【舞台】江戸は燃えているか

三谷幸喜さん、あなたって人は・・・。思わず演出・脚本を手掛けた人に感動してしまう幕末エンターテイメント。稀に見る爽快な面白さだった。

<あらすじ>
時は慶応四年。
鳥羽伏見の戦いで幕府軍に勝利した西郷吉之助(隆盛)率いる官軍(新政府軍)は、江戸城総攻撃のために、東海道を進んできていた。
西郷としては、無駄に血を流さずにを江戸城を受け渡してもらえるなら、こんなに嬉しいことはない。そこで幕府側の代表である勝海舟と会って、降伏を勧めることにする。
だが、この勝という男、実は元来の江戸っ子気質で、気が小さい上に喧嘩っぱやい。
こんな性格の勝が西郷に会ったら、間違いなく交渉決裂。江戸は火の海になるのは目に見えていた。江戸の庶民たちも、誰もが戦さは望んでいない。もう戦さはこりごりだ。
そこで立ち上がったのが勝家の使用人たち。
彼らが考えた作戦は、勝をニセの西郷に会わせて、ニセ会談をやらせている間に、勝家の庭師の平次に勝のフリをさせ、本物の西郷に会わせて、和平交渉をしてしまおうという、大胆なもの。

なんとしても江戸を戦火から守るんだ!
名もなき庶民たちによる、西郷吉之助&勝海舟を相手の大芝居が、今、始まろうとしている。
(公式サイトより)

とにかく、なによりもTHE・喜劇。純粋な喜劇であるから気兼ねなく見ることができた。

作中の勝海舟(中村獅童)は自分の意見を曲げない頑固な性格と思い通りにいかないと途端に癇癪を起こす短気な性格を持つ江戸っ子気質。そんな勝は降伏=負けを認めることになる、西郷隆盛(藤本隆宏)と会うということは断固として許さなかった。

「俺は西郷とは会わない!」

そう言い放った勝に、使用人たちはほとほと参ってしまう。しかし、江戸を血の海にさせることなく事を済ませるには西郷との会合は避けられない。何とかしてこの窮地を乗り越えなければーーー。

そこで使用人や勝の娘・ゆめ(松岡茉優)、義弟の俊五郎(田中圭)が考えたのが、勝と顔が似ている庭師・平次(松岡昌宏)との入れ替わり作戦。

これが上手くいくのやら・・・と客席で半ばひやひやしながら見守ることになるのかと思いきや、この作戦に協力する者たちが自棄になりながらも全員本気で平次を勝に見立て、西郷との会談に挑むから面白い。

平次は武士でも何でもない庭師だ。政治的知識もなければ字も読めない。あるのは調子の良さと土壇場で見せる度胸。普通に勝を装っていたら確実にバレるのだけど、というかバレてほしいんだけれど、娘のゆめや俊五郎、女中頭のかね(高田聖子)のファインプレーのおかげで何故かバレない。

これ、西郷の人のよさと半次郎(吉田ボイス)の実直ゆえの(?)あほらしさがなければ成り立たない茶番だぞと思ってしまうのだけれど、紆余曲折あり何とかスリリング会談を乗り越えて一幕を終えると、思わず「あっぱれ!」と普段言わないような称賛の言葉を口に出してしまうそうになった。

しかし、使用人たちの気苦労はまだ終わらない。

二幕、今度は「西郷と会う!」と心変わりした勝を上手くいった偽会談との辻褄を合わせるように、西郷のそっくりさんと合わせる作戦が始まる。

面倒なことになった。

西郷役をすることになったのは、ゆめのことが大好きな取的(最も位の低い力士)のデク(藤本隆宏)。デクには「ゆめと見合い話のために勝に呼ばれた」ということで勝と会う算段を立てたため、何も知らないデクは浮かれ調子、一方の勝は西郷になめられまいと強気の姿勢で会談に挑む。

この見当違いのすれ違いが見ててばからしくもあり、絶妙に話が合ってしまうのが可笑しかった。勝たちと近しい関係でなければ知りえないような勝の家族関係のことや、西郷をデクと呼んでしまったことがバレている!と恐れおののくのだ。デクからしたら、先生なんて変な呼び方じゃなくていつも通りデクと呼んでよお義父さん!と言っているだけに過ぎないのだけれど、まんまとデクは強者・西郷を演じてしまったのだ。なんてカオス。

途中で本物の西郷とデクが入れ替わったあたりから更にカオスな状態は続き、「勝お義父さんにすっかり嫌われてしまった・・・」と怖気づいているデクを何とかして元気づけようと、西郷をデクと勘違いしたゆめが本物西郷に色仕掛けをしたり、収拾がつかない事態にパニックを起こす俊五郎がいたり、ここでは勝を出させるわけにはいかないと女好きの勝にはかねの色仕掛けで誘惑したり。それから平次、山岡(飯尾和樹)、半次郎・・・劇中の登場人物たちが全員がどたばた劇に参加するころには、無理がある入れ替わり作戦の成功を祈ることはしなかった。

