20231112

 新潮12月号に掲載されている、九段理江「東京同情塔」を読んでいる。

 建築家は塔を描き出す。鉛筆によって、言語によって。同情されるべき人々(ホモ・ミゼラビス)の未来はいかに。生成AI時代に「人間の条件」を問う野心作!

新潮2023年12月号

という編集部の宣伝文句に興味をそそられ、手に取った。もともと、二年前に「阿波しらさぎ文学賞」に応募する作品の題材を探していた際に、徳島の鳴門市に建築群がある建築家の増田友也を知って以来、モダニズム建築に大きな関心を寄せている。その作品は箸にも棒にも掛からぬ結果だったが、その後も建築家をモデルにして何作か作品を書き続けている。九段理江は先日、「しをかくうま」(文學界6月号)で野間文芸新人賞を獲ったばかり。そこでは競馬の実況を題材にしていた。偶然にも、わたしがBFC5に提出した作品は話す馬を登場させており、わたしの興味関心と彼女の興味関心には共通している部分があるのではないか、とまだ未読だったわたしは思った。同じような題材をわたしより若い女性の文壇で勢いのある作家が書いてる時点で、わたしが小説を書く意味などないのではないか。そういう恐怖もあって、読んだら後戻りできないと思っていたが読みだすと面白い。太宰治の『女生徒』をオマージュした『Schoolgirl』で芥川賞候補になっていたので、てっきりそういう近代日本文学に根差した私小説っぽい作風をイメージしていたが、現代の社会問題を題材にした皮肉の利いた思弁的文体で驚いた。ちょっとこれから注目していきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?