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CLOSE TO YOU

「お待たせー!環―!」
「待っていたよ!いずみちゃん!」
私は友人であるいずみちゃんとは、大の親友である。
「じゃあ帰ろうか。」いずみはそう言うと、私は頷く。
友達と一緒に帰ることは中学の頃はあまりなかったが、高校になってからは友達と一緒に帰ることが多かった。
校内を歩きながら周りを見渡すと、部活動で汗を流している人。
サッカーをして汗を流す人。ランニングをして汗を流す人。
いろんな人がいた。
私はあまりそういう人には興味が無かったが、テニスコートに目を向けたとき、なぜか視線を奪われた。
テニスコートで練習をする一人の男。
その男に目を引かれた。
「どうしたの?環?」
いずみの一言で私は我を返る。
「ううん、何でも無い。少しボーッとしていただけ。」
「ふーん。そうなんだ。てかさ、早く行かないと限定のパフェが無くなっちゃうよ。」
「あ、そうだそうだ。ごめんごめん。早く行こう。」
私はいずみちゃんと少し早歩きで校門を出る。

「げっ。こんなに並んでいるの。」隣にいるいずみちゃんは言う。
「ほんとだ。こんなに人気だとは思わなかった。」
「だけど、折角ここまで来たから並ぼう。まだ食べられないって分かったことじゃないし。」
「そうだね。」私はいずみに同感する。
私たちは列の最後尾に並ぶ。
隣にいるいずみはソワソワしている。
早く食べたいのだろう。そう思いながら友達を見る。
だけど、私は並んでいるときにもあの子のことが気になって頭から離れなかった。
そして、なぜだか胸残りがする。
このことを話してみようかな。
そう思って話しかける。
「ねぇ・・。私、もしかしたら好きな人が出来たかもしれない。」
「え?そうなの?」いずみは驚く。
「も、もしかしたらだよ。仮定の話。」私は慌てて話を補足する。
「へー。確かに言われてみればあのときの環、少し変だったよ。」
「そうなの?」私は傾げる。
「そうだよ。あの時の環は誰かに恋をしているみたいだったよ。」
言われてみれば、少しあの時の私は誰かに恋をしていたかも。
「言われてみれば、そうかも。あの時、何気ない雰囲気を眺めているときに、テニスコートも見ていたんだよね。その時に、ある男に目に入って・・・。」
隣にいたいずみがいなくなっていた。
あれ、どこにいるの。
周囲を見渡すと、お店の前に店員さんと立っていた。
どうやら、中学以来の恋愛に思わず独り言が出てしまったみたい。
そう思いながら、私はいずみの元へ歩く。

カフェの中はおしゃれだった。全体的に西洋の雰囲気が感じられつつ、和の雰囲気をどこか少しだけ感じ取れる。そういった内装のカフェだった。
いずみとテーブル席に座る。
私がメニュー表をとり、テーブルに広げ、いずみと見る。
「うわぁ~どれも美味しそう~!」いずみは目を輝かせる。
「ほんとだよね。でも、少し高いな・・。」
「ちょっとしたご褒美だと思えばいいじゃん!」
「それをいつも言っているじゃん。まったく・・。」私は笑みを浮かべる。
メニューを真剣に見ているので、どうしても雰囲気が静かになる。
特にいずみは超がつくほどの甘党なので、私より特に真剣だ。(と言っても、私は少し甘い物が苦手だから、紅茶ぐらいしか飲まない。)
「ところでさ、さっき話していた好きな人って誰のこと?」いずみはメニューを見ながら唐突に言う。
「一目惚れだから分からない。だけど、見た目は少しぐらい覚えているかな。」
「どんな見た目なの?」いずみはメニューを見ながら言う。
「うーんと・・。確か、短髪で、高身長で少し筋肉質だったかな・・。」私は覚えていることを話す。
「それなら、私知っているかも。」いずみはメニューから顔を離す。
「え、そうなの?」
「うん。それに近い見た目の人だったら、うちのクラスにいる。確か名前は『岩崎拓実』だった気がする。あんまり話していないけどさ、なんか普段無邪気なところが女子にモテてるって感じ。爽やかイケメンって言った感じかな。」
「無邪気な感じかー。」私は手に顎を乗せる。
「あと、噂でしか聞いたことがないんだけど、その人って交際経験無いらしい。」
「えっ?」私は驚く。
「なんだろう・・。何人か告白されたみたいだけど、全部断っているみたい。なんでも、『面白い人』じゃないから断っているらしい。」
「なにそれ、その『面白い人』って。」
「それが大体の女子は分からないみたい。本人に聞く人もいるけど、明確な返事はないみたい。」
『面白い人』か・・・。
いずみが店員さんを呼んでいる姿を見ながら思う。
「ねぇ。折角だから、その男の子と私らで今度の休日に遊ぼう。そうすれば、気になっている人の素性分かるし。」いずみは目を光らせる。
「あぁー。それは良いかも。場所はどうする?」
「それなら私に任せて!」いずみは胸を張る。

