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地霊

陽の傾きかけた午後の街なみに
立ち昇る
ゆらゆらと
霧のように

日向の街路樹たちにぼんやりと
日陰のベンチたちにふうわりと
白くたゆたう
煙のように

行先をもたない童のように
道を失った壮年のように
ゆらゆらと佇む
記憶たちの影

それははるか何万年も前の
人々の囁き
鳥たちの囀り

互いの存在を確かめあうための
歌声
呼び声
返す声

それがいま
午後の街なみに集い戯れ
祝祭のように辺りを満たし

街を あなたを
真綿色に
つつみ込む

あなたはひとり
霧をかき分け
煙を抜け

街を漂い
夢を彷徨い

影に惹かれ
声に震え

降りしきる涙にぬれ
響きわたる喧騒にのまれ
 
その奥のぞっとするほどの
冷たいぬくもりに
頬をよせ
 その身を擁く


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