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初演を超えた。エネルギッシュなフレンチ・ミュージカルで魅せる『1789-バスティーユの恋人たち-』


2016年に日本初演を迎え、今回2年ぶりの再演となる帝国劇場にて上演中のミュージカル『1789-バスティーユの恋人たち-』。

フランス革命の起きる時代、近代ヨーロッパでの運命的な愛の物語、そして自由・平等・博愛を求める若き民衆の物語を国民がGWで沸いている中!ウキウキも有頂天になりながら帝劇に足を運び観劇してきました。


2年前の初演時同様、主人公のロナン役は小池徹平さん、加藤和樹さん(Wキャスト)、ヒロインのオランプ役は神田沙也加さん、夢咲ねねさん(Wキャスト)、マリー・アントワネット役は凰稀かなめさんと、2018年新キャストの龍真咲さん(Wキャスト)。30代前半の役者が主要キャストの陣を取ることで帝国劇場で普段見られる重厚さ、深く熟した趣きよりも、ひと際爽やかさが感じられるミュージカルに。

ほかの東宝ミュージカル、『レ・ミゼラブル』や『エリザベート』、『モーツァルト!』のように再演を何度も重ね、ロングラン公演をしている人気な名作品とは違い、東宝版としてはまだ出発したばかりの新たな風の吹く作品だと思いますが、今年が2度目・・・?!と思うくらい〈フランス革命の歴史や、その時代に生きた若者たちのエネルギー、身分により叶わなかった恋愛、身分や立場を越えた愛〉を現代に持ってきてくれた作品になっていました。


パリに咲き、バスティーユに散った美しき愛の物語。

民衆は貧困にあえぎ、貴族は贅沢に溺れる18世紀末のフランス—。

農夫ロナンは父を貴族に殺害されたことをきっかけに、パリへ飛び出し、革命派に身を投じ、ロベスピエール(三浦涼介)、ダントン(上原理生)、デムーラン(渡辺大輔)ら熱き仲間を得て、新しい時代に希望を燃やす。

 一方、宮廷に仕える心優しき侍女・オランプはマリー・アントワネットとフェルゼン伯爵(広瀬友祐)の逢瀬を手引きしてパリにやってくる。そこでマリー・アントワネットをつけ狙う一味との騒動に巻き込まれたロナンはオランプと運命の出逢いを果たす。

 決して出逢う筈のなかった二人は強く惹かれ合うも、対立する身分が壁となる。そして、愛に悩む彼らの心を揺さぶるかのように革命の足音が近づいてくる…。

  1789年7月14日、バスティーユ牢獄襲撃。遂に革命の火蓋が切って落とされる—。

『1789-バスティーユの恋人たち-』公式サイト STORYより


フランス革命の始まりとなったバスティーユ襲撃事件の話とパリで出会った身分の違うロナンとオランプの恋物語を中心に描かれた本作。

どんなに愛していても身分の壁によって簡単には一緒になることが出来ない、好きになってはいけない人。という場面が如実に表れる時代のフランス18世紀末に、貧富の格差や自由のきかないことが多くあった民衆の声は国に真っ向から立ち向かわなければならないと思わせるほどに切実な気持ちで大きな叫びとなっていました。

舞台では、そういった民衆の声をロックミュージックや結束力の感じる力強く激しいダンスでエネルギッシュに魅せています。

Wの面白さが存分に楽しめるキャスティング

私が観劇した日のWキャストはこちら。

物語はロナンとロナンの妹ソレーヌ(ソニン)が、目の前で貴族によって父親を銃殺されるショッキングな場面から始まります。

絶望の淵に立たされたロナンが最初に歌う曲は「♪ 肌に刻み込まれたもの」。悲しくて、恨みや憎しみもあるはずなのに、このときのロナンの感情はそういう負に満ちた気持ちばかりではないように感じて、闇に落ちない強さが加藤さんロナンにはあるように感じられました。

