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Studio Visit : Hela Lamine

チュニジアの首都チュニスへとやってきました。南部のドゥーズから車で7時間ほどかけて到着したのは、Sidi Bou Said(シディ・ブ・サイッド)というチュニス湾を望む白と青の街。残念ながらサハラ取材の最終日から崩れはじめた天候のおかげで空はどんよりとしていますが、久々に砂と乾きの世界から脱出できたことが嬉しくもあります。荷物をほどくとあちこちから砂がこぼれてくるのが何ともおかしいですが、気持ちを新たにknockの取材の準備に取り掛かります。
明日はチュニス郊外 Mornagに住むアーティスト Hela Lamine(ヘラ・ラミン)を訪ねます。1984年生まれのラミンは、チュニスでファインアートを学び、パリの大学Panthéon-Sorbonne(パンテオン・ソルボンヌ大学)でファインアートを専攻し学位を取得。現在はスースにある高等美術アカデミーで美術講師をしながらアーティストとして活動しています。

彼女の代表作のひとつ『The unsecret life of SAMANTHA.C』では、Facebookでランダムに選んだアメリカ人女性の投稿する膨大な写真や、開示されている個人情報を数年にわたって緻密に収集し、ドローイングや写真コラージュ、テキストを織り交ぜながら、架空の人物SAMANTHA.Cを立体的に浮かび上がらせました。その制作プロセスや手法からソフィ・カルによる1978年の作品「À Suivre(尾行)」が頭に浮かびます。

一転してシリーズ作品『do not eat this bread any more』では、1987年から23年間に渡ってチュニジアの大統領を務めたザイン・アル=アービディーン・ベン・アリー政権が辿った顛末を題材にしています。「パンと水、そしてベンアリーにNo!」これはベンアリー政権に対する国民の反政府デモのなかで盛んに叫ばれたスローガンなのだそうです。

最終的にサウジアラビアへと亡命するに至った元大統領ベンアリー。その肖像をラミンはパンと水をマテリアルにして描いています。エキシビションではカビの育成によって腐敗度合いの違う7つの額装された肖像画が並べられました。キャプションには、ベンアリーが政権を握っていた期間における重要な7つの年が添えられています。(それぞれの年に何が起ったのかはまだ調べきれていません)

ひとりの青年による焼身自殺を発端にチュニジアで起こった民主化運動は、当時沸騰状態にあった国民の不満を巻き込みジャスミン革命へと発展しました。Facebookをはじめとするソーシャルネットワークを介し、エジプトなど他のアラブ諸国へも瞬く間に広がり、のちにアラブの春と呼ばれる一連の大きな民主化運動へと発展していきました。

こうした社会背景が、まさにその時代を生きるアーティストたちのクリエイションに大きく影響を与えるのはある意味当然のことなのかもしれません。現代アートは、ある側面で時代を映す鏡であるべきだと僕も思います。

さぁ窓の外は土砂降りの様相ですが、カッパを被り、カメラバッグをレインカバーで覆ったら、勇気を出して行ってきます!

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