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熊大と京大の両新聞社が交流会 紙面編集や大学環境について意見を交換

熊本大学新聞社と京都大学新聞社は5月20日、オンラインで交流会を開き、両社合わせて12人が参加した。熊本大学新聞社の新歓企画の一環で、紙面の編集や経営、両大学の文化や環境について活発な意見交換が行われた。


京都大学新聞社とオンラインで行われた交流会=20日、熊本大学黒髪キャンパス全学教育棟

 京都大学新聞社は1925年に創刊され、再来年に創刊100周年を迎える歴史ある学生新聞で、現在も2週間に一度のペースで発行を行なっている。記事の質、発行間隔、部数共に全国で有数の学生新聞となっている。
 熊大新聞側からは特に経営や編集の問題について質問が相次いだ。京大新聞の広告は前年度以前からの引き継ぎが多いものの、こちらからの営業をかけることで新規出稿を獲得することもある。広告自体は収入においてそれほど大きな比重を占めないが、出稿者は予備校や出版系企業が多く、発行部数や特別号、カラー印刷かモノクロ印刷か、などで広告料を調整しているという。また、京大新聞では卒業アルバムの制作販売収入や、学内で1部100円で配布する収入、そして保護者や卒業生に定期購読してもらうことも重要な収入源となっている、との解説があり、熊大新聞側からは驚きの声が上がった。
 販売拠点は学内に販売ボックスを設置している他、各研究室や定期購読者への郵送、そして最近は希望する全国の受験者に受験生特集号を郵送する活動も行なっており、特に受験生特集号は部数も多く、重要な広告収入源となっているという。「熊大新聞でも昔は受験会場での配布を行なっていた。来年度は再開できるようにしたい」との感想が聞かれた。
京大新聞は再来年を控える100周年に合わせて、記念誌の発行や広告展開などを計画しているといい、「広告を出稿してもらうだけではなく、100周年を機会として自分たちから売り込んでブランドを作っていきたい」という意欲をにじませた。

 また、取材や編集の手法や経験に関しては両社から質問や意見が集中した。京大新聞は「編集長」を置かず、各号の責任者である「デスク」を輪番制で決め、デスクが1号分のネタや原稿などを中心となって集め、実際の取材や執筆は会議で余裕がある人が志願して動くなど、柔軟な体制を取っているという。熊大新聞は部長を便宜上「編集長」と呼称しつつ、記事のネタは各社員がそれぞれの課題意識を持って企画し、それを各号の紙面編集担当者が実際の紙面に割り付けるという体制を取っている。知名度や部数や経営体力こそ大きな差があるが、厳格な分担体制を取っておらず、図らずも部員の規模もそれほど変わらないなど、編集体制に共通点も多いことがわかった。
 京大新聞では概ね学内ニュースを追いつつも、博物館展示や書評などの文化記事も重視しており、また最近では教職員やサークル代表などへのインタビュー記事やスポーツ記事にも力を入れているという。熊大新聞からは現在進行している学内問題の取材を重視しており、特にTSMCと新学部の問題などに注目している、という返答がなされた。

 話は両大学の文化や現状にも及んだ。熊大新聞側から、文化系サークル連合である文化部会の活動の停滞の現状が説明された。学生の当事者意識が希薄で、主体的に学生自治に関与していこうという人がほとんどいない、との発言。京大新聞からも説明があり、学部や課外活動施設ごとに自治会や利用者団体があるが、団体間や個人間の意欲の差や、学生寮の運営などを巡り大学と交渉する機会の多い学生などと、それ以外の学生との意識の差が大きく、全員に進んで自治を守っていこう、という気概があるわけではない。関心がある人が動いている、というのが実情で、サークル間の協議でも一部の団体のみが積極的に発言するような状況がしばしばあるという。
 どこの大学でも学生自治や学祭を動かし、維持していくのは並々ならぬ努力が必要となる。参加者からは「大学に関わっていくぞ、という気がある人が極端に減ってきている」「自由と自治のイメージがある京大でも、大学から学生から離れているという現実が……どこでも同様にあるというのはショックだ」などの感想が聞かれた。

 京大の「象徴」ともいえるタテカン(立て看板)文化についても意見が交わされた。京大の場合、タテカン規制は山極壽一・前総長の時代に始まったものだが、タテカン規制は京都市の行政指導という側面もあって、総長が代わったとはいっても、今の湊長博総長(2020年就任)は前の体制で理事をやっていたので、むしろ規制は本格化している。福利厚生を削減したりとか、そういうことが進められているのが目がつく、という指摘。
 京大生からは「規制が強まってから、むしろタテカンを立てた、ということをアピールする傾向がより強まっている。タテカンという存在に加えて意味づけがなされてきている。手段が目的になっている部分は最近はある気がするが。例え規制がなくなっても(それはそれで面白いけれど)、元の意味でのタテカンは戻ってこなくなるのではないか」という感想が聞かれた。
 熊大の場合、少なくとも黒髪キャンパスではタテカン文化は生き残っており、特に学生会館周辺に多くのサークルが掲示を行なっている。京大でもキャンパス内指定場所でのタテカン設置は認められているものの、京大側から「他の大学とかだと学外者は生協に入れなかったり、ビラすらまけなかったり、規制が強まっている中、そういう環境は貴重だ」との声があり、熊大側から学生会館に木が多く、タテカンを掲示しやすいことや慣習的にタテカンが認められていることなどが説明された。

 交流会の取りまとめとして、両社から感想が出された。京大からは「京大は『自由、自由』と言われがちだが、内部では『自由がなくなっていく……』と悲観主義的な人がいる。しかし、まだ他の大学と比べるといい意味での緩さ、学生だけでなく学外者に対しても自由に構内が開かれている、という感じはまだ残っていると思う」。熊大からは「文化部会とかサークルとかが、悪い意味で高校の生徒会とか部活の延長線上にあって、学生として色々主体的に動かしてやってみる、という気風が薄い。しかし、両大学には課題も多いが共通点も多い。今後も意見交換や交流などを通じて切磋琢磨していきたい」と新入生の意見表明があった。

両社は今後も紙面交換などを通じて交流を続けていく計画だ。京都大学新聞は学内で配布されている他、定期購読も可能。ホームページでは紙面掲載の1ヶ月後に記事が掲載される。
(2023年5月20日)


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