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Boris『Heavy Rocks』円熟とはほど遠くさらなる高みに達した”Heavy Rocks”

KKV Neighborhood #145 Disc Review - 2022.08.16
Boris『Heavy Rocks』review by 長谷川文彦

コロナ禍が始まった2020年以降、Borisは2枚のアルバムをリリースした。『NO』と『W』だ。振れ幅が広い彼らの音楽性の中でも対極に位置するアルバムだったと思う。
2020年にリリースされた「NO」はリアルな場が封鎖された状況の中にあって、敢えてそれに抗うようなフィジカルで激しい内容だった。Borisの音楽性の一端のハードロック的な音であったけど、もはやハードロックを突き抜けてハードコアパンクといっても差し支えのない内容だった。正にあの状況に対して『NO』を突きつけるようなアルバムだったと思う。
片や2022年にリリースされた『W』は彼らのもう一端のアンビニエントな音を極めたような音だった。それはコロナよって我々が負った様々な傷のようなものを包み込むような音であり、彼らの作品の中でもいつになくWATAのボーカルがフィーチャーされた柔らかい音だった。この2枚のアルバムはひとつのセットだったと思う。

コロナ禍に対峙する2作品を踏まえて彼らが次にリリースしたのがこの『Heavy Rocks』だ。
このタイトルを聞いた時から心が騒ぐのを抑えられなかった。ご存じの通り、彼らは今までに『Heavy Rocks』というタイトルのアルバムを2枚出している。2002年に出たものは彼がハードロックというフォーマットを明確に提示したアルバムであり、2011年のものは同時期にリリースされた『NEW ALBUM』という彼らにしては異例にポップだったアルバムに自らカウンターを当てるようなアルバムだった。それぞれに彼らが標榜する”Heavy Rocks”というワードをタイトルにするだけの意味があるアルバムだった。
今回また『Heavy Rocks』というタイトルのアルバムを出すのにはどういう意味があるのだろうか。

一曲目の”She is burning”から前置き無しに最高潮の激しさとテンションが爆発する。こういう激しい音だろうということは当たり前に予測はついていたものの、こちらの想像を遙かに超えるもの凄い熱量が込められている。そしてその勢いは2曲目以降も緩むことなくさらに先まで続いていく。過去の『Heavy Rocks』というアルバムたちと比べても引けを取らないどころかそれ以上の凄まじさだ。
今までのハードロック路線の時のBorisとも何かが異なるし、『NO』のハードコアパンク的な攻撃性とも違う、何か新しい形の『Heavy Rocks』というものが生まれたように感じる。上手い言い方ができないが「正体不明の異常な高揚感」みたいなものがこのアルバムには確実に存在する。個人的にはジェロ・ビアフラとアル・ジュールゲンセンが合体したLARDのアルバム『The Last Temptation Of Reid』に近いものを感じた。これほどの高揚感はBorisが今まで幅広く表現してきた音楽性の中でもほぼ見当たらないと思う。ここに来てまた別の形で最高到達点を記録してしまったかのようだ。

Borisは今年で結成30周年だという。もう完全にベテランの領域であるし、自分たちの積み上げてきた音楽的資産を有効活用して活動していてもおかしくないキャリアに達している。そういう活動をするバンドもたくさんいるし、きっとそれはそれで悪いことではないのだろう。しかし、Borisはそんな円熟とはほど遠いアルバムを作ってしまうバンドだ。その底力には本当にびっくりさせられる。まだまだこんなもんじゃないというのを見せつけるのが3枚目の『Heavy Rocks』の意味に違いないと思う。

Boris30周年記念アルバム"Heavy Rocks”発売中!
国内盤限定スペシャルブックレット封入
Boris / Heavy Rocks
KKV-148
CD
2,800円税込

1. She is burning
2. Cramper
3. My name is blank
4. Blah Blah Blah -お前は間違っていて俺も間違っていてそれは正しさ-
5. 光 -Question 1-
6. Nosferatou
7. Ruins -瓦礫の郷愁-
8. 形骸化イマジネーション -Ghostly imagination-
9. 幸福という首輪 -Chained-
10. (not) Last song

発売中!
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