休日の土曜。
友人のいずみが私と拓実をくっつけるために、セッティングして貰った。
こんなことをしても大丈夫だろうか。いきなり怪しまれないかな。その思いと、今から好きな人に会えるんだという思いの半分で私は揺れていた。
電車の揺れと同じように。
電車が目的の駅に着くと、私はホームへと降りる。改札口を出ると、友人のいずみとその隣の拓実がいた。
「お待たせー」私が、いずみがいるところに向かいながら言う。
「お待たせっ。さあ、行くわよ。」
いずみは張り切りながら私たちの前を先導する。
「ねぇ、最初どこ行くの?」私が質問する。
「最初は商店街でぶらぶら歩きます。その後に海に行きます。」いずみは張り切っているのか、口調が改まっている。
「おっ、海か。いいねぇ。」拓実は言う。

私たちは商店街の門をくぐり、そのままお店を練り歩く。
商店街は昭和みたいな趣を感じさせるものだったが、お店としては比較的私たち若い世代に受け入れそうなお店ばかりだった。
「折角だから、何か食べながら歩こうよ。ほら、あそこに何か食べ歩き出来そうな物が売っているし。」いずみは向こうの行列が並んでいるお店を指で指す。
「あのお店、並んでいるじゃない。てか、ほんと食べるの好きだね・・。」
いずみが甘党に加え、食べるのが大好きということも忘れていた。

商店街を出て、少し歩いた先にあったのは海だった。
今の季節は夏で、休日でもあったので人が多かった。そんな中、私たちは岸辺に座って海風を感じる。
涼しいな・・。そう思いながら隣の拓実を横目で見る。
横顔が綺麗だな・・。そう思いながら見ていると、左から声がする。そこにいたのは、アイスクリームを両手に持っているいずみが近づいてくる。
「また甘い物食べるの!?」私は驚くように言う。
「そうだよ。だけど別に良いじゃん。せっかく意中の・・・じゃなくて男と一緒にいるんだから。」そう言うと、両手に持っていたアイスクリームを私たちに手渡してくる。
「あれ、いずみのは?」
「私のはあとで取ってくるよ。あと、そうそう。」
そう言うと、いずみは私の耳元に近づく。
「折角だから告白しちゃいなよ。」いずみは私に小さく言う。
「えっ!?むりむりむり!!」私は急な提案に顔を赤くするが、いずみはどこか行ってしまう。

アイスクリームを食べながら、海風を好きな人と一緒に感じる。
いずみの提案でさっきから鼓動が高鳴っている。
気を紛らわそうと、アイスクリームを食べる。だけど、隣をあまり見れない。
どうしよう。
そう思いながらアイスクリームを食べる。
そして、海風を感じる。
だけど、鼓動が鳴り止まない。
そんなことを思いながらボーッとしていると、いきなり隣の彼から話しかけられる。
「面白い人だね。」
え、どういうこと。
そう思っていると、彼の手が私の口元を触る。
その手を見ると、そこにアイスクリームがついていた。慌てて口元を自分の手で確認しつつ、彼の表情を見る。
ニコニコと笑っていた。そして、私の口元についていたアイスクリームを自分の口でなめる。
やばい。どうしよう。そんな表情を見たらますますドキドキする。
私は数秒ぐらい俯いていた。
すると、
「あの子、来ないね。どうしたのかな。様子見に行ってくるね。」
彼が立ち上がろうとする。
どうしよう。行ってしまう。
頭の中で迷っていると、自然と彼の手を握っていた。
「どうしたんだ?」彼が不思議そうに言う。
やばい。ほんとにどうしよう。このまま言わないと私の恋愛が終わっちゃう。今告白しないでどうするんだ。ああ、でも嫌われたらどうしよう。
そんな思いが自分の中で葛藤する。
「ねぇ、どうしたの?」彼が私の顔を覗き込んで言う。
彼が見てくると、更にドキドキしてきた。どうしよう。
「大好きだから、付き合って!!」
思わず叫んでしまった。
あぁ・・。言っちゃった。
「なんだ、そういうことか。」彼は私の手を離す。
少しの間、沈黙が走る。波音と遊泳客で燥ぐ音が私の耳で響く。
そして、彼が私の体を引き寄せ、私の耳元で囁く。
「良いよ。付き合って。」と。
その瞬間、私は彼の体を抱きしめる。今までに無いぐらいの思いが今この瞬間で、感じさせる。
彼の体から離れると、彼の顔が近づく。私の顔も近づく。

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