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ブックレビュー「僕の読書感想文」

近田春夫の「調子悪くてあたりまえ」を読んだ際に、気になっていたのがこの「僕の読書感想文」。タイトルを私のnoteのようにブックレビューとか気取った表現では無く「感想文」としているところがまず面白い。

本書は「家庭画報」に1998年から2008年までの10年間連載していたコラムを一冊の本にまとめたものだ。著者によると、そもそも本を読まない方だったのだが、当時本業の音楽に行き詰まりを感じていたため、原稿を書くことで気を紛らわせることを期待した、という。

まず意外だったのは、読む本のジャンルが何とも広い。以前久米宏と秋元康との音楽に関するTV番組で、近田春夫が秋元のことを「きみは本当に何でも聴くものを好きになれるね。俺なんかほとんどが嫌いだもん。」と言っていたが、それはあくまでも音楽であって、読書に関してはそこまで好き嫌いが激しく無いのかもしれない。

近田春夫の批評というと「考えるヒット」が有名で、音楽が専門であるだけに、「考えるヒット」では辛らつな意見も多かったが、こちらは著者に好意的な批評が多いようにも感じる。専門家は門外漢になると素直になることができるのかもしれない。

「考えるヒット」では二曲を採用し、まずメインの曲に関する批評があって、最後に数行だけもう一曲のコメントが続く形式だった。本書も途中に同じ形式がいくつか見られるものの、最後は一冊だけを扱うことが多い。音楽の方は大量に聴く中から選んでいたのだろうが、読書は大量に読むことは難しいだろうから、同じ様にはいかなかったからではないかと想像する。

近田春夫は「調子悪くてあたりまえ」にあったようにIQが169だそうで、本書を読むとやはり頭の回転が早いように思う。しかもミュージシャンであるためか何と言っても文書にリズムがあって読みやすい。

そして広範なジャンルを扱いながら、その面白さを400字詰め原稿用紙三枚にまとめあげ、しかも読後に「この本面白そうだな、読んでみようかな」と思わせる力を持っているのが流石だ。

本書を読んで私が興味を持った書籍リストは次の通り。近田春夫は古書店まわりもしていたそうなので、今では本屋さんでは手に入らないものもあるかもしれないが、私は面白そうな本を近所の図書館で検索して、しっかりと「お気に入りリスト」に入れておいた。お陰様でしばらく読む本に困りそうにない。

  • 百人一首解剖図鑑-王朝文化がマルわかり- 谷知子/著

  • 阪神間モダニズムー六甲山麓に花開いた文化、明治末期ー昭和15年の軌跡 「阪神間モダニズム」展実行委員会/編著

  • おとこ友達との会話 白洲正子/著

  • てるりん自伝 照屋林助/著 北中正和/編

  • じゃがたら 増補版 陣野俊史/著

  • 東京アンダーワールド ロバート・ホワイティング/著 松井みどり/訳

  • アイアンマウンテン報告ー平和の実現可能性とその望ましさに関する調査ー レナード C.リュイン/著 山形浩生/訳

  • ザ・ラスト・ワルツー「姫」という酒場ー 山口洋子/著

  • ハードボイルド/ハードラック 吉本ばなな/著

  • 「生きる」という贅沢(私の履歴書) 淀川長治/著

  • 漢字と日本人 高島俊男/著

  • 職人衆昔ばなし 斎藤隆介/著

  • 熱狂の仕掛け人ービートルズから浜崎あゆみまで、音楽業界を創ったスーパースター列伝 湯川れい子/著

  • 美しき日本の残像 アレックス・カー/著

  • 去年ルノアールで せきしろ/著

  • ロック・デイズー1964-1974- マイケル・ライドン/著 秦隆司/訳


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