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リングフィットアドベンチャーがよくできている10の理由とその限界

思ったよりも凄かった!

昨年の10月に発売されたNintendo Switchの『リングフィットアドベンチャー(以下RFA)』が我が家で人気だ。

運動が苦手な次男や長女もTシャツに着替えて毎日やっている(現在は長女のみ)。リングフィットアドベンチャーは単なる「フィットネスにゲーミフィケーションを加えました」というだけでないと感じたのでその魅力をまとめてみる。

(ちなみに筆者はそれほどプレイしていないが家族が楽しそうにやっているのを観察してのレビューなので詳細まで踏み込めてないのは御愛嬌)

どんなゲームなの?

ざっくりいうと、

ジョイコンをリングコンというリング型の器具と太股に装着してエクササイズをキャラクターの操作として様々なイベントをこなすゲーム。シンプルなエクササイズも可能だ。

ストーリーを進めるアドベンチャーモード、して敵を倒し、その場で足踏みしてステージ内を歩き回るストーリーゲーム+エクササイズ。シンプルモードはエクササイズメニューをこなすモード、ミニゲームは各種のエクササイズを活用したミニゲームで点数を競う。

筆者はやったことはないが、昔WiiFitというバランスボードを使ったフィットネスゲームがあったのでそれに近いかもしれない。RFAはバランスボードは使っておらず、Switch用に新しくデザインされたフィットネスゲームだ。

(1) エクササイズの流れ

まずはじめに、ウォームアップからエクササイズ、そしてクールダウンという一連の流れがしっかり組み込まれているところに感心した。

RFAはウォームアップにダイナミック(動的)ストレッチを取り入れている。運動前にじっくりと筋肉を伸ばすスタティック(静的)ストレッチとは違い、身体を反動を使いながら動かすことで筋温を高めるのがダイナミックストレッチだ。

近年、スタティックストレッチは運動前に実施するとパフォーマンスが落ちるというのが定説となっており、運動前はダイナミックストレッチを行なうのが一般的だ。

マラソンなどでもスタート前に未だにスタティックストレッチを行っている人が多いが、ちゃんとダイナミックストレッチから始めるあたりはちゃんと作られてると感じた所。(ウォームアップの時間は短めなので効果は微妙ではあるが。)

ちなみにウォームアップ・クールダウンはキャンセルも可能だが、ウォームアップ自体を行うことで経験値がもらえるのでレベルアップのためにスキップしないで行う仕掛けになっているのはさすが。

一方、クールダウンは経験値がつかないようだが、こちらも経験値つけるようにするといいのにな。(経験値をつけない意図があるのかもしれない)

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(2) 正しい姿勢や動きを促す仕組み**

RFAでは、左右のジョイコンを使って一つはリングコン、もう一つは左太ももに装着して動きや姿勢をセンシングしている。そのため下半身の姿勢と、上半身の姿勢の両方をセンスして正しい姿勢のチェックをしてくれている。

見本は画面に表示され、スクワットをする時にはしっかり膝を曲げていないと指摘されるし、リングコンを真上に上げなければならない姿勢で手が下がっているとそれも指摘される。

精度はたまに(???)なこともあるが、一人で見様見真似で姿勢をとるよりもはるかに正しい姿勢を取ることができると感じた。さすがにトレーナーに姿勢をチェックしてもらうのには及ばないので、

一人 < センサー < トレーナー

くらいか。

またリングコンを押し込んだり、引いたりする動きとその反応(振動)で負荷の足りないのもわかり、どの程度の負荷が必要なのかが画面に視覚的に表示される。まとめると、RFAの様々なフィードバックによって、正しいフォーム、正しい動き、正しい負荷を意識することに繋がっている。

(3) 努力と成長の見える化による継続性

RFAはゲームを遊びつつその過程で身体を(無理やり)動かすという流れになる。その間、何をどれくらい行ったかなどは自分では一切記録しない。プレイ中の様々な運動の回数、経過時間、消費カロリー、推定移動距離などはRFAが自動的に計測し記録してくれる。

単に筋トレとしてスクワットを1日数十回やるのは単調で苦痛かもしれないが、RFAだとスクワット数十回はあっという間だ。

筆者の例だと、7分間のプレイでスクワットは50回以上、リングコンの押し込みは200回!(これは走りながら常にリングコンをバスバス押して弾を出しているせいですが。。。)実施したことになる。 

