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小池光特集(3)の紹介(「短歌研究」2023年10月号)

 またもでました。

https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHKRPTQZ/klage-22


 公式告知。

https://twitter.com/tankakenkyu/status/1704334573407293611


 今回はオレンジの猫です。

 今回は塚本賞と評論賞発表号で、そちらが冒頭です。つぎの特集が「続続「ここまでやるか。小池光研究」」です。今回は他には特集ありません。

 以下、記事紹介とつけたし。


四人の選者によるテーマ別「小池光傑作選」


花山周子/花笠海月/山下翔/寺井龍哉

 10首×2テーマ=20首を選び、選をもとにして文章をつけました。「解説」とありますが、鑑賞文といったところです。今回は「破調のすごい歌」「社会詠(時事詠)の名歌」の2テーマを設定しています。この記事はテーマを変えて毎回掲載です。10首×2テーマ×4人×3ヶ月ということで240首紹介予定でした。ダブりがあり、正確には240首ではないですが、選としてあげていない歌も解説中で引用しているのであわせると240首以上になります。

 周子さんの選は、解説を読まずとも「この部分に触れるのではないか」と見える選ですね。実際に解説の内容が予想どおりかというとそうでもないんですけど、歌と歌に連続性があるというか。固い選だという印象でした。破調のはあまり話題にならない歌もあるなあーなどど思っていたら、巻頭歌2連発ではじまる。そうか、巻頭からこんなことをしていた人だったかと思う。社会詠の「海鮮」はダジャレイズムに侵されていないか。判断を保留にしたい読み。最後のところがよい。ことばと戦争と概念との関係から小池さんの社会詠の特徴を端的に述べている。
 山下さんの読みはほんとうに小池さんの歌に対し、素直にむきあっているというカンジがする。「ん」の発見、副反応があるから効く、そう書かれていることをまともにのみこむ。私なんかは歌を読む前に「本当?」と疑う意識が邪魔をしてしまう。山下さんだって、小池さんとはちがう生き方をしているのだから、そのまま受け止められないこともあるだろう。それをしないで読むことは意外とできない。
 最初の文章は「小池の歌を読んでいると」が前に入るのではないだろうか。
 寺井さんは、初回からじょじょに1首あたりの解説が長くなっている。「一滴の雫のようだ」は私はてらいがあって書けない。書けるかもしれないけど、書いたあとに「どう思う?」と自問してしまうだろう。寺井さんの胸中はわからないけれど、これをキメにさしだしてくるところは素直に良いところだと思う。
 着メロのうたを末尾に持ってきたのがうまい。

 正直、「社会詠」というと「生存について」とか湾岸戦争の歌とかじゃないのーと思っていたのだけど、4人とも選の方向がまったくちがっていて、当然解説もぜんぜん似てなくて、それがおもしろかったです。

 わたくしの選は、テーマより「いいと思う」を優先した選です。「社会詠」は「社会のことを考えるとより深く理解できる歌」くらいでとりました。先月紹介したかーてんの歌は、破調でもよかったなーと思いました。


松村正直「言葉であり人生でもある」

  この文章で個人的に書いてくれてよかったと思うところは、『日々の思い出』の評価について。高野公彦さんは、『バルサの翼』で解説を書き、「短歌人」の『廃駅』特集号で寄稿している。そして『日々の思い出』を否定する文章を書いて、以降、表立っての評価はおそらくされていない。細かく見ていけば、言及くらいはしているのかもしれない。とにかくその後の評価はよくわからない。
 抒情を身につけたはずの歌人が露悪的とも見える手法で日常を描くことは当時はそれだけ見慣れぬものだったのだ。こういうのは今となってはピンとこないところだろう。
 最後はすこし駆け足か、という印象。ただ、ここはとてもむずかしいことを言っている。内容がむずかしいのではない。理解させるのがむずかしいことを扱っている。タイトルのもとになっている「言葉であり人生でもある」は息のながい活動をしている歌人であれば。かなりあてはまってしまう。それを小池さんのものとして書いて、読者をどう説得するか。それはこのパートより前の部分のつみかさねなのだけれど、それはできているのか。小池リテラシーが高いとなんとなく読めてしまうのだけれど、なかなかむずかしいかもしれないと思いました。


