めようとは思わなかったし、いまもやりたくない。

車に積んである古いカセットテープも、青年期、豊かな環境で育ったことを表している。

食うや食わずだったら、音楽どころではないから。

平山の生活は、禅だ。

足そうとしない。
かといって、わざと引くこともしない。

いま・ここ。

そういえば、中盤登場する若い女の子「ニコ」とのやりとりで、
「今度は今度、今は今」(こんどはこんど、いまはいま)

いま・ここ。

ルーティンも、「いま・ここ」

公共トイレの掃除というのも、
「いま・ここ」をきれいにする

若い同僚が

「テキトーにやりゃいいんじゃないですか? どうせ汚れるんだし」

と言う。

平山はそれに対して何も言わず、黙って、ガシガシ掃除する。

繰り返し映し出される大都会東京。

大都会が機能するためには、平山の仕事が必要なのだ。

公共トイレが使えなければ、機能が止まる。

それだけ重要な仕事だが、たいした金額を平山は受け取ってない。

エッセンシャルワーカーあるあるだが、「社会生活インフラに欠かせないのに、収入は低い」

平山はそれを評価しない。判断もしない。
自らの人生を振り返ることもしない。これからを案じることもしない。

しないのだが、つい、振り返らざるを得ないことに出会う。

禅的生活が、ふつーの人の悩みへ一瞬、押しやられる。

しかし、平山は木のようにどっかとルーティンに根を下ろし、動じない。

木漏れ日
スカイツリー

かといって、聖人君子ではない。
キレて怒ることある。
振られたと勘違いし、やけ酒・やけタバコ。

平山は、今日も仕事に向かう。

It's a new dawn. 新しい夜明け
It's a new day. 新しい一日
It's a new life for me. 新しい生
I'm feeling good. 気持ちいい

この、毎日の「まっさら感」。

これが平山の生を満たしている。

映画『PERFECT DAYS』
DAYSと、複数形になっているのが

平山のまっさらな生の繰り返し

を表わしている。

『PERFECT DAYS』、繊細な作品。




目の動き
手の表情
スキマ
空(くう)

繊細なミクロの糸で紡ぎ出す物語。

なので、これ、映画館で観るのはひょっとすると考えものかもしれない。
配信を待って、静かな自宅またはオフィスでじっくり鑑賞するほうが適しているかもしれない。

というのも、昨日観た映画館は古く、隣のシアターでやってる大暴れ系映画の大音量残響が混ざる。

隣に座った若い女が雑なやつでね。
お菓子ボリボリ、スマホ覗く白い明かりに中断される。

カップルが

「あれ? 〇〇(俳優名)?」

などしゃべってる。

繊細な作品だからこそ、映画館では観ないほうがいいかも。

新しい学びでした。

ふぅ。

ネタバレにならないように書くって、難しいね(笑)

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