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ベルリン国際映画祭コンペ選出作品たち

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カンヌ映画祭のコンペ制覇にあわせて、ベルリン映画祭のコンペもゆるゆると書いていきます。2020年から始まったエンカウンターズ部門の記事も入れます。
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2020年3月の記事一覧

フランソワ・オゾン『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』パパ、まだ神を信じている?

神父ベルナール・プレナは1980年代から1990年代にかけて、スカウト運動に関与した少年たちに性的暴行を加えていた。被害者の一人アレクサンドルが事件から30年近く経ってから神父と対面すると、彼は事件も自身の小児性愛的志向も認めながら未だにスカウト運動の指導者として子供の近くで活動していた。そして、リヨン大司教はそのことをバチカンに報告しなかった。アレクサンドルは訴えを起こし、フランソワ、エマニュエルといった被害者たちと共に立ち上がる。ここから想起されるのは勿論『スポットライト

アンゲラ・シャーネレク『I Was at Home, But...』あるハムレットの石蹴り遊び

凄まじい大傑作。小津安二郎リスペクトが止まらないシャーネレクの最新作は、題名からもそれが分かる。失踪した13歳の少年が突如として戻ってきたシーンで始まる本作品は、『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』に似た『家にはいたけれど』という題名なのだ。しかし、本作品には同作で重要な人物となる"父親"が欠けている。大人の世界で妥協/迎合する大人も、それを間近で見て幻滅/受け入れる子供も存在しない。シャーネレクの代名詞とも言える冷徹なまでに研ぎ澄まされたフィックス長回しで捉えられるのは、