黒瀬珂瀾「日常という非常」 

前衛的技法を用いることで、前衛短歌へと至らぬ道を見つけた

p.152

 これですよ。これを読みたかった。小池さんというと岡井さんとの関係が話題になりやすい。たがいに認めあい、尊敬していたのはたしかにそうなんだけど、(それ以前も作品は読んでいたにしても)岡井さんに接近するのはざっくり言って1980年代後半以降ではないだろうか。茂吉仲間で、多くの機会に同席し、イベントでともに壇上にあがったこともおぼえてないくらいの回数だろう。小池さんの『岡井隆』(本阿弥書店)もよい本で、つながりは深い。
 けれども、小池さんがたんなる岡井フォロワーだったのであればあんな作品はつくらない。岡井さん以外の前衛も吸収し、そのすべてを否定しきったところにその特質がある。それをきちんと書いてくれたので、この文章を読むことができてよかったと思う。
 冒頭の7年なのに10年問題ですが。小池さんは最近も50年経ってないのに50年発言などをしているので、たぶん小池さんはあまりそういうことを意識されていないというか、3年程度は誤差なんでしょう。歌と事実が合致する必要はないけれど、世の中はまだまだ事実読みが多いので気がつくと言いたくなるというのもわかる。
 似ている、としてあげた歌も似ているか?というと似てない。けれども確かに響きあうものがあって納得させられる。
 この文章は、かっこいいなあ、と思う部分がたくさんある。しかし、ブロックごと(?)はものすごくいいのにブロック同志のつながりがぎこちないように感じる。それがまた、頭の中にある考えを吐き出したような印象がある。もうきれいにしたものを少し読んでみたいけれど、そうしたらきっとこのドライブ感はなくなってしまうのだろう。
 いろいろ書いたけれど、読むことができてよかった。それに尽きる。


相田奈緒「物から覗き見えるもの」

 タイトルから何について書かれるのか予想ができなかった文章。後半部があきらかによい。小池さんからはずれてしまうけれど、「その後セブン・イレブンはすっかり短歌のなかにおさまり、抒情するようになった、と言うとさすがに軽薄だろうか。」の部分を他の人の作と比べながら、もう少し読みたかった気もする。最後はなんで雨なんだろう。
 前半部の説明はていねいで好感が持てるし、大辻さんや小池さんの文章を相田さんがどう理解したのかをきちんと書いているのがいい(引用が最小限すぎてそこからの論が飛躍しているように感じる文章は多い)。


寺井龍哉「秘密の「その」 定型詩と伝統詩」

 「これが小池らしい歌だ、と私に感じさせるのは、もっと別の要素だと思われるのである」とヒキをつくり、それが「その」なのかなあ、と思わせておいて、最後は伝統の話で終わっているので、ここの回収が不充分のように感じる。
 他の文章についても似たようなことを書いているけれど、「その」に注目し、万葉→茂吉→小池と影響していった、という論旨は「本当かな?」と思ってしまうところがある(文章はツッコミ入れながら読むので申し訳ない)。しかし、この仮説には夢がある。

『バルサの翼』以降の小池の変化は、短歌が「定型詩」であることにこだわった結果、その勢いのままに、短歌の「伝統詩」としての側面まで引き受けることになってしまったのではないか。

p.161

 ここが眼目だと思うので、秘密に触れるのもいいんですが、これを最後に置いてサゲにしてほしかった気がする。


堂園昌彦による歌集解説(3)

 いよいよ最終回。3回掲載でいよいよも何もないんですが、1979年~2022年までのことを簡潔にまとめていくのは大変だったと思うので、ものすごくやりとげた感があるはず。読者としてもいろんな思い出、思いがよぎっていった文章でした。
 今回は、『山鳩集』『思川の岸辺』『梨の花』『サーベルと燕』です。
 『梨の花』は現時点では近年の歌集としては、そんなに評価されていないように感じますが、『日々の思い出』の評価の変遷を知っていると「まだわからんよ」と思う。堂園さんが「佳品が多い」p.163と書いているとおり、評価されておかしくない作品群だ。まだひっくりかえることはあり得ると思う。『山鳩集』のところで堂園さんも近いことを書いているけれど、集として他と比べると派手ではなくとも、歌の品質管理がしっかりしており、見方を変えれば評価できるところはたくさんある。

 小池さんの次の歌集が出たら、堂園さんの話をまた聞きたいと思いました。

 余談だけれど、堂園さんが『梨の花』の紹介で引いている古書のうた。私も好きでどうにかして選びたかったのだけど、どのテーマにもあてはめることができなくて紹介できなかったものです。こうしたかたちで誌面に載ってうれしい。





つけたし

 (発売日が安定していない)電子版などもあります。電子はながく売られますから、セール待ちというのもひとつの手です。興味のある方は、ご都合のよい手段でご覧いただければと思います。

https://www.amazon.co.jp/dp/B0CK164DSM/klage-22




関連記事まとめ

小池光特集(1)の紹介(「短歌研究」2023年8月号)
https://note.com/klage/n/n1f7f2e0f7d58

小池光特集(2)の紹介(「短歌研究」2023年9月号)
https://note.com/klage/n/nff1c9dc1f8e7

小池光特集(3)の紹介(「短歌研究」2023年10月号)
https://note.com/klage/n/n26f9e0f98758

togetter
「短歌研究」小池光特集まとめ【随時更新】
https://togetter.com/li/2191131














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