映画『ライアの祈り』

 先週の土曜日、有楽町のスバル座へ映画『ライアの祈り』を見に行ってきました。全国ロードショーなのですが、東京では、唯一このスバル座のみで上映されていました。原作は、森沢明夫さんの同名小説です。青森三部作の最終話。第1作は、『青春ドロップキッカーズ』、第2作が『津軽百年食堂』、そして、第3作がこの『ライアの祈り』で、青森、弘前、そして八戸がそれぞれの作品の舞台となっています。

 この映画のヒロインである大森桃子は、第1作から脇役としてずっと登場している人物です。

 女の名前は、大森桃子といった。このカーリングホールで唯一の公認アイステクニシャンである岡島の弟子だ。弟子といっても、昨シーズンから教えはじめたばかりの新米で、技術も知識もほとんど素人のようなものだけれど。(青春ドロップキッカーズより)
 そもそも桃子は、青森駅から東へ伸びる新町通りの裏手にある行きつけの小さな飲み屋「ふくすけ」のカウンターで隣り合わせ、たまたま意気投合した飲み友達だった。何度も「ふくすけ」でばったり出会っているうちに気心が知れて、岡島は桃子のことを「桃ちゃん」と呼んで可愛がり、一方、桃子は酔って上機嫌になった岡島の駄洒落を聞いては「新平ちゃん、駄目おやじギャグの天才!」と、微妙に褒めたりけなしたりしてるのだ。(青春ドロップキッカーズより)
 年の離れた岡島から見たら「この娘」だが、桃子はすでに三十路をいくつか過ぎているはずで、以前、酔った勢いで「わたし東京で結婚して失敗した出戻りなの」と言ったこともあった。たしか、実家は、弘前にある老舗の食堂で、職場も弘前市内の眼鏡のチェーン店だったのだが、昨春から青森市内の店舗に転勤になったらしかった。(青春ドロップキッカーズより)

 第1作目は、カーリングを題材に話が展開していくのですが。定年を迎えカーリングホールの氷メンテナンスを行っている岡島の弟子として桃子が登場してきます。

 第2作目は、弘前で100年続く食堂がサブ舞台となっています。そこは、桃子の実家でもあります。第2作目の主人公は、大森陽一、桃子の弟です。東京で、大道芸人をやっていた陽一が、実家を継ぐまでの話で、こちらでも桃子は、脇役のままです。

 この姉貴は、僕とは対照的な人だ。子どもの頃から明るくて楽天的で、友達がたくさんいて、男にも結構モテた。だから、バツイチになって、十キロも痩せて、鬱病一歩手前で弘前に出戻るなんて、誰も予想していなかったのだ。多分、本人すら。(津軽百年食堂より)
 ただ、立ち直りの速さも予想外なほどで、十キロ減った体重のうち、八キロはすでに取り戻したらしく、「貯金はあと二キロ!」と本人はもう離婚を笑いのネタにしている。(津軽百年食堂より)

 しかし、この青森三部作は、大森桃子でつながっている物語であり、いずれは桃子が主人公として登場するだろうとは予測していました。

 そして、桃子が離婚する原因となった出来事が背景にあり、新たな出会いがそのことで彼女を悩ますことになります。転勤先である八戸では、桃子が眼鏡チェーン店の店長になっていて、若い定員さんたちの合コンに数合わせで参加する羽目になります。その席で、やはり数合わせとして参加させられた通商クマゴロウさんこと、佐久間五郎と出合います。彼は、市役所勤めの発掘調査員で、主に縄文時代の遺跡を発掘調査しています。

 小説では、縄文時代に生きる若い少女をヒロインとした物語と、現代の八戸を舞台にした桃子の物語が平衡して書かれています。しかし、縄文時代の主人公であるライアは、狩りの時に足が変形してしまい、歩けなくなるほどの大きなケガをしてしまいます。生きるすべを失ってしまったライアに村の長は、村人の平和を祈り、みんなの生活を守っていくシャーマンになるように薦めます。ただ、シャーマンになるには、全身に入れ墨を入れなければならず、うら若き女性がそれを受け入れるかどうかの判断は、ライア本人に委ねられるのです。ライアはそれを受け入れ、全身に入れ墨を入れます。

 この部分を映画ではどうするのだろうと思っていたのですが、映画では、縄文時代の物語は描かれず、桃子の夢に出てくる風景としてのみ縄文時代が描かれていました。ライア自体は、桃子が縄文時代の物語を描く絵本の主人公としてさり気なく登場します。

 縄文時代が、一万年以上続いたこと。争いが少なく、平和だったこと。そして、われわれが普通に食べている魚や肉、そして野菜などがもうその頃食べられていたこと。残念ながらまだ文字がなく、どのような生活をしていたのかは、遺跡から発掘される出土品からしか推測できないことは、クマゴロウさんの言葉として語られています。

 できれば、森沢明夫さんの青森三部作を読んでから見た方がすーっと入っていけるのですが、映画だけでも十分楽しめます。ロードショーは、7月3日(金)までなので、もう時間がありませんが、お薦めの映画です。

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