【一首感想・9】村よぎるもののちいさき脱落を埋め 戦いのような手つきが 平井弘

  見えた景を書く。山村のなかをなにか不透明なものがよぎる。それはかつてこの村から脱落した、言い換えると失われた存在だ。その欠けた部分を、大きな手が塗りつぶす。手は戦争のように巨大で、人知の及ばない存在だ。

 ちいさな脱落は、戦いのような手つきがなすままに埋められてしまう。その無力感がよい。無力でなすがままであることほど気持ちのよいことはない。責任も自己も手放して。

 


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