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acloudyskye『There Must Be Something Here』 壮大さと拙さの狭間にあるセンチメンタリズム by 管梓(エイプリルブルー)

KKV Neighborhood #215 Disc Review - 2024.4.11
acloudyskye『There Must Be Something Here』review by 管梓(エイプリルブルー)

acloudyskye『There Must Be Something Here』

 以前こちらの企画にて、ダブステップからThe 1975を思わせる80s~90s風味全開のベッドルーム・ポップへと転身を遂げたプロデューサーAstraleをご紹介したが、今回取り挙げるSkye Kothariによるソロ・プロジェクト=acloudyskyeも同様にダブステップから歌ものへと変遷を辿っており(ボーカル楽曲が本格的に見られるのは前作『What Do You Want!』から)、4枚目となる本作『There Must Be Something Here』においてそれが結実している。しかし、Astraleとはその空気感を大きく異にしている。

 冒頭を飾る「Relay」のSigur Rós化したPorter Robinsonのようなサウンドスケープ、“Oh there must be something here(なにかここにあるはずなんだ)”というアルバム・タイトルにもなっている切実な言葉の連呼からして明白だが、Astraleのレイドバックしたサニーな空気感はここにはまったくない。代わりにあるのは濃霧の漂う風景を切り取ったジャケットと同様のどんよりとした閉塞感。Astraleがカリフォルニア出身、acloudyskyeがニューヨーク出身・ボストン在住と互いにアメリカの反対側の出であることは偶然なのだろうか。
 2曲目の「Surface」は本作の初聴時から強く惹かれた一曲。貴重なアップテンポの楽曲なのだが、やはり疾走感よりも鬱屈感が先行する。ファジーな轟音や印象的なリフ(後者はギターではなくアンプ・シミュレーターで歪ませたギターVSTかシンセによるもののように聞こえるがどうだろう)に乗る、憂いを帯びながらもウェットな情緒が一切ない投げやりな歌が美しい。ギター・ソロをイメージしたであろう間奏のシンセ・ソロもおもしろいアイディアだ。生のベースやギターも本作の随所で顔を出すのだが、どちらも決して上手いとは言えない。だがそのためか、ギターをシンセで置き換えるという発想に由来していると思われるパートがあちこちにあり、ベッドルーム・ポップならではのアプローチを感じさせる(この辺りはシューゲイズのギター・サウンドを打ち込みで表現するParannoulと通底するものがある気もする)。
 一方でベースやギターの拙さが本作のムードに貢献している部分も少なからずある。「Flares」のアウトロの意図的なグリッチなのか単なるエディット・ミスなのか判断がつかないベース、フォーキーな「Team」の少し調子外れなアコースティック・ギターは、人間関係の終焉を思わせる歌詞にさらなる切迫感をもたらす。表現を通じて感情を吐露し、状況を克服しようという衝動のようなものが感じられるのだ。
「Depths」以降はポストロックの影響を取り入れた楽曲がしばらく続くが、スケールの広がりきらなさ、チープさが宅録然としているものの、同時にチャーミングにも感じられる。日本人好みのセンチメンタルさがありつつどことなく音色やフレーズの選択が奇妙で、唐突に終わりを迎える「Fossils」が個人的には好きだ。
 エモを思わせる展開の7分近い長尺曲「Left」はアルバム終盤のハイライト。女性のゲスト・ボーカルとのかけあいを通じてお互いに想いあっていたはずだった2人のすれ違いを表現し、最後にはSkyeひとりになる、という展開があまりにも悲しい。

 本作との出会いは公式チャンネルに全編アップロードされていたのが突然Youtubeのおすすめに現れ、アーティスト名とジャケットに惹かれたのがきっかけだったが、期待通りの陰鬱ながらも美しい音楽がそこにはあった。独りきりの夜のお供にぜひご一聴を。


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