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クリエイションのボスはいかにUK音楽シーンを変えたのか? ジェットロケットのような半生綴った自伝

KKV Neighborhood #93 Book Review - 2021.7.8
Alan McGee(アラン・マッギー) 「Creation Stories: Riots, Raves and Running a Label」(Picador)
review by 久保憲司

こういう自伝をジェットコースターのようだと評することはよくあることだが、アランの人生は山あり谷ありのジェットコースターみたいな甘っちょろいもんじゃない。高速でぶっ飛ぶジェットロケットのようでした。

もちろん谷の部分もありました。自分がビックにしたようなジーザス&メリーチェインから首を言い渡され、ラフ・トレードのジェフ・トラヴィスがやったように、メジャーにお金を出させて、自分はA&Rのような立場として立ち上げたレーベル、エレベーションのバンド、プライマル・スクリームとウェザー・プロフェッツは全然売れなく、閉鎖。どうやって食っていこうかと落ち込んだ。

そうなんです、彼はクリエイションでは金を稼げてなく、ジーザス&メリーチェインのマネージャー料で生活してたのです。

スティフ・レコードをやっていたディブ・ロビンソンも同じで、彼はホープ&アンカー(パブの下でライブやってた所ね、パブ・ロック、パンクの中心点)のブッキング・マネジャーのお金で生活してたのです。ファクトリーのトニー・ウィルソンも同じです。彼の生活費はTVタレントの仕事から得ていました。イギリスのインディ・レーベルの主宰はそうやって他の仕事をやりながら、かっこいいインディ・レーベルをカッコ悪くしないために頑張っていたのです。

アランがクリエィションのお手本としたWHAAM!のディク・トレイシーとエド・ボールの二人はレッド・ツェッペリンの事務所スワン・ソングでジミー・ペイジに「お前らパンクはどうせ俺たちのことバカにしてんだろ」と言われてながら働いて、生活してました。

ジミー・ペイジも面白いよね。パンクを知りたくって、「こいつら裏では俺の悪口言ってんだろ」とわかっていても雇っていたんだから。因みにドクター・フィールグットの最初の事務所はスワン・ソングです。

この本に書かれてますが、アランが尊敬するのはトニー・ウィルソンで、ジェフ・トラヴィスのことは嫌っています。本ではあまり説明されていませんが、なぜジェフ・トラヴィスを嫌っているかというと、彼のパンクの精神というかヒッピー精神は偽物だということなんです。

どういうことかと言いますと、ジェフが始めた素晴らしいバンドとの取り決め――経費を差し引いた利益をバンドとレーベルで半々にしましょうというヒッピー的なアイデアはすごく素晴らしくて、ファクトリーもクリエイションも同じことをやるのですが、これ実は裏があって、ラフ・トレードはカーテルという流通の会社をやっているわけです。レコード店をやっているのもでかいですよね。経費の中に自分らの利益が入っているわけです。半々と言っているけど、ラフ・トレードの取り分はもっとデカいわけです。ファクトリーは本当に最後まで半々でやったのはすごいことだと思います。しかも最後まで契約書も作らなかったですからね。メジャーに身売りするとき契約書が一個もなかったのです。ニュー・オーダーでもハッピー・マンデーズでも最後までパンクを貫き通したのです。

さすがのアランもこれは無理だろうと、ちゃんと契約書を作るようになるんですけど。

実はアランはしっかりしてるんです。友達のマルコム・マクラーレンのことを「彼のアイデアはおもろいけど、金にすることが出来ないんだよね、俺は違う」と。

インディ・シーン崩壊前に「ハウス・オブ・ラブのCDはイギリスで30万枚売れてるのに、なぜドイツでは1万枚しか売れないんだ」ということに疑問も持って、ソニーと交渉を初め、会社の株の49%を売ることにして億万長者になるのです。

プライマル・スクリームの“Kill All Hippies”の

お前はお金を持ってるけど、俺はまだ魂がある

はアランを皮肉っているのです。お前も結局ジェフ・トラヴィスと一緒だ、キル・オール・ヒッピーズだ、なのです。確かにボビーの気持ちもわかりますよ、クリエイション立ち上げの頃、印刷屋で働いていたボビーはタダでジャケットを刷ってあげて、折り込み作業も無償でやってたんですから。でもアランの言い分としては、プライマル・スクリームのマネジャー料は一円ももらってなかったんです。大変です。

とにかく大変です。まだ日本語になってないですけど、スコティッシュ訛りなしの簡単な英語で、アランが音楽シーンをどうやって変えていったかが手にとるようにわかる本です。

日本のアラン・マッギー、与田さんには頑張ってもらいたいなと思います。


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