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マリオネ・テスタと空欄[K] 第五話
著・亮月冠太朗 絵・市川正晶
金城拳聖(かねしろけんせい)。
最初には、未夕ではなく……竹山でもなく、彼を生き返らせたかった。
最後に言葉を交わしたのが彼だったから。
何より、彼の声を聞きたかったから。
「よかった。生きてたんだな」
生き返った拳聖の第一声。
「死ねばよかったのにな」
そして二言目。歪んだ口元が彼の皮肉を際立たせる。瞳は苛つくほど無邪気に輝き、俺
マリオネ・テスタと空欄[K] 第四話
著・亮月冠太朗 絵・市川正晶
俺は宵に、焼ける空を見上げる。
焔がただれた眼にしみる。
屋上が焼き野原のように赤く染まり、そこに俺の影だけがどす黒く伸びている。
「あの日、お前が失ったものは何だ?」
空が鳴る。その中心を睨みながら握る拳の中で、固体にも似た血流を押し殺す爪が今にも割れてしまいそうだ。割れてしまえばいい。解き放たれた怒れる血が体内を駆け巡り俺を急かす。そうし
マリオネ・テスタと空欄[K] 第三話
著・亮月冠太朗 絵・市川正晶
自分の心と向き合うことができなくなった男はもはや冷めきった愛情に気づくこともなく、依存へと変わり果てた感情を愛情と名づけて抱きしめる。愛しているつもりの掌で相手の心を押し潰しているということに、男は気づかない。無粋だ。
彼がもしそれに気づき、嘲笑や侮蔑を背に受けながら、尚も自らの心と向き合おうとするならば、ふたたび愛情を手にすることができるだろう。
俺は
マリオネ・テスタと空欄[K] 第一話
「あ」
あっけなくもそれが最期の言葉となった。
鈍い音とともにからだが四方へ吹き飛ぶ。
目に映る光景には――朝陽に煌めく赤い飛沫、目を丸くさせた運転手、ホームに並んだ灰色スーツが一様に■を見つめている――それらが弧を描くように視界から消えて、最後には一面の星空になった。
ああ、死ぬんだ。
感覚でわかった。実感があった。■は死ぬ。線路と自分との間が温かいのはきっと血だろう。遠