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【自著解題】市民参画とデジタルプラットフォームの現在地

これはQiitaの「CivicTech & GovTech Advent Calendar 2023」の22日目の記事です。

2023年9月に、書籍ベースでは日本初(自分調べ)となるDecidim(デシディム)に関するまとまった量のテキストが入った共著を刊行することができました。

第4章 社会の転換のためにどのような方法が試されているか?の1節として「市民参加型合意形成プラットフォームを用いたデジタル民主主義」を担当しています。

この記事は、その内容をご紹介しながら、市民参画とデジタルプラットフォームの現状について今年を振り返ってみようという趣向です。

目次から内容を説明

まず、何を書いたか目次を見ていただきましょう。

(1)市民参加型合意形成プラットフォームDecidim
①Decidimの特徴
②オンラインとオフラインの統合
(2)日本における実践事例
①兵庫県加古川市
②福島県西会津町
③京都府与謝野町
④岩手県釜石市
(3)活用事例の特徴
①行政と住民との対話を通じた信頼関係の構築
②当事者を巻き込む手段としての活用
 a. オンラインでの可視化を通じた当事者化
 b. オンラインをデジタルデバイド解消ではなく、インクルーシブの契機とする
 c. オンラインとオフラインを統合しやすいテーマから活用する
(4)展望〜シビックテックの観点から〜
①人がつながり、地域課題を解決するプラットフォーム
②プラットフォーム・ユーザーの変遷
③オープンソースを活用するメリット

Decidimの特徴をどのように捉えているか

DecidimはCMSでありSNSでもある

「Decidimを一言で説明せよ」

よく聞かれるんです

初めてDecidimについて説明するときには、本文にも書いた「多様な市民のアイデアの発散と議論を通じた収束を繰り返しながら、合意形成・政策立案に至るプロセスを設計するためのWebサービス」と言うようにしています。見かけは、いわゆるCMSですが「コンポーネント」(プロセスの要素をテンプレート化したもの)を使ってプロセスを表現するところに特徴があると言えます。

その上で、SNSのように、ユーザー登録をするとコメントをしたりユーザー同士フォローしたりできるといった要素も持ち合わせているとしました。

デジタル時代の新たなファシリテーションの実践

そのようなCMSでもありSNSのWebサービスは、単体で存在していません。

1つは、リアルの場でワークショップを開催するときにファシリテーターが参加者とインタラクションを行うと思います。それをWeb上でも実装する試みです。そのような説明の仕方で、「オンラインとオフラインの統合」を図るという性格も出てくる面があります。

もう1つは、各種ワークショップに用いるデジタルツールとの併用という観点です。Decidimが用意する「コンポーネント」だけでなく、MiroやSlidoやGoogleスライドなどのみなさんおなじみになったものをDecidim上に表示させて同じWebサイト上で使うといった「足回り」の役割を担うこともできます。

参加者からも、運用側からみても「同じサイト上の遷移で事が足りる」というのは、意外と無視できない要素ではないかと思っています。遷移の順番も設計できることは、後から見る人についても同様の体験ができることを意味しますし、こうしたトータルでの参加のデザインの考慮事項として改めて強調したものです。

事例から見る特徴

今回は原稿執筆時期との関係で、やや初期の事例を扱いました。したがって、それぞれ紹介した自治体でも「現在地」としての事例は、相当変化してきています。それも合わせてご紹介しておきましょう。

若者の参加

加古川市・西会津町・釜石市・与謝野町いずれも若者の参加がキーになっていることは、ある意味当然のことかもしれません。Decidimは、別の論文でもちょっとだけ書いたとおり、本家バルセロナの関係者がよく口にする「これまで参加プロセスに加わっていない・加われなかった人たちの声を拡大するものである」というフィロソフィーが、そのまま日本でも通用していることの現れです。

そうした意味で、本著刊行後に記事になった朝日新聞GLOBEもそうした面を取り上げられたと理解しています。

最近で言えば、釜石市では同市でインターンシップ活動をする大学生の活動紹介と振り返りコメントを掲載し、「学生がインターンシップなどで得た貴重な体験や気づきを投稿することで、”外から見た釜石”を地域と共有・蓄積し、今後のまちづくりに生かす」という事例があります。

