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日本酒づくりの現場で初めて働いた経験

 派遣労働期間も終わり、いよいよ京都伏見区にある日本酒蔵での仕事がスタートします。大阪市内に住んでいたので通勤には1時間半かかり、7時から勤務スタートする日も多く、ガッツリ早起き生活のスタートです。

 勤務の始まった10月はまだ日本酒づくりの始まる前段階で、道具や蔵の掃除を中心に行いました。派遣労働から引き続きオフィスワークではなく現場作業が主。酒蔵の中はお米を洗う作業場や蒸し器の設置されている機械が多い作業場、木造で麹をつくる蔵、瓶詰めをする作業場、など、作業内容に応じて現場が変わります。雰囲気がガラッと変わるのが面白い。

 期間限定雇用の僕は何でもやりますポジションなので、基本的には肉体労働をし続けた3ヶ月間でした。掃除はもちろん、重たいお米を運んで洗米をしたり、醪に櫂入れ(よく日本酒づくりイメージ図のかき混ぜてるやつ)、麹室作業、瓶詰め、絞り器の掃除、などなど。身体を動かして汗をかくのは好きだったので、仕事を終えた達成感も心地良いものがあります。目に見えて作業が終わった!と都度確認できるのもオフィスワークと異なって気持ちが良い部分です。

 日本酒蔵の面白いところは、どこも歴史が古く、施設や道具の端々にそれを感じるところ。味わいある土壁でつくられた蔵、知らん元号で書かれた木造道具、蔵にずっと住み着いている菌たちの香り。その独特の雰囲気が日本酒好きにはたまらなかったし、その中で自分が働いていること自体に特別感を感じていました。

 特に麹をつくる作業は印象的でした。麹をつくる高温の部屋(麹室)には蒸されたお米が部屋いっぱいに広がっており、そこに麹菌をふりかけて米麹をつくっていきます。部屋の温度は熱く、汗だくになりながらお米を運んだり、麹菌と混ぜる作業をして過ごすのですが、とにかく熱気が凄い。菌が増殖しはじめると、温度が上がり、それと共に湿気も帯びてくるので、米麹から常に熱波を感じながらの作業で、菌の力を感じます。

 熱くて湿度は凄いけど、麹菌の良い香りで充満されている麹室の中。ただ、一歩外に出ると、真冬の寒さに身体はさらされます。日本酒づくりは、雑菌の少ない冬の寒い時期に行われるので、作業中の寒暖差がとにかく凄いのも特徴。想像するだけで風邪をひいちゃいそうですが、楽しかったからか、菌がいい感じで身体を守ってくれたのか、僕は風邪を引かずに仕事ができました。

 どの作業もそうですが、現場仕事はやはりチームワークが大事、というのは酒蔵でも変わらずです。掃除をするにしても大きな機械を掃除する時は複数人で作業をするし、つくりの時間は特にチームワークが大事。杜氏さんが重要なポジションについて、それをサポートするように回りは動きます。僕は一番下っ端でしたが、上流行程を確認しながら、次の行程を準備したり、イレギュラーが起こればそれに対応できるよう道具を渡したり、別工程作業を一旦止めたり、常に全体を見ながら動きを変えていきます。

 これが自分的には楽しかった。自己判断で作業内容を変えながら、チーム全体の動きを下支えしてる感じがたまらなかったです。大した作業ではないし、下っ端がやって当たり前の作業が主ではあったけど、たまに杜氏さんからも「いつもありがとう」と声がけしてもらえるのが嬉しかったり。機械が動いてる声も届かない時間もある中、何を言われずとも道具を無言で渡す、これぞ阿吽の呼吸、もできるようになって、自分も戦力として現場で活きている充実感がありました。

 そんな日々の現場作業を積み重ねた結果、完成した日本酒を味わう瞬間は最高でした。そもそも好きな日本酒蔵で働かせてもらっていたので、美味しいと感じない訳がありません。自分がつくりに関わった日本酒、その搾りたて、一緒に作ったメンバーと味わう時間、忘れられない瞬間でした。

 充実した日々はあっという間に過ぎ去り、最終勤務日を迎えます。12月末ということで、つくりも出荷も酒造は忙しい時期真っ只中ではありましたが、皆さんから声をかけていただけ、ありがたい限りです。僕が移住して農業することも知ってくれていたので、応援もしてくれたし、「来月から井上くんが居なくなるのが不安」とまで言うてくれる方も。

 社会人になってから、大した働きができておらず、悔しい日々を過ごしていましたが、ようやく自分の自信に繋がるような仕事ができたかな、と感じた酒造での働いた期間だったのでした。

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