更にはトレーニングセッションを終えると、リングコンに取り付けたジョイコンのカメラ部に親指の腹を当てることで心拍を計測することができる。これはスマートフォンのカメラに指を当てて心拍を測定するのと同じ仕組みだ。

スマートウォッチのリスト式心拍計、あるいはチェストストラップ型の心拍計の精度には及ばないかもしれないが、気軽に心拍を測定できるので運動が心拍に対してどの程度の負荷になっているかもわかるのは嬉しい。筋トレばかりに目が行ってしまい心肺機能の強化を怠るのは中途半端。心拍を測って自分の心肺機能の負荷の可視化をしておくことは重要だ。

結果が身体に現れてくるまでには一定の時間が必要で、その成果が見えるまでは自分の努力の積み重ねそのものを可視化してモチベーションを維持することは不可欠。何も考えなくてもRFAではこの辺りの努力の見える化を様々な観点で行ってくれる。

このような見える化により、トレーニングの原理原則における継続性(反復性)の原則が実現できる。継続しなければ身体は変化しないのだ!

(4) ベイビーステップな負荷の向上 漸進性

RFAでは、初期では4つの運動(フィットスキルと呼ぶ)しかできないが、レベルアップする毎に新しいフィットスキルが増えていく。大まかに上半身、下半身、体幹、ヨガ系のフィットスキルがあるが、RFAではフィットスキル=攻撃なので新しい運動ほど攻撃力が高かったり攻撃範囲が広かったりする。

ゆっくりとしたフィットスキルは主に回復系の技になる。筋トレ的な負荷を掛け続けるのではなく、ゆっくりじっくりと身体を伸ばしたり維持するヨガやピラティスのような運動が多い。(それもキツいと感じる事は多いだろうが)

ゲームの中では、徐々に強い敵が出てくるため、より攻撃力の高いフィットスキルと回数を増やして対応していくことになる。ゲームを進めて難易度が上がるということが、運動強度が上がることに繋がっていく。

ゲームを進めていくと、開始時点で全体的な運動強度を上げる(反復回数を増やす)かどうかを問われることがある。そのため自分の体力に適した漸進的な負荷の向上が可能だ。逆に上げすぎた負荷を下げることも可能だ。

これはトレーニングの原理原則漸進性の原則にあたる。つまり「漸進的に負荷を上げていかないと筋肉も体力も上がらない」ということだ。

(すべてのフィットスキルの一覧はこちらに掲載されている。)

ちなみに、フィットスキルのタグをみると「すっきり二の腕」「ぽっこりお腹改善」という言葉が見受けられる。RFAのターゲット層は「運動不足を自覚しているがなかなかできない女性層」なのだろう。(おっさんもやってる話は聞くけど)

(5) 運動負荷がかかっている場所を視覚的に表示する意識性

こまかい所だが、画面中のキャラクターの部位が燃えて光っている。これは運動が有効になっている部位であるというメッセージだ。自分の身体のどこが効いているのかを図示してくれるので意識をその部位に向けることができう。

逆にちゃんと光ってない場合はその動きを検知していないため、身体を意識して動かすフィードバックにもなる。これはトレーニングの原理原則で言うところの意識性にもつながる。つまり「自分がどこを鍛えているかに意識を向けることで効果が変る」というものだ。いやー、よくできてる。

(6) きつくなっても応援してくれる

ゲームを始めると、リングというパートナーと出会う。アドベンチャーモードではリングに導かれてボスと戦いにいくのだが、ゲーム中にリングがそりゃもういっぱい話しかけてくる。ストーリー中のセリフだけでなく

いいよ
キレッキレだね

といった誉め言葉だけでなく、

水分もとってね

といった気づかいも含め、様々なポジティブな声掛けをしてくれる。こういう言葉をもらえるとプレイヤーとしてはモチベーションに繋がるようだ(娘談)

また運動強度を高めに設定すると、攻撃回数(=運動の反復数)が増えるので戦闘が長くなり途中ダレてくる。その時に「あとXX回」と音声で教えてくれるのはラストスパートをする時に地味にありがたい。

(7) フィットネスレベルに合わせて始められる個別性

RFAでは冒頭にどの程度の負荷で始めるか、どのくらいの運動習慣があるかなどをヒアリングして運動強度を設定できる。そのためまったく運動経験がない人でも、そこそこ運動している人でも適切な負荷で始めることができ「キツすぎて続けられない」ということは恐らく無いだろう。

