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TORR -ここはかつてのシカゴじゃない、東京の今だ- by 長谷川文彦

KKV Neighborhood #218 review - 2024.5.8
TORR review by 長谷川文彦

ネットを徘徊していておもしろそうなバンドに出会うというのは至福の時である。TORR(トルと読む)というバンドのことを知ったのは昨年の12月ぐらいだ。Xのタイムラインを眺めていたら、ソニック・ユースやスワンズを引き合いに出して彼らを紹介するポストが目に留まってピンと来た。チェックすると音源がいくつか出ていたのでまずは手に入るCDを購入。こういうことはすぐやった方がいい。2021年リリースの4曲入りEP。

一聴してこれはソニック・ユースやスワンズではないと確信した。ありがちなオルタナティブ、あるいはポスト・パンクではない。間違いなく、これはスティーヴ・アルビニである。ビッグ・ブラック、レイプマン、シェラックといったアルビニのバンド、あるいはシカゴのレーベル、タッチ・アンド・ゴーのアルビニがエンジニアを務めたバンドの音そのものだ。アルビニが絡んだシカゴの新しいバンドと言われたら、きっと信じたに違いない。
ポスト・パンクと言われるバンドは数多いるけど、こんなタッチ・アンド・ゴーのテイストのバンドが今の日本にいることにびっくりしたし、貴重であると思う。
バンドの結成はコロナ禍の始まる2020年とのこと。スリーピースのインスト・バンド。

Bandcampにもいくつか音源がアップされており、それらをひと通り聴き終わると、次はライブに行ってみたくなる。
Xで調べて(この人たちの公式アカウントの発信力がいまいち弱くて苦労する)、2月の東高円寺二万電圧のライブに行く。
スリーピースのシンプルな構成。全編インスト。音源で聴いた通りのアルビニ系のガチガチでゴリゴリに硬い音。着てる服がビリビリ震えるような音圧と轟音。素晴らしい。
ギターのエフェクターが少ない。シェラックで観たスティーヴ・アルビニと同じだ。出すと決めた音が明確でブレがないとこうなるのだろう。
この手のバンドはライブハウスででかい音で聴くに限る。みんなSpotifyをイヤホンでショボショボ聴いているだけだからダメなんだよ。音を物理的に感じる空間に身を置いてみないとわからないものがある。
Tシャツ買っちゃおうかと思ったけど、物販に人がいなかったし、諦めた。

続いて3月にもライブがある。秋葉原のCLUB GOODMAN。共演に好きなバンドのP-iPLEの名前がある。行ったばかりだけどまた行くことにする。
TORRのライブはまたしてもよかったが、気づいた点がいくつかある。
まず、ギターの人がストラップが肩にかけずに腰に巻いて固定するスティーヴ・アルビニ方式。そのギターの人のTシャツがP J Harveyの”Rid Of Me”(スティーヴ・アルビニが録音担当)だった。音もそうだけど、状況証拠的に完全にアルビニ派が確定。
ギターのエフェクターもシンプルだけど、ドラムセットがさらにシンプルだということにも気づく。スネアとバスドラとシンバル類だけ。究極にそぎ落とした音と機材。潔さと意思の強さを感じる。
しかし、またしてもTシャツ買えなかった。物販に人いないんだもん。なんだか本気で欲しくなってきた。

そして4月にまたライブを観に行く。3か月連続で同じバンドを観るというのも珍しい。場所は新宿のナインスパイス。3回目になると少し余裕も持って観ることができる。
やや冷静になってみると、簡単にアルビニ系などと言っちゃいけないような気がしてきた。確かにその方向の音に間違いないんだけど、ビッグ・ブラックやシェラックに比べて一撃一撃が重たい。アルビニ独特の金属的なガシャガシャとした音ではなく、もっとひとつひとつの音の分離がはっきりしている。スピード感よりも、しっかりと腰を落とした破壊力のある一撃を繰り出している。刃物で切りつけられるのではなく、鈍器で殴られる感じ。最初に観た時と印象が違ってきた。
これは模倣ではないオリジナルの音だと思う。ここはシカゴじゃない、東京だ。今の東京で鳴っている音だ。

さて、3回目にしてようやくTシャツもゲットした。しばらくは追いかけてみようと思う。

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