マガジンのカバー画像

マリオネ・テスタと空欄[K]

6
著・亮月冠太朗 絵・市川正晶 傷ついた青年が出会った、この世のものではない何かと闘う少女たち。(創作/連載小説)
運営しているクリエイター

記事一覧

マリオネ・テスタと空欄[K] 第五話

マリオネ・テスタと空欄[K] 第五話

著・亮月冠太朗  絵・市川正晶

 

 金城拳聖(かねしろけんせい)。

 最初には、未夕ではなく……竹山でもなく、彼を生き返らせたかった。

 最後に言葉を交わしたのが彼だったから。

 何より、彼の声を聞きたかったから。

「よかった。生きてたんだな」

 生き返った拳聖の第一声。

「死ねばよかったのにな」

 そして二言目。歪んだ口元が彼の皮肉を際立たせる。瞳は苛つくほど無邪気に輝き、俺

もっとみる
マリオネ・テスタと空欄[K] 第四話

マリオネ・テスタと空欄[K] 第四話

著・亮月冠太朗  絵・市川正晶

 

 俺は宵に、焼ける空を見上げる。

 焔がただれた眼にしみる。

 屋上が焼き野原のように赤く染まり、そこに俺の影だけがどす黒く伸びている。

「あの日、お前が失ったものは何だ?」

 空が鳴る。その中心を睨みながら握る拳の中で、固体にも似た血流を押し殺す爪が今にも割れてしまいそうだ。割れてしまえばいい。解き放たれた怒れる血が体内を駆け巡り俺を急かす。そうし

もっとみる
マリオネ・テスタと空欄[K] 第三話

マリオネ・テスタと空欄[K] 第三話

著・亮月冠太朗  絵・市川正晶

 自分の心と向き合うことができなくなった男はもはや冷めきった愛情に気づくこともなく、依存へと変わり果てた感情を愛情と名づけて抱きしめる。愛しているつもりの掌で相手の心を押し潰しているということに、男は気づかない。無粋だ。

 彼がもしそれに気づき、嘲笑や侮蔑を背に受けながら、尚も自らの心と向き合おうとするならば、ふたたび愛情を手にすることができるだろう。

 俺は

もっとみる
マリオネ・テスタと空欄[K] 第二話

マリオネ・テスタと空欄[K] 第二話

怪物と対峙した眞紘は、神社の境内で目が覚める。そこには、右腕を失ったままの散歩と未夕がいた…。

『マリオネ・テスタと空欄[K]』

著・亮月冠太朗  絵・市川正晶

「……」

「……」
 神楽坂散歩(かぐらざか さんぽ)を見失った。慣れない都会のひといきれに参ってしまったようだ。その点では、体調を気にする必要のない彼女たちが羨ましい。
 ガードレールに腰掛ける。胸ポケットから煙草を取り出す。少

もっとみる

「月刊エトランゼ 作品人気投票2015夏」投票受付中です! あなたの好きな作品にぜひ一票お願いします。https://questant.jp/q/6XEE5JML

マリオネ・テスタと空欄[K] 第一話

マリオネ・テスタと空欄[K] 第一話



「あ」

 あっけなくもそれが最期の言葉となった。

 鈍い音とともにからだが四方へ吹き飛ぶ。

 目に映る光景には――朝陽に煌めく赤い飛沫、目を丸くさせた運転手、ホームに並んだ灰色スーツが一様に■を見つめている――それらが弧を描くように視界から消えて、最後には一面の星空になった。

 ああ、死ぬんだ。

 感覚でわかった。実感があった。■は死ぬ。線路と自分との間が温かいのはきっと血だろう。遠

もっとみる