【一首感想・12】戸棚より鶏卵むねに抱えきて匿さむ春の草萌ゆるなか 平井弘
見えたものを書く。
華奢な少年の顔。彼は草のなかにしゃがんで、なにかへ土をかけている。視点が切り替わるとそこには卵が。彼は戸棚からこれをかかえ、小走りに野まできたのだった。少年のきれいな顔にかかる、やわく癖のかかった前髪。
光景のなかで、男の子がなぜ卵を隠したのかは判然としない。私に見える彼の表情はあいまいで読みとれない。胸をうつのは、卵を匿すそのそっとした手つきのみ。
春の草は繊い。卵を割らぬようむねに抱くのも、そのまま野までゆくのも、卵を土に置くのも繊細さが求められる。
なぜという問いに、正直なところ私はびくつく。恫喝の可能性が心のどこかによぎってしまう。この歌にはなぜという分析はなくてよい。ただ、あたらしい絹の服を着るように、繊細な描写がつらなってすぎゆくのがこころよく。
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