緑の着物が着たかった

小さい頃から、成人式では緑の振袖が着たいと思っていたし、当然、着られるものだと思って疑わなかった。

しかし、実際私が20歳になり成人を迎えた時は、クソバカゴミクズ父親の借金発覚からの返済+どうしようもないアホ父親のアル中による退職(ほぼクビ)によって、我が家の家計は火の車状態にあった。

「成人式なんて全然興味ないし、バイト入れちゃうもんねー!」もうあんまり覚えてないが、確か私は母にそう言った気がする。
その時、節目行事を欠かさない母が珍しく何も言わなかった。もったいない!折角なんだし!着なさい!と、とにかく誰よりもうるさくしそうな母が少し安堵の表情を見せ、「そう」と言った。子どもながらに、ああ、本当に我が家は苦しいんだな、と感じたのをはっきりと覚えている。

時は経ち、22歳春。無事明後日、大学卒業を迎える私は着物、袴を着させてもらえることになった。正しく言えば、着なくていいよという私にどうしても着て欲しいんだと母が頼み込み?ほぼ無理やりの形ではあるが着物、袴を着ることになった。(紆余曲折を経てなんとか我が家の家計は持ち直しつつある。これは長くなるからまた今度書く)

明後日私が着るのは、母が昔着ていたオレンジ色の着物だ。東日本大震災で一度津波にのまれたものの、奇跡の生還を果たした着物である。

正直言って、私はこの着物が好きというわけではないし、着たい!とは思っていない。私ずっと緑の着物が着たいと思っているし、ずっと緑の着物に憧れている。成人式を目前に控え、欠席すると決めているにも関わらず、何度も夜中に1人でネットで検索しては値段を見て諦めた、あの緑の着物にずっと憧れている。

明後日が卒業式だというのに、髪の毛を染めるのも忘れていたし、ファンデーションも切らしている。(コスメオタクとしてなんたる失態)ニキビも1つできたし、矯正を始めてうまく話せないし見栄えも悪い。完全に卒業式に対するモチベーションが低いせいでこのザマである。袴着付けの予約も、母に急かされ怒鳴られギリギリに取った。ヘアメイクを担当してくれるお姉さんに、「どんなふうにしたい?」と事前に連絡をもらったのに、「なんでもいいです」とゴミのような返信もしてしまった。本当にごめんなさい。

いつか、大人になって、歯の矯正も終わり整形もして仕事も落ち着きもっと痩せて素敵な大人のレディ(笑)になったら、緑の着物を買って写真を撮ってもらうぞ!!

まだ卒業式も行っていないのに、私は緑の着物のことで頭がいっぱいだ。早く大人になって、緑の着物を着たいなあ。

明後日、私があの自分の着たオレンジの着物を着ることをすごく楽しみにしている母には死んでも言えないが、私はずっと緑の着物が着たいです。

明後日の着物は親孝行のため
いつかの緑の着物は自分のため

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