KKV Neighborhood #195 Disc Review - 2023.11.24
Mali Velasquez『I'm Green』 review by Kent Mizushima (to'morrow records)

ナッシュビルのSSW、Mali Velasquezがリリースしたデビューアルバム『I'm Green』で冒頭に彼女が高校生のときに癌で亡くした母親へ向けて歌ったフレーズだ。最初この曲を聞いたとき、こんなに悲しいリリックは無いのにも関わらず、震える歌声が乗っかったこのインディーフォークがとにかく美しいと思った。レクイエムが明日の希望に繋がることがある。音楽の不思議な力の一つだ。

この「Bobby」という曲は本当に今年のベストソングに相応しい楽曲の一つで、Phoebe Bridgersを彷彿とさせるような美しさが際立つフォークソングであることを下地に置きつつ、Holly HumberstoneをイメージさせるドリーミーなポップセンスとAdrianne Lenkerが持つエモーショナルな歌声を併せ持っている。美しさを感じると同時に熱くエモーショナルな気持ちにさせられるのは、メインの楽器の後ろで常にカオスで実験的な機械音が、母親が亡くなっていく当時の病室の様子を再現しているかのように鳴り響き、側で見守っていたはずのMali Velasquezの当時の心境をそのままパッケージして歌に乗せたかのように聞こえてくるからだろう。隠しごとが一切無いその時の気持ちを吐き出すかのようにリアルで残酷なカタルシスである。そして冒頭を飾る「Bobby」から2曲目「Shove」へとまるで１つの楽曲かのように自然に流れていくのも音楽として完璧である。

"I wanna to disappear I want to die"と震えるビブラートを効かせて母親の死から立ち直れていない様子を何度も言葉にした「Decider」や人間関係において、それが自分自身の気持ちにウソをついているとしても、楽な方に進んでしまうことや、それに対してのもどかしさや恥ずかしさを書いた「Tore」という曲が続き、更には母親が亡くなったあと、孤独なことを改めて実感し歌っている「Clovers」までアルバムの前半で既にあまりにも生々しく、まるでMali Velasquezという小説の主人公に自分が感情移入させられたかのように気持ちが入ってしまう。そしてどの曲もインディーフォークをベースとしている楽曲スタイルであるのに、弾き語りパートの一つとして全く同じ印象を受けないバラエティー豊かなアレンジセンスがサウンド面で輝いている。

「Turn Red」も同様にインディーフォークを軸にした楽曲であるけど、鳥のさえずりがサンプリングされていたり、Alex Gとかを彷彿させるようなピアノやバンジョーのサウンドが奥から耳に届く。決してアップテンポの曲では無いが、途中でノイズが組み込まれたり、1分20秒前後からヴォーカルのギアがほんの一段階上がるのだが、このような細かいところで感情表現を揺さぶるアイデアが幾つも散りばめられていて本当に素晴らしい。

ラストを飾る6分超えの大曲「Death Grip」までアルバムは基本的に別れや哀しみ、苦悩や人間関係の問題が書かれており、Mali Velasquezにとって楽曲を制作することはカタルシスだという事が痛いほど伝わってくる。そしてその表現をダイレクトに届けた彼女の歌う楽曲に最初から最後まで心をぐちゃぐちゃにされてばかりだ。でも、”どうせ別々の道を歩むのなら、怒鳴り合いをせずに静かに別の道を選んでいこう。その方がお互い希望が持てるでしょ” と彼女が歌っているように、暗闇の中の小さな希望がより一層このアルバムを聞いた後だと輝いて見える。世界は暗いと思ってる人にこそ聞いてほしい作品だ。

Mali Velasquez『I'm Green』
Release Date：2023.10.13
Label：Acrophase Records
Tracklist：
1. Bobby
2. Shove
3. Decider
4. Tore
Clovers
6. Turn Red
7. Medicine
8. Horse Trough
9. Death Grip

Mali Velasquez / I'm Green：Stream
Mali Velasquez：Instagram