平次が必死になって勝だと信じ込ませるために、勝(獅童さん)真似をするのだけど、ちょっと平次、いや松岡さんと突っ込みを入れずにいられなかったもの。

しかしこんなにも振り回された勝だが、事を収めるのも家の主であり、幕府側の代表の勝海舟。

周囲をビシッと制し、西郷が持ち掛けた降伏条件の一部を書き改めさせた上で江戸無血開城という偉業をなしとげた勝は、少なくとも私が知っているかっこいい勝そのものだった。


江戸幕府を受け渡しに際しての勝海舟と西郷隆盛による話し合いが行われたことは歴史にとことん疎い私でも知っている有名な話である。史実を笑いに変え、しかも歴史上でも人気があると思われるこの話を違和感なく作り上げるのは難しいと思うが、劇中では勝海舟を演じる中村獅童さん率いる豪華キャスト陣、松岡昌弘さんや松岡茉優さんらが大暴れして演舞場を笑いの渦に巻き込んだと思えば、最後には史実通りの会合で話を落としているのだからカーテンコールでは実に気持ちのいい拍手を送ることができた。

三谷幸喜さん作・演出の舞台は今回が初観劇だったが、こんなに清々しい面白さを作る方だったのだと新たな発見だった。ただただ笑えるものを、という思いがわかるくらいまっさらな気持ちで見ることができるし、まさに今作のスローガン「新橋演舞場史上、もっとも笑えるコメディ」である。

春休みも残りわずか。今年の春休みの思い出は?と友人や家族に訊かれたら、私はこの作品のことを必ず話すだろう。

『江戸は燃えているか』
日程:2018年3月3日 (土) ~2018年3月26日 (月)
会場:新橋演舞場
作・演出:三谷幸喜
出演:中村獅童、松岡昌宏、松岡茉優、高田聖子、八木亜希子、飯尾和樹、磯山さやか、妃海風、中村蝶紫、吉田ボイス、藤本隆宏、田中圭
上演時間:180分(休憩 35分を含む)

***

『江戸は燃えているか』は、三谷幸喜さん作の舞台に興味があり、また今までずっと気になっていた役者さんが勢揃いしていたという理由でほぼ即決で観に行くことにした作品でした。

ほんっとに観に行ってよかった~~~!

雰囲気の似ている獅童さんと松岡さんというキャスティングは当たっていたと思うし、初めて生で見たお二人のコメディな演技はとてもハマっていてもっともっと見たかったし、花道の真隣でみたお二人はかっこよくて、せっかく近くで見れたのに、控えめにしか顔を直視することができませんでした(笑)

松岡茉優さんは昨年に上演された舞台「陥没」以来で、いつ見ても全力で嫌みのない小悪魔な演技が似合う女優さん。今回も作中でいちばん愛されキャラのゆめちゃんを面白かわいく演じていました。
しかも、本編を見ている限り全然気づかなかったんだけど、私が見た公演の前日に松岡さんは体調を崩されていたと獅童さんのカーテンコールのお言葉で知り、病み上がりの中でもわからないほど全力で演じていたつ彼女は本当にプロだなあと。カテコで涙を流していたのも、無事に演じ切れてホッとしたんでしょうね。そんな一面見れて、感動したしますます好きになりました!

あといちばん気になっていたのは田中圭さん。ドラマで見る度にかっこいいやかわいいやら、演技も好きで見るたび惹かれる役者さんで、俊五郎のある意味で普通で常識人なところやちょっとだけ残念で振り回されている役目をかっこかわいく演じていました。個人的に田中さんのはじけた演技がいちばん面白くて好きでした!

高田聖子さんは劇団☆新感線でおなじみの役者さん。真面目さの中の可笑しさを演じるのか本当上手い。役本人自らボケに走るわけでもなく、笑わせるわけでもないのに面白いってすごい。

西郷とデクの両方を演じた藤原さんにもめちゃくちゃ笑わせてもらいました。だってあんなに正反対な役を一つの作品の中で見せてしまうなんて。しかも、教科書でみる世間一般で知られている西郷の顔と藤原さん似すぎてません?そういった意味でも違和感が全くなく、登場した瞬間に西郷さんってわかったな。

ほかにも、磯山さやかさんの照れ屋で人見知りだという本人らしさが見え隠れしてかわいかったし、飯尾さんは普段の芸風を生かした笑いとごろが満載で

余すことなく楽しめました!

三谷さん演出の舞台は今年もうひとつあったと思うからそれも観に行けたらいいな~~!




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