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試合中に卓球選手が発する「チョレイ」や「サー」などの“掛け声”の意味とその効果🏓


今回は試合中の声についての話だ。先日行われた全日本卓球選手権では、新型コロナウイルス感染症対策として、初の無観客での開催となった。握手などの接触をしないことはもちろん、台についた汗を手で拭うこともできないなど、選手達も普段と違う環境でやりにくい面が多々あっただろう。そんな中、ひとつ話題になったのが、「声」についてだ。

今大会は飛沫防止などの観点で、プレー中に大きな声を出すことを控えるということがガイドラインにて示された。普段から声を出すスタイルの張本智和選手などは、審判に注意をされた以後は自粛し、今ひとつ調子が乗り切らなかったとインタビューで語っていた。今回はそんな試合の中でも重要な役割を担う「声」について考えてみる。

卓球の試合の中で声を出すタイミングというのは、大きく分けて3つあると考える。それぞれ見ていこう。

(1)プレーに入る前に発する声

サーブが出される前に、サーバーあるいはレシーバーが声を出す瞬間が見られる。この声については、次のプレーへの気合の表れにほかならない。「ようし、次の一本をなんとか得点するぞ」といった意気込みが「サッ」といった短い声となって出てくるのだ。

このタイミングで声を発するトップ選手はやや少数であるが、張本選手などはここでも声を発することが多かった。2017年世界選手権では、スロバキアのピシュティ選手にその声を「気が散る」などと指摘をされて、メンタル面での揺さぶりをかけられるというシーンもあった。

普段からこの場面で声を出している選手にとっては、それが一種のルーティンとなっていることもあり、それを阻害されるとなると当然プレーにも影響が出るため、相当やりづらかったことだろう。

(2)打球時に発する声

プレー中、ボールを打球する瞬間に声を出す選手もいる。意識的に出す場合もあれば、無意識的に出てしまうこともあるだろう。テニスのサーブの際、あるいはハンマー投げの投てきの際に出るものと同じ類のものだ。

これは大きな声を出すことにより、瞬発的に大きなパワーが出るというもので、筑波大学の研究チームが発表をしている。そのメカニズムは、投てきなどのパワー系の種目では特に、大きな声を出すことで脳から筋肉への命令のリミッターを一時的に開放し、極限まで力を出すことができる、といったことだそうだ。

卓球においてももちろん瞬発的に力を出す機会はたくさんあり、態勢が崩れた状態からなんとか喰らいついて返したいときや、ロビング打ちのときなどは特に顕著である。水谷隼選手やドミトリ・オフチャロフ選手(ドイツ)など、トッププロでも打球と同時に声を出す選手は結構いるものだ。

(3)プレーが終わり得点をしたときに発する掛け声

ナイスボールで相手を抜き去った際、凄まじい回転でサービスエースを取った際、声を上げる選手は多い。これがいわゆる、「チョレイ」や「サー」で話題になった、得点時の掛け声である。

「サー」は「よっしゃあ」の語尾が変化したものというのは明確であるが、言葉ではなく「感情の高まり」が音として出てきているものなので、無理矢理に文字で表現するのは本来はナンセンスなことだという意見もある。

この声は主に自分のプレーが上手くいって得点したときの発するものだ。日常生活でも何か上手くいったときに「よしっ!」と声に出したことは誰しもあるだろう。基本的にはそれと同じだと考えてもらえばよい。シンプルに嬉しいから声を出すという側面もあるが、ここで大きな声を出すことには、2つの効果がある。

♦1つ目が「自らの調子が上がる」ということだ。
声を出すと興奮状態になって心拍数が上がり、身体のパフォーマンス  が高まる。さらに試合に没頭し、より集中力が高まる効果も期待できる。

声を出すことで自らを鼓舞し、メンタル的にもフィジカル的にも、調子を上げていく効果が声にはあるのだ。ただしそれは全員が全員同じだ とは限らない。なかには全く声を出さない選手もいるからだ。そこが大きく関わってくるのが、

♦2つめの「相手への波及効果」である。

自分の身に置き換えて考えてみよう、もし対戦相手が、1点ごとに会場に響き渡るほどの大きな声を出す選手だとしたらどうだろうか。おそらく非常にやりにくいはずだ。

声、つまり音というのは空気の振動である。その空気の振動が伝わってくるからこそ音を感じるのだ。いわば相手の燃える気迫の波が押し寄せてくるということだ。それに飲まれて強気のプレーが出来ない、いつもの力が発揮出来ない、ということは十分に考えられる。

もちろん、相手を威嚇・萎縮させる目的で大きな声を出す選手は居ないし、そういう意図ならバッドマナーとして警告を与えられるべき事案である。ではあるものの、やはり相手の「気迫」というものは伝わり、選手の心理面に少なからずの影響があることは否定出来ない。

しかし逆に全く何も声を発しない相手も不気味である。いわゆる「ポーカーフェイス」というやつだ。声は感情の現れでもある。声を出さないということは、感情の動きが全く読めないので、何を考えているのか分からない。ミスをしても、スーパープレイをしても、悔しいのか嬉しいのか、一切分からない。

東京五輪代表の丹羽孝希選手(スヴェンソン)はその筆頭だ。そのような淡々としたプレーをする選手は、実は非常にやりにくいものなのだ。

♣まとめ

今回は卓球の試合における「声」についてのコラム的なお話をさせてもらった。最後に個人的なお話をすると、私自身は極力ポーカーフェイスを保ちつつも、ここぞというときには大きな声を出すタイプである。

やはり声を出した方が、自分の身体の動きも良くなり、集中力も高まる感覚がある。さらに団体戦などで応援が多くいる際は、いつも以上に声を出すことでベンチが盛り上がる効果も期待できる。

声を張り上げている試合の方がよりエキサイティングで興奮する。選手の感情が画面越しにも伝わってきて、同時に次のプレーへの緊張感も感じ、自分がその場にいるかのような臨場感を得られるのだ。大矢英俊、吉田海偉、森薗政崇、神巧也ら、雄叫び・咆哮とも言えるほどのガッツあふれる選手達が私は大好きだ。

単なる「声」にもその裏側にはたくさんの要素が含まれている。そんなことを思うと、より卓球をやるのも観るのも、より楽しくなること間違いなしだろう。

次回は、ロビング・フィッシュのコツ センスではなく練習あるのみを紹介させていただきたいと思います。

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