運動強度は途中で変更することもできるので、その時の個人のレベルに合った強度で続けることができる。トレーニングの原理原則で言うところの「個別性」にあたる。

運動強度を上げすぎると、高強度=技の反復回数が増える。それまで10回で倒せた敵が20回反復しないと倒せなくなるような調整が入るため、運動強度を高くする=反復回数が増える=経過時間が増えると理解しておこう。

(8) 全身くまなく動かすことができる全面性

フィットスキルは大きくわけて上半身、下半身、体幹、ヨガにわかれ、更にそれぞれの部位の筋肉を刺激するようにデザインされている。

敵はそれぞれ弱点(=部位)が決められており、その弱点に応じたフィットスキルで攻撃することでより大きなダメージを与えることがでる。

同じフィットスキルは連続して使えないようにデザインされている(一定時間利用不能になる)ため、得意なフィットスキルだけを実施することができなくなっている。つまり身体をまんべんなく動かすことになる。部分的でなく全体的に鍛えられるということは、トレーニングの原理原則の「全面性」にあたる。

詳細な部位まで見ていくと、下記のブログのプロトレーナーの方からの指摘の通り鍛えるのに足りない部分もあるようだ。このあたりは好みや目的によって補完したほうがよいだろう。

(9) リングコンがよくできている

トレーニング器具としてみた時に感心したのはリングコンの出来栄えだった。

押したり引いたりという運動というと、筆者の世代では昔の週刊ジャンプに広告が載っていたあのブルワーカーに似ていると感じた。懐しい!(もってなかったけど) 

ちなみにブルワーカーは50年以上も売れ続けているトレーニング器具の決定版で、アイソメトリック理論に基づいて一つの器具で数十のエクササイズを行うことができる優れもの。まぁでもRFAには関係なさそう。

よくよく調べるとリングコンの元ネタはどうやらピラティスで使われているピラティスリングのようだ。

リングコンを両手に持ち、左太ももに左のジョイコンを装着して上半身と下半身のセンサーとしている。そのため両手をあげながらスクワットの姿勢を維持するような運動の際には、手が上がっていなかったり膝が曲がり切っていなかったりする際に、画面、音声、リングコンの振動などでフィードバックがあるので修正が容易だ。

リングコンを単体のトレーニング器具として見てみると、各種センサーを用いて姿勢制御とフィードバックを行い、更にエクササイズの状況を記録してくれるスマートピラティスリングと言えるだろう。

実際、ゲームをやらない間もテレビを見ながらリングコンを押し引きした回数を計測記録する「ながらモード」もあり、これはトレーニング機器単体としての利用だ。

つまりIT機器と連携するスマートトレーニングアイテムとしてもよくできているということ。

これをきっかけにスマホ連携するリングコンに類似するスマートトレーニングツールが増えるのではないかと妄想した。

(10) 自分に合ったメニューへのカスタマイズ

アドベンチャーモードだと、足踏みがドタドタしてきになる(静かに行うモードもあるが)、あるいはアドベンチャーモードだと時間もムダが多い(エクササイズ以外の時間)、というような場合にはカスタマイズモードによって自分に合ったトレーニングメニューを作成して実行することもできる。

カスタマイズの場合は、アドベンチャーモードで取得していない全てのフィットスキルを対象として、腕、足、体幹、ヨガの4つのパートから選んだエクササイズを組み合わせて運動負荷も含めカスタマイズできる。

いずれのエクササイズもミブリさんの手本と、リングの声かけが付属しているのに加えて、仮想敵のロボットを相手にして動きの精度を点数表示してくれるため、正しいフォームに導いてくれる。

ゲームとしてのRFAが終わった後は、このカスタマイズモードでエクササイズを続けることができるようになっていると言えるだろう。ゲームに興味ない人は、最初からカスタマイズモードを行ってもよいかもしれない。

とはいえ気になる3つの点

かなり出来がよくて関心したRFAだが、気になる点がいくつかある。

一つ目は時間が長くなるという点。
これはリングコン+自重トレという制約上、あまり負荷を掛けられず、運動強度は回数や静止時間で負荷調整をするしかなく時間が長くなるという点と、アドベンチャーモードの場合、運動以外の時間が結構長くエクササイズという観点で考えるとムダに思う時間があるからだ。(このムダ時間が実はエクササイズ間の休憩としてデザインされている可能性はあるし、気になるならカスタマイズモードでプレイすればいいのだが)

