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洞察瞑想で感覚を研ぎ澄まし、クリエイティビティを高める

脳のデフォルト・モード・ネットワークとマインドワンダリング


デフォルト・モード・ネットワーク」(Default Mode Network)という言葉をご存知でしょうか。これは、ぼんやりした状態の脳が行なっている神経活動を指し、1990年代後半に発見されました。私たちがボーッとしながら散歩をしたり、掃除をしたり、一息ついている時に、とりとめのないことが浮かんでくるのは、この「デフォルト・モード・ネットワーク」の働きによるものです。

そして、近年の脳活動の測定技術の発展により、この「デフォルト・モード・ネットワーク」がクリエイティビティと関連していることがわかってきました。つまり、「デフォルト・モード・ネットワーク」が活発になるとクリエイティビティが高まり、アイデアが生まれやすい可能性があるのです。

ただし、「デフォルト・モード・ネットワーク」が活発になりすぎると、頭の中を様々な考えがよぎり、注意力が散漫になります。そして、過去のネガティブな出来事や将来の不安などに苛まれることになりがちですので、注意が必要です。また、「デフォルト・モード・ネットワーク」は脳の総エネルギーの60~80%を消費するため、活発になりすぎると、脳疲労を感じやすくなります。

ちなみに、心理学では、物事を何度も繰り返し考え続けることを「反芻」(はんすう)と言いますが、特に、自分の抑うつ気分や,その状態に陥った原因などについて,ネガティブに考え続ける抑うつ的反芻は,抑うつ気分を持続させる要因になるため、注意が必要です。(詳しくは、「反芻思考はクリエイティビティには役立つ!?」をご覧ください。

では、抑うつ的反芻にならずに、適度に「デフォルト・モード・ネットワーク」を活性化させ、クリエイティビティを高めるにはどうしたらいいのでしょうか。次に、その解決策となる瞑想法について説明します。


2種類の瞑想法


マインドフルネスという言葉をご存知でしょうか。マインドフルネスとは、次々に生じる今この瞬間の出来事や経験にありのままに気づいている状態や、それが定着した特性のことを指します。アメリカのウィスコンシン大学心理学部のアントワーヌ・ルッツ博士らは、このマインドフルネスを高める実践法として、2つの瞑想技法の効果を明らかにしました。

2つの瞑想技法のうちの1つは、特定の対象に意図的に注意を集中する集中瞑想です。集中瞑想を実践することによって、今この瞬間に生じている出来事や経験に注意をとどめるための集中力が養われます。集中瞑想を繰り返すことによって、複数の刺激の中から特定の対象を選び出す選択的注意機能や、注意を特定の対象にとどめる持続的注意機能が育まれます。

やり方としては、何でも良いので特定の対象(例えば、ろうそくの火などの物理的実体や満月のイメージなど)に注意を向けます。よく使われるのは呼吸です。なせなら、呼吸は身心の状態とともに変化するため,呼吸に意識を集中することを通じて、身心の状態を把握することが可能になるからです。

もう1つの瞑想技法は、今この瞬間に次々に生じている感覚や感情、思考などに対して、特定の対象にとらわれず、ありのままに気づく洞察瞑想です。洞察瞑想を実践することによって,様々な感覚、感情、思考の生成と消滅の流れにありのままに気づくようになるため、どのような対象も常に変化し続け、自分の思い通りにコントロールできないものであることを体験的に理解することが可能になります。これによって、穏やかで落ち着いた心の状態である平静さが育まれることが研究で明らかになってきました。


洞察瞑想でクリエイティビティを高める


そして、この洞察瞑想こそが、抑うつ的反芻にならずに、適度に「デフォルト・モード・ネットワーク」を活性化させて、クリエイティビティを高めるのに役立ちます。なぜなら、洞察瞑想をすることで、頭に浮かぶ様々な思いや考えに対して、いちいち余計は判断を挟むことなく、受け流すことができるようになるため、脳疲労を起こさずに、様々なアイデアに思いを巡らせることができるようになるからです。

洞察瞑想のやり方は至って簡単で、静かな場所で、楽な姿勢で座った状態で、自分の身体の感覚や沸き起こる自然な感情や思考に対して、特定の対象にとらわれず、ありのままに気づくだけです。目は半眼(半分開く)でも、閉眼でも良いですが、眠らないようにしましょう。

そして、例えば、「ちょっと足が痒いなぁ」という身体の感覚に気づく、「座っているのは退屈だなぁ」という感情に気づく、あるいは、「あのメールに返信したっけ?」という思考に気づくという具合です。決して、メールの返信のし忘れに気づいて焦ったり、ストレスを感じてしまったりしないようにしましょう。あくまで、「あのメールに返信したっけ?」という思考が浮かんで来たなと気づいて、それ以上、判断することなく、受け流しましょう

この練習を1日10分程度でも続けていくと、だんだんと頭に浮かぶ様々な思いや考えに対して、いちいち余計は判断を挟むことなく、受け流すことができるようになるため、ちょっとしたクリエイティブなアイデアに出会いやすくなります。

そして、浮かんだアイデアで良いと思ったものは、必ずメモに保存することを忘れないようにしましょう。アイデアはすぐに消えてしまい、その後、思い出せなくなってしまうことはよくありますので、ご注意ください。

参考文献:
・Beaty, R. E., Benedek, M., Silvia, P. J., & Schacter, D. L. (2016). Creative cognition and brain network dynamics. Trends in cognitive sciences, 20(2), 87-95.他
・Lutz, A., Slagter, H. A., Dunne, J. D., & Davidson, R. J. (2008). Attention regulation and monitoring in meditation. Trends in cognitive sciences, 12(4), 163-169.
・藤野正寛, 上田祥行, 井上ウィマラ, & 野村理朗. (2019). 心理学実験のための集中・洞察・慈悲瞑想の短期介入インストラクションの開発. マインドフルネス研究, 4(1), 10-33.

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