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Yard Act『The Overload』眼光、鋭くなって。UKリーズのニューカマーは高級化した野蛮な現代に観察と風刺を繰り返す

KKV Neighborhood #128 Disc Review - 2022.04.26
Yard Act『The Overload』
Review by 村田タケル

“Yard Act、ようこそNo.2クラブへ。No.1は最悪。No.2こそがベストだということを覚えておくように。”

ツイート主のSports TeamのAlex Riceはこう賛辞を述べた。一般的な知名度の比較では無謀な挑戦であったものの、2020年6月にLady Gagaとの激しいチャートバトルを演じたSports Teamを思い出させるように、1月21日にデビューアルバム『The Overload』をリリースしたYard ActはYears and Yearsと激闘を演じ、Sports Teamと同様にUKオフィシャルアルバムチャートの2位に着地した。

チャートバトルは過程こそが面白い。Sport Teamの時と同様に、チャート1位に押し上げようとする動きが起きた。様々なインディー・アーティストが自身の公式SNSアカウントでファンにYard Actを宣伝する。私が把握している範囲でもThe Specials、Foals、Franz Ferdinand、The Cribs、Tim Burgess、Kaiser Chiefs、Maximo Park、Easy Life、Sports Team、Ditz、Do Nothing、Courting、Hallanといったベテラン〜若手のUKインディーロックバンドがYard Actの躍進を後押しした。

昨今のUKインディーロック復権の一因として連帯感はキーワードとして語られることは多いが、ファンベースのコミュニティを軸とした連帯感から一歩踏み込んで、UKインディーロック全体の連帯感を味わえたチャートバトルだったように思う。


“Life is short, enjoy the ride(人生は短い、楽しもう)
Hippy bullshit but it's true(ヒッピーの戯言だけど、真実です)”

実際のところ彼らは間違い無くその状況を楽しんでいた。正直、Yard Actがチャートアクションで好結果を出すことは殆ど確約されていた状況ではあったと思う。彼らは2019年秋の結成で、本格的なライブ活動のスタート後に間もなくしてパンデミック期間に突入した。しかし、デジタルリリースした彼らの楽曲は早々にBBC Radio 6 MusicやKEXPといった有力なラジオ局にも即座に発見され、自主レーベル<Zen F.C.>からリリースした7inch作品の『Fixer Upper / The Trapper's Pelts』、『Dark Days / Peanuts』は初のフィジカル作品にも関わらず瞬殺でソールドアウト。SNS空間では入手を逃した世界中のインディーギターロックファンの悲痛な叫びが飛び交った。7inchに収録された計4曲をコンパイルした『Dark Days EP』は日本でも国内盤がリリースされるなど話題となり、2021年はフェスやメディアへの露出が飛躍的に増加した。更に、今作の先行曲でありタイトルトラックでもある“The Overload”はFIFA 22のサウンドトラックにも選出され、<Island Records>との契約により恵まれたリソースも確保した。そうした状況こそが、充分なレコードの流通量を確保したり異なるバージョンの限定プリントを用意させる強い動機になったはずだし、彼らがステートメントで述べているように、インディペンデントのレコードショップや印刷会社への貢献を果たすことができた。


“In the age of the gentrified savage
There’s no hope”
“高級化した野蛮な時代に
どう希望を見つけたらいいんだ”

序文が長くなってしまったが、鰻登りに注目の人気バンドとなった彼らの魅力は、ミニマルなパンクビートをギザついたギターワークとJames Smith(Vo)の鋭い時代観察や知性から生まれたユーモアな語り節が絡み付くことで生まれる独特で無敵なグルーヴにある。初期Arctic Monkeysを彷彿とさせるほどに、まくし立てるようにビート上に言葉を埋め尽くす天才作家James Smith。彼のリリックは現代のグレーゾーンをおちょくるように晒し上げるが、尖っていながらもどこまでもキャッチーに響くYard Actの音楽は彼の冴えまくるボーカルワークによる貢献が大きいだろう。

クロージングソング『100% Endurance』でのリリックでは次の警告を示す。

“It's hippy bullshit but it's true”
“ヒッピーの戯言だが真実だ”

身の回りに起きている時事問題をスマートに切り取った架空のストーリーテリング。登場人物は爆笑モノ。今作では、ポリティカルな話題を嫌う業界人、自信家の言動を妄信する者、不正を告発される管理職、成功して態度を変える成金、キーワードだけを切り取った表層的善行を盾に地元民を搾取する実業家などがストーリーを賑わせる。現実世界で出会いたくはないが、日本も抱えるネオリベラリズムやジェントリフィケーション。ポストトゥルースや不平等、差別といった問題に対して、牙を向けて糾弾するのではなく、ブラックジョークなインプレッションを織り交ぜてユーモアに状況を晒し描く様はどこかチャップリン然としていて面白い。

個人的な好みの話ではあるが、『Dark Days EP』に収録された最初期4曲と比較すると、オールドスクール的ブリティッシュギターロックな傾向が強まったサウンド面に少し拍子抜けをした気持ちはあった(そもそも『Dark Days EP』収録の4曲は私のツボを突き過ぎていた)。古いドラムマシンを使ったデモ制作から始まったというこのバンドは、規則的なシンプルなリズムで、脳髄に染み渡るような暴力的振動を味わえるダンス・バンドとしての魅力も強かったが、その傾向は本作で少し抑制され、全体的にポップな仕上がりとなったことには若干の寂しさもある。

私の嗜好はともかくとして、最初期の『Dark Days EP』から1st『The Overload』まで、彼らのサウンドポテンシャルは拡大し、様々な問題に溢れかえる現代に対するユーモラスな告発者としての地位が確立しつつあるのは事実であろう。過熱する期待の中で、PulpやGorillazに憧れ、Franz FerdinandやFoalsにも発見されたバンドが今後どう立ち向かい、どう振舞ってっていくのか。時代観察と風刺の面で圧倒的な才を備えたバンドがブレグジット以降の高級化した野蛮な現代をどう暴いていくのか…そう、彼らは時代の救世主となるのか、口達者なハイプなのか。その見極めにはもう少し時間が必要かもしれないが、期待は高い。頑張れYard Act!

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