マガジンのカバー画像

装ひ堂のブックレビュー

9
既読本のレビューをのらりくらり。
運営しているクリエイター

記事一覧

『去年の冬、きみと別れ』/中村文則著

推理小説というものは一般的に、物語に於ける起承転結の結部がわかりやすいと思っている。 乱暴に言ってしまえば、大広間に関係者を集めて「この中に犯人がいます」と、探偵に宣言させれば良い。 しかし今作に於いては、そのセオリーが通用しなかった。 起承転結の結は、どこが始まりだったのだろう…? 自分が今読んでいるこの描写は、もう伏線の回収に入っているつもりで読んでいいのか、それともまだ、転部が続いているのか…読みながら私は、とても不安だった。 不可解で曖昧な狂気に満ちた

『黒後家蜘蛛の会1』/アイザック・アシモフ著

世のミステリ好きにとって、ココロオドル単語がいくつかあると思う。 嵐、吹雪、館、山荘、孤島、マザーグース、わらべうた、見取図、見立て、倒叙、クローズドサークル… そして、安楽椅子。 私がこの本を初めて手にしたのは十代の頃だ。 そして、安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)というジャンルのミステリを知った初めての作品だったと思う。 正直、かなりの衝撃だった。 まず…『安楽椅子とは何ぞや?」である。←そこ?(;゚д゚) いやいや、十代半ばの知識には『椅子』は『椅子』

『ミライヲウム』/水沢秋生著

凜太郎は父と二人暮らし。彼には触れた相手の未来が見える力があるが、良くないものが見えた過去の経験から、大学生になった今も恋愛事には踏み切れないでいる。 そんなある日、彼の脳裏に、同級生の立花の未来が映し出される。 それは、彼女が血を流して横たわる姿だった…。 自然で、スッと頭に入ってくる文体は、とにかく読みやすい。遅読の私が一日で読めてしまった…。 同時にこれはミステリ作家さんにとって、最大の武器なんじゃないかと思う。 だってあまりにも自然な文体で話がとんとん拍子に進んで

『君が護りたい人は』/石持浅海著

中学生の頃に山で両親を亡くした、歩夏(ほのか)が婚約した。相手は両親の死に責任を感じ、歩夏の後見人を務めてきた20歳も年上の奥津。 歩夏に片想いする同い年の三原は、彼女が無理矢理結婚させられるのだと奥津の殺害を企て、芳野にその行為を見届けて欲しいと話すのだが…。 舞台は、彼らが所属するトレッキングサークルで訪れたキャンプ場。そしてその場に居合わせるのは…碓氷優佳。 優佳シリーズ第5作。(高校時代の優佳作品はスピンオフ扱いだそうです) 残り二十数ページで、低く響く優佳の声。

『弁護側の証人』/小泉喜美子著

場末の劇場『レノ』で踊るストリッパー、ミミイ・ローイはとある資産家の御曹子と恋に落ちて結婚。屋敷で暮らすようになるが、彼女の前歴故に屋敷に住む者は皆彼女を軽んじ、結婚を認めようとしなかった。 そんな中、屋敷の主である舅が、離れで何者かに殺害される。 わりと早い段階で疑問を持った。 しばらく読み進めても、頭の中に絵が浮かんでこなかったせいだろうか。 古き時代のこの推理小説には、今ではもう使われなくなった言葉が散見されるので、雰囲気はたっぷりのはずなのに、だ。 気になったのは

はぶらし/近藤史恵

脚本家の真壁鈴音のもとに、高校時代の友人、古澤水絵が転がり込んできた。 DVを受け離婚、仕事もリストラされた水絵は行くところがないから、息子の耕太と共に、一週間だけ鈴音のマンションに置いてくれと言う。 しかし、一週間の約束が、また一週間延び、更には…。 ……………………………………… 私は決して友達が多い方ではない…と思う。 友達という存在は不思議なもので。 学生時代に、何年も同じクラスで過ごした人もいるはずなのに、今も付き合いがあるのは、3年間同じ高校には通ったけれど

キングを探せ/法月綸太郎

カラオケボックスに集う、奇妙なニックネームの四人の男。 交換殺人を企てる彼らの連帯意識は、それぞれに配られた、トランプの手持ちのカードによって繋がれていた。 ターゲットを入れ替えることで捜査を撹乱する四重もの交換殺人に、法月親子が挑む。 ……………………………………… この本のトリックが明かされた瞬間の心境を申し上げるならば、私は『盲点』の一言に尽きた。 綸太郎本人を使ってまで読者を騙し通そうとする、まさかの捨て身の手腕には、拍手を送りたい。 では、どこから騙され

レインレイン・ボウ/加納朋子

1人でも欠けると9人を割ってしまう高校時代の弱小ソフトボール部。卒業から7年が経った今、当時から心臓が弱かった知寿子が逝った。 通夜の席で再会した、キャプテンの片桐陶子を始めとするかつてのチームメイト達は何を思うのか? 愛すべき女性、知寿子と関わりを持つチームメイト8人の今と、その胸の内。 7編を収録。 ……………………………………… いつもながら、背筋の伸びた小説を書く人だと思う。 迷いや弱さがあっても、自分の進む方向を姿勢を正して見ることが出来る女性たちは、本当

金曜日ラビは寝坊した/ハリィ・ケメルマン

ラビ(ユダヤ教の立法学士)という職に就くディヴィッド・スモールの評判は、信徒の間で、決して良くはなかった。というのも、根っからの学者肌である彼にとって、夢中になった本がある限り、ボサボサの髪やしわくちゃの服というものは、些細な問題に過ぎなかったからだ。 そんなラビを次期も採用するか否かの討議が、信者の間で行われている折、ラビの車のそばで、女性の絞殺死体が発見される。当然、自分にふりかかってくる疑いを、彼は退けることが出来るのか? アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞受賞。