二つ目はやりたい種目がないという点。
筆者はマラソンやトレイルランのためのトレーニングを積んでいるが、そこで必要になるメニューをRFAでやろうとしてもフィットスキルとして提供されていないためできない。たとえばサイドプランク(片足あげ)とか、ウェイトを使った各種エクササイズなどなど。

リングコンと太股のジョイコンのセンサーで制御できる動きであれば、もしかするとフィットスキルの追加コンテンツなどで対応できるかもしれない。(あるのかしらないけど)

ウェイト系の動きはそもそもリングコンで高強度の負荷を与えることはできないため難しいだろう。例えばリストウェイト、アンクルウェイトをつけながらプレイするモードを組み合わせるとウェイト的強度アップは可能かもしれないので拡張機能として提供してもらえるとよいのだけど。

三つ目はゲームとしてRFAをやっている人がゲームに飽きても運動を続けるのか?という根本的な疑問だ。
実は我が家でもすでに起っている状況で、当初はプレイしていた娘や息子もSwitchのポケモンを手に入れてからははたと止めてしまった。娘はポケモンが一段落してやっと復活したが、息子は結局プレイしなくなった。

要するに限られたゲームの時間で何を優先するか?という優先順序でゲームとしての楽しさの比較でRFAは他のゲームに負けてしまう可能性が高いということだ。もちろん運動と捉えてプレイする分にはその限りではないが。

仮に飽きずに続けたとしても、アドベンチャーモードはいつか終りを迎える。任天堂のFAQによると、

1日30分で、3か月以上お楽しみいただけるボリュームです。

とあるが、ではその先どうやって運動を継続するのか?

いかに継続して運動習慣をつけるかが鍵になるのに、ゲームが終って体をまた動かさなくなってしまったら元の木阿弥だ。シンプルゲームやカスタマイズモードでエクササイズを継続できる人もいるかもしれないが、どれほどの割合だろうか?

つまり、アドベンチャーモードの三ヶ月の間に運動習慣をつけてたとえRFAが終ってしまっても、その後も運動を継続するための動機付けが必要ではないか、ということだ。

いわゆるゲームの「やりこみ要素」的なものもあるので(スムージーを作るなど)、それで延長する事は出来るかもしれないが、ゲームとして捉えると終わりが来ると考えた方が自然だろう。

擬似的から真の内発的動機づけへ

ゲーミフィケーションという概念が生まれて久しいが、RFAはよくゲーミフィケーションデザインされたプロダクトじゃないかと感じた。

一方で、ゲーミフィケーションで出てきた動機付けは、真の内発的動機付けではなく擬似内発的動機付けではないかと感じる。

疑似内発的動機付けとは『内発的動機づけと自律的動機づけ』で紹介されている概念で、一見内発的動機づけのように見えるが、実は表層的な面白さを他者に与えられているものに過ぎない。著者の速水氏は、本人に内面化されている内発的動機付けと表層的な疑似内発的動機づけとを分けている。

内面化された動機付けとは、「何かを行うこと自体が好き、楽しい、やりたい」と感じること。運動でいうと体を動かすこと自体を行いたいと思うことだ。この本を読んだ後でゲーミフィケーションとは疑似内発的動機付けを与えるに過ぎないのでは?という疑問が湧いてきたのだ。

ゲームから運動習慣へ

仮に、RFAが擬似内発的動機づけで表層的だとしてNGかというと、そういうことでもない。最初は表層的な疑似内発的動機づけだったとしても、いつしか内発的動機づけに変ればよい。

『マラソン中毒(ジャンキー)』の著者の小野裕史さんは、運動経験ゼロの状態でWiiFitをはじめて身体を動かすことにハマり、そこからマラソンにのめり込んで、いつしか極地や砂漠などのエクストリームマラソンにはまっていった。

RFAも最初はゲームとして始めていつか終りが来たとしても、身体を動かすこと自体に楽しみを見出す内発的動機づけが生れ、他のエクササイズやスポーツに面白さや楽しさを見出す、運動習慣を育む、運動習慣のきっかけとなるツールになるとよいのではないか。その可能性は十分あるともう。


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