また加藤さんの演じるロナンは初め無骨で少し喧嘩っ早くありながら、愛する相手オランプに出会ってからの真っ直ぐに愛を示すところや革命のため正義のままに突き進むところが良い意味で変化がある熱い男を醸し出しています。

オランプに惚れてからのロナンは特に愛に一直線なところも見れて、「オランプに会いたくて仕方がなかったんだ!」と言ったときにはそういうのは好きになるから(私が)他所でやってくれって思いました。完全に私が蚊帳の外であるのは間違いないのですが。一途な男はイイですね。


ロナンの相手役、神田さん演じるオランプは王妃アントワネットの命を忠実に守り、王太子の養育係を真摯に務める気品ある女性。

ロナンと出会って彼に心惹かれていくも、自分の役目や立場を考え、なかなか自分の気持ちを素直に受け止められないところや、自分のせいでロナンが罪の疑いをかけられバスティーユの牢獄に入れられてしまうときも真っ先に助けに行く芯のある清い心の持ち主です。

加えて、神田さんの雑味のなく真っ直ぐ通る声。ほんっとに生で聞いてほしい!

主人公に寄り添うヒロインの存在を歌声や仕草で表現していて、オランプひとりだと自立した女性になるのに、ロナンと一緒だと二人で一人の恋人関係を作ってしまう。これを違和感なく出来てしまうのが凄いですし

「自由とは、他人を害さないすべてことを成しうることである!」

この台詞を言う神田オランプが美しすぎます。


そしてマリー・アントワネットの龍真咲さん。

宝塚歌劇団対談後、初めての舞台出演。私も初めて拝見しました。宝塚では男役トップスターだったと後で調べて気づくほど、愛らしい少女の雰囲気とトップの座にいる王妃としての風格、アントワネットのイメージにある豪華なドレスが似合う姫を演じられていて、アントワネット登場シーンで歌う「♪ すべてを賭けて」での冒頭のきれいなソプラノがさらに舞台を華やかにしています。

また革命派を中心とした国民の声が大きくなり、いよいよロナンとオランプの立場に一線を引かれざるを得なくなったとき、自分に忠誠心を持つ彼女自身からは言い出せないであろう一番の望み=ロナンと共に生きる選択肢を、アントワネットが与えて優しく促す姿も、自身はフェルゼン伯爵を恋人として一番に愛しながら国を治める王妃の最期の役目を果たすべく国王と生きることを選ぶ姿も、どちらも王妃としての貫禄を見せ、この舞台でのアントワネットは優雅さと強さを兼ね備えていました。

最期は儚く一瞬で・・・。王妃の物語は秋(10月、11月上演予定の『マリー・アントワネット』)でたっぷり見せてもらいます・・・!


今回、主要キャストは上記のお三方で観ましたが、一方の小池徹平さんや夢咲ねねさん、凰稀かなめさんが演じるそれぞれの役での雰囲気はまた違ったものになっているらしく、かーなーりキャストを変えてもう一度観たくなるキャスティングになっているのも1789の見所。

「同じ内容をなんで何回も観るの?」という答えのひとつはここにあります。

キャストが違うと全く違う作品になる。ひとつの台詞さえも違う受け取り方が出来て、歌に込められた思いも変わってくるのです。だから面白い。やめられない。時間とお金さえあれば劇場に住みたい。ミュージカルは一度ハマると抜け出せない。そういうことです。一生涯退屈したくない方におすすめです。

今年はWキャストを組み替えた計8回分観劇すると、特典が貰えるスタンプラリーキャンペーンを開催していてミュージカルに沼落ちした贅沢な遊びみたいになっています。羨ましすぎる。


印象的だった群衆の革命の声、ソレーヌの変わっていく姿

今回特に印象的だったのは、群衆のシンクロダンスとソレーヌ。

音楽や歌、ダンスを観ていて、現代風なロックで力強いものを感じたのですが、これは「フレンチ・ミュージカル(=フランス生まれのミュージカル)」に見られる特徴的なパフォーマンスで、観客の心の深い部分で感情を揺さぶるよりも視覚・聴覚で訴えかける部分が多かったように思います。

