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Heartworms『A Comforting Notion』熱と冷―新世代のゴシック・ポストパンク、Heartwormsの快進撃がはじまる by Kent Mizushima(to'morrow music / records)

KKV Neighborhood #165 Disc Review - 2023.4.18
Heartworms『A Comforting Notion』 review by Kent Mizushima(to'morrow music / records)

Heartworms『A Comforting Notion』

Sports TeamやFontaines D.C.のアルバムが全英チャートで2位を獲得するなど、盛り上がりのピークを迎えていた2020年のUKポストパンク・シーンにHeartwormsは突如現れた。いくつかの音楽ブログにデビュー・シングル「What Can I Do」のリリース・ニュースがひっそりと掲載されていた。不気味だけどクールな空気を淡々と鳴らし続けたサウンドは他のロンドンのポストパンク・バンドとは全然違ったし、Heartwormsの正体であるJojo Ormeがトレンドマークとして被っていたギャリソン・キャップがあまりにも似合っていて、音楽性からファッションセンス、そして写真から伝わってくる目力とオーラに完全に圧倒され、一気に僕の中で当時最も注目しているニューカーマー・アーティストになった。

しかしデビュー・シングル「What Can I Do」リリース後はまったく動きがなく、次に僕がHeartwormsの動きを確認したのが、2022年の夏にロンドンの有名なベニュー〈The Shacklewell Arms〉でHorsegirlのOAを務めた時のライヴ映像。半分生存確認のような気持ちで見始めたライヴ映像を気づいたら何度も繰り返し見ていたし、そんなことをしているうちにHeartwormsは2022年の9月に待望のニュー・シングル「Consistent Dedication」をリリース。そしてデビューEP『A Comforting Notion』が、Squidを世に送り出し今最も注目されているインディー・レーベルの一つである〈Speedy Wunderground〉から3/24にリリースされた。

本作『A Comforting Notion』はJojo Ormeが一緒に仕事をすることを熱望していたというリリース・レーベル〈Speedy Wunderground〉のヘッドでもあり、Wet Leg、Fontaines D.C.、black midiといったバンドとも仕事をしている名プロデューサー、Dan Careyがプロデュースを担当。Jojoがギターやシンセ、MIDIなどを使って制作した楽曲をDanのスタジオに持ち込み、Danのアイデアで味つけして完成させたEPだ。

冒頭を飾る「Consistent Dedication」から一瞬でHeartwormsがどういった音楽を鳴らすアーティストなのか理解できるだろう。多くの人は自分自身にダークな側面を持っているものだが、彼女はそのダークな自分を吐き出す音楽を鳴らしている。80年代のゴシックパンクやポストパンクから影響を受けたモノクロの世界の中で、Kraftwerkからの影響を公言していることが頷けるビートがダンスを誘う。そして凍えるような冷たさとマグマのような熱さを同時に持った表情豊かなヴォーカルが耳に刺さる。音楽をはじめる前からポエムを書くのが好きで、「自分にとってそれらは一緒のコミュニケーションのようなモノだ」と語るJojo Ormeだが、そのリリックは基本的に怒りや哀しみの感情が原動力になっている。元々自分に自信がなく、カレッジで音楽の勉強をしていた時に「男性主導の社会形態を目の当たりする経験があった」と語っている彼女が自信に満ち溢れ、火山が噴火するかのように ”Ugly is the man, he’ll chew his eyes Tumble from the high, full of surprise”とシャウトしているのを聴いているとこちらまで清々しくなる。

2ndシングルとして公開された「Retributions Of An Awful Life」はイントロだけで1分40秒ある曲で、彼女が持つ反骨精神がイントロの長さにも表れているのかもしれない。そのイントロから低音がうねるシンセ・ベースやアタックの強いスネア、ホラー映画のオープニングを彷彿させるシンセ、さらには悲鳴にも聞こえてくるギター・サウンドなどが組み込まれ、イントロだけでも見事にクールであり感情的でもある。この曲は本作の中で一番エレクトロニックな楽曲に仕上がっているけど、Interpolのようにダークで冷たいムードを保ち続け、他のサウス・ロンドンのバンドとは完全に差別化させることに成功しているし、そこにまるで何人もヴォーカリストがいるかのようにパートごとに表情が変わる歌声が加わることで楽曲に物語としての起承転結を作っており、モノクロの世界の楽曲にも関わらずとにかくキャッチーに楽曲が映る。

そして楽曲と同じくらいクリエイティヴが発揮されているのが「Retributions Of An Awful Life」のMVだ。Jojo Ormeはライヴの衣装でも軍服を着用しているほどミリタリーの大ファンだが、このMVでは友人にも軍服を着させて、水を被り、泥だらけになりながら撮影を決行。細部まで拘り抜かれ、完全にミニ戦争映画のような凄まじいクオリティーに仕上がっている。音楽だけではなく、アートワークの制作なども自身で行っている彼女のアーティストとしてのポテンシャルとセンスは様々な場所から確認することができる。

不穏なギター・リフが終始鳴り続け、ホラー・アトラクションのテーマソングかのような不気味さを醸し出しているタイトル・トラック「A Comforting Notion」でも同様にウィスパーからシャウトまで様々な顔を持つJojo Ormeのメリハリのあるヴォーカルに、気づいたら頭の中を支配されてしまう。彼女はこの曲をライヴでは目をギラギラとさせながら、両手を上げ誰かに何かを訴えているかのようなパフォーマンスをしているのだが、まさに怒哀の感情を歌にすべて込めて浄化させているように聴こえてくる。そしてラストを飾る「24 hour」では、まるで一人の人間に何かが憑依したような無双状態で感情を吐き出していく。音からも伝わってくる圧倒的な目力と暴力的なギターと不穏でダンサンブルなシンセにすぐに夢中になるし、政治や社会、様々なモノに矛盾を感じ生きている僕らに対して、声を上げる勇気をくれる。聴いているあいだは無敵になれる。一緒に中指を立ててくれる音楽だ。

『A Comforting Notion』はたった4曲のデビューEPだが、Jojo Ormeは何事とも闘う覚悟ができているのがわかるし、納得させるだけの熱されたパワーとクールなセンス、そして唯一無二のヴォーカル表現力がある。これらを武器に、Heartwormsが生まれるキッカケにもなったサウス・ロンドンのポストパンク・シーンに感謝を込め、殴り込む。

Heartworms『A Comforting Notion』
Release Date:2023.03.24
Label:Speedy Wunderground

Tracklist:
1. Consistent Dedication
2. Retributions Of An Awful Life
3. A Comforting Notion
4. 24 Hours

Stream the EP
Heartworms:Instagram

Heartworms

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