ここでは、「ミーティング」と「提案」コンポーネントを使って、大学ごとの活動概要と当該学生の気づきレポートをリンクする形で提案を整理する方法を採用しています。

コンポーネントを関連づける

今後も釜石市に学生がインターンシップ活動をしに来るでしょう。その際に、学生が事前にここからプログラムを見たりする意味合いもあるでしょうし、協力いただく地域の方への事前説明やフィードバックを寄せる場としてもワークするでしょう。また、「提案」コンポーネントには、時期の異なる提案をまとめたりする機能もあるため、それによって学生のアイデアが進行するさまを表現することもできるようになっています。

そうした仕組みを前提すると、そもそもの活動や気付きの質も変わることも期待できます。

こうした参加プロセスを設計することが、本文でも示した「当事者を巻き込む手段としての活用」であり、参加プロセスを進行する過程で新たな参加を促す仕掛けになるのだと思います。また、そのような運用を意識することをDecidimでの設計をする際に促すことにもなっているという具合です。

Decidimで参加プロセスを設計するポイント(Decidim概要資料より)

Decidimを活用しやすいテーマとは?

Decidimが、バルセロナがそうであったように対面の集会を通じた合意形成を進めてきた参加プロセスをオンラインでも可能にするために設計されている以上、対面のプロセスがあるものの方が活用になじむと思います。

今年利用を開始した世田谷区や国分寺市のように、対面ワークショップの模様を記録し、そこを足場としてコメントで意見交換を続けるような取り組みがわかりやすいものでしょう。また、いずれの場合もグラフィックレコーディングによって議論を整理するといった、これまでの方法・リソースを活かす観点も共通に見て取れます。

国分寺市・第2回市民ワークショップグラレコ(※2023
12月で公開を終了しています)

この点、先の朝日新聞GLOBEでも加古川市でのワークショップを取り上げていただいていますが、Decidimはこのような対面ワークショップにおいては、それまで寄せられているアイデアをリアルの参加者が参照するという使い方をオススメしています。

加古川市でのワークショップの流れ

アイデアを考える際に、自分だけで考えるのでなく、どのようなアイデアがあってどのような共感が寄せられているかといった参照軸を持つタイミングでも活用しやすいものだと言えます。

Decidimは、何を目指しているのか?

当たり前を目指して

まとめの「展望」として、Decidimとシビックテックの関係について本文では強調しました。

Decidimを始めデジタル民主主義のプラットフォームを用いて、当事者が様々な人たちと繋がり、地域課題を解決することが日本において当たり前になること。これこそがDecidimを各地で展開する目的であり、プラットフォームに官民が運営したり参加したりして議論をすることも、シビックテックの活動の最たるものである。

本文p.152

「当たり前になること」、今年も引き続きDecidim(だけでなく他のプラットフォームも同様と思いますが)に多くのお問い合わせをいただきましたが、もっと多くの地域や組織の参加プロセスに、もっと多くの人が参加する体験を創っていきたいと思っています。

自治体における合意形成プラットフォームの今後

この記事を公開する前日(2023年12月21日)に、国の地方制度調査会が答申を出しました。

2 DXによる地方公共団体の業務改革
(4) デジタル技術を活用した意思形成と住民の参画
(中略)
住民が、地方公共団体が設定したテーマや住民に身近な行政ニーズに関して、デジタル技術を活用して、プラットフォーム等を通じて直接やりとりをすれば、地域の課題解決、さらには地方公共団体の意思形成に参画する意識を高めることにもつながる。

ポストコロナの経済社会に対応する地方制度のあり方に関する答申

コロナ禍で各地で展開されたデジタルプラットフォームの取り組みを踏まえての記述であり、この答申を踏まえた施策が出てくることでしょう。

とはいえ、繰り返し出てくるムーブメントであり、これまでの教訓を踏まえて地道に「当たり前」を創っていく視点が一層求められると思います。

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