その最たるものが群衆の不平等で自由のきかない状況を自分たちで変えたい!という思いをダンスと歌に乗せた「♪街は我らのもの」などの革命派が民衆を率いる場面。

革命派のロペスピエール、ダントン、デムーランとロナンのやり取りをアンサンブルの立ち位置で民衆の踊る迫力のあるパフォーマンスが国を変えたい国民の本気度を感じさせます。

それに単純にダンスがかっこよく客席にぐわーっと走り去ったり、逆に客席からステージに集まったりもして、一階席後方にいても作品の緊張感が伝わりました。


次いで印象的だったソニンさんが演じるソレーヌ。

ロナンの妹、ソレーヌはどの登場人物よりも成長した女の子で、父を銃殺され悲しみ怯える少女から、娼婦としてパリでやってくしかないと半端諦めの気持ちをみせる女性として、最後は子供のため、家族のため!と食料を求めパン屋に襲撃を起こす女たちの中心的存在として、物語に進展とともに内面的な変化をたくさん見せています。

最初はあんなにも絶望的に悲しみを露わにしていた少女が、最終的には女リーダー的存在にまで変貌していく状況にはそうならなくてはいけない切迫したものを感じるし、そうなるきっかけとなるシーンもほんの少しだけ描かれていて、そこがすごく好きなシーンでした。

男性陣だけではなく、女性たちだって自分たちで行動は起こせることを示すパン屋襲撃のシーンでは、ソニンさんのパワフルな歌声とダンスがとても魅力的で見応えがあります。

ソニンさん、いろいろな舞台で何度も拝見していて、いつも目で追ってしまう女優さん。パワーもすごいし表現も豊かで壮絶な生き様を生の舞台で語るならソニンさんです。


2年で積み重ねてきたものを感じる今年は初演を超えた

おいおい、何偉そうに言っちゃってるの?って声が聞こえてきそうですが、これは本当に肌で感じたこと。

舞台って稽古を積み重ねて初日には完成品が出来上がっている・・・場合が必ずしもあるわけではなくて。

舞台関係者でも何でもないイチ観劇者の主観でしかないけど、どんなに再演をしていてもキャストが総入れ替えしたときや初演作品のときは初日~公演半ばくらいまでは本番を観ていてもまだ手探り感が残っているように見えたり、キャストや音楽、舞台の雰囲気などに小さなすれ違いが観客側から見えたりします。観客が入ってからが本当の完成だと思っているので、序盤の不安定さは否めないかもしれません。

しかしこの気持ちが私が2年前に観た1789初演時にはあったので、今回は絶対的な良いものを見せてくれる期待値よりも、今年はどんな感じになるのだろうと、もう一度新しいものを観る感覚のほうが上回っていました。

だからこそ、まとまりのあるステージになっていたことが嬉しかったし、圧倒的に完成度が高くなり、安定して観ることが出来た今年の1789はとても良かったです。すでに2018年版の舞台DVDが発売決定していますし、把握し切れなかった箇所のチェックも兼ねて、大好きな歌唱シーンなども何度も観ることができて嬉しい限り。

きっと次は2年後でしょうか。なんて前回を上回った作品には必ず次回の期待が生まれてしまいますね。楽しみにしています。

東宝演劇の公式YouTubeチャンネルにて、舞台映像を観ることができます。

観劇後から余韻がさめず、気持ちはバスティーユに奪われてしまい「再生回数、私が稼いでる・・・?」と思うくらい観ています。早くDVDが欲しい!

ちなみにチケット状況は、東京公演は残りわずかですが5月9日(小池・夢咲・凰稀)と5月11日(加藤・夢咲・凰稀)公演分は購入可能です。(5/5時点)

また大阪公演は6月2日から、博多公演は7月3日から上演します。博多公演は現在チケット販売サイトでは先行抽選中ですし、大阪公演も今なら比較的チケットが手に入りやすいと思います。

ミュージカル『1789-バスティーユの恋人たち-』本当に楽しかったです!





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