【一首感想・7】薄く胸の疼いてならぬ朝にきて幹を抱く誰にも見せぬ頬して 平井弘

 美少年。「薄く胸の疼いて」は字義どおりには薄く、言い換えればかすかに胸が疼くことだ。しかし、同時にこの発言をしている主体の胸の薄さも想起させる。あばらの浮くような、華奢な。

 幹を抱くことは甘えることだ。安心して抱きしめられる相手はこの主体には樹木のみなのだろう。誰にも見せぬ頬は、しんじつ誰にも見せられないのだった。


 蓬よりも剝きだしにして 風ふけば裸の腕の葉子が揺れる


 平井弘の第一歌集『顔をあげる』には、葉子という人名が出てくる。彼女はほとんど植物と見分けがつかない描かれ方をしている。この時期の作品において、作中主体を抱きとめることができたのは自然だけだったのかもしれない。

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