「初恋シグナル」【しの&あすか】編のノベライズ リリースの前夜に

12月6日にリリースされるPalsora様提供のカードノベル投稿アプリ「izure」にて、favary様提供のマルチタイプ恋愛シミュレーションゲーム「初恋シグナル」【しの&あすか】編のノベライズをさせていただくことになりました。

ノベライズは原作の「余韻」として存在する物語になればいいなと思っています。そして願わくば、あすかとしのによって、こんな恋がしたいと感じていただけたら嬉しい。あるいは、既に好きな人がいる方にとって、その気持ちは間違っていないんだ、という思いにつながればいいなと思います。

私が十代だったのは、もう二十年以上も昔のことです。同人誌や電子書籍で既にギャルや優等生な高校生たちのお話は書いていますが、しのやあすかのようにしっとりと綺麗な恋愛物語に正面から向き合うのは久しぶりで正直照れくささを乗り越えるのに苦心しました。
けれど、十代のときのことは覚えています。
私は、気が付いたら女の子にしか恋をしたことがなかった人間です。幼稚園児のときも、小学生のときも、「好きな男の子がいる」女の子に話をあわせながら生きてきました。
けれど、ずっと、いつでも、その話をする女の子や、女性の先生そのものに恋をしていました。

小説家を目指しはじめたのは中学生の頃です。
少しずつそれらしき文章を少女小説の雑誌に投稿しはじめたのは二十歳をすぎてからでした。今でいう百合小説を主として書いていました。
途中でBLを書いたりもしましたし、男女の恋情を綴ろうとしたこともありましたが、結局は百合に戻ってきて今に至ります。

いまや「産業」になりつつある「百合」ジャンルに携わらせて頂けることが、どれほど嬉しいか伝えようとしても伝え切れません。大人になって、発信する側として、女の子と女の子の恋情を描くストーリーに少しでも携わることができるのが光栄です。十代の自分が、今の私のしていることや、百合ジャンルのこれほどの広がりを知ったら、きっと涙を流して喜ぶんじゃないかと思います。
私もまた大きな意味で、この度のノベライズの読者でもあります。

恋というのは、「その人に対する恋」を初めて経験することによって獲得されるものでもあります。そして、初恋は自身にとって唯一で初めての体験ですから格別です。
赤毛のアンが、朝は曇りでも雨でもすばらしいといっていたように、初恋は、どういうものでもすばらしいです。片思いでも失恋でも。

十年ほど前に、ものすごく世の中に失望してしまって、恋どころか、嬉しいとか悲しいとかそういうことも感じられなくなってしまったことがあります。
けれど、ふとした弾みに初めて好きになった人のことを思い出して、それだけで一歩だけ歩き出す勇気がわいてきた、ということがありました。その相手とはずっと連絡もとっていませんし、会うこともないのですが、それでも、その人について尊敬し、愛した、矛盾のない気持ちはずーっと残っています。
どんなに立派な作家の書いた小説でも、どんなに有名な映画でも、どん底に落ちたときにそこまで引き上げてくれるものはほかにありませんでした。
人を好きになって尊敬する気持ちを覚えさせてくれた、初めての恋は、もしかしたら思い出補正がかかっているかもしれないけど、それでも宝物です。

同じ女の子同士でも、しのとあすかは全然違うタイプです。しのとあすかが歩みよって、恋をしたように、まったく違う人たちでも話し合ってわかりあうことはできます。
同性愛者でも話があわなかったり、異性愛者でも気があったりもします。
人間は二種類しかいない、わけではない。それだけは確かだと思っています。

自分はしのやあすかのようにうまく生きられない、恋愛もかなわなかった、ゲームと現実は違うと思う方もいるかもしれません。けれども、私が幼かった頃には「現実とは違う」と言えるほどの対象すらなかったのです。まったくの暗闇でした。

暗闇を感じたら、初恋シグナルをそっとプレイしたり、このノベライズを読んでみたりして、励みにしてほしいです。
願わくば、彼女たちが悩む人の親友であるようにと願い綴っています。
彼女たちの元気な姿が、悩んでいる人の気持ちを少しでも励まして導いてくれるように祈ります。そういう存在になりますように祈ります。


カードノベル投稿アプリ「izure」 https://itunes.apple.com/jp/app/izure/id1387980600?mt=8

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