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ポイント戦略の分岐点-自社と共通の違いを科学する

 こんにちは。マーケティング視点で読解力を高めるノートです。

 今回は、ポイントの原資負担者と還元場所に着目し、自社ポイントと共通ポイントの違いを明らかにするとともに、主要ポイント発行事業者の分類と類型化を行い、企業戦略の分かれ道となる、自社と共通ポイントの採用理由について考えてみたいと思います。


1.自社ポイントと発行企業のタイプ

(1)自社ポイントの定義

 自社ポイントは、ポイント原資の負担者と還元場所/還元手段の提供者が同一企業である、クローズ型のポイントプログラムです。自社の店舗やサービスの利用額に応じ、0.5%~1%程度のポイント(おまけ)を付与し、次回以降の店舗やサービスの利用につなげていくものです。

(2)自社ポイント発行企業のタイプ

 自社ポイントの性質に合致するポイントプログラムの提供者は、以下の4つに分類することができます。ポイントプログラムの提供企業を例にとり紹介します。

①1社提供型

原資負担者:自社1社
還元先:自社1社

 もっともオーソドックスでポピュラーなポイントプログラムです。スーパーマーケットやドラッグストア、飲食店、クリーニング店等が、自社ポイントカードを発行し、次回の自社利用時に値引きとして利用できるポイントを発行しています。

②決済ポイント型

原資負担者:クレジットカード会社(イシュア)自身
還元先:クレジットカード会社が提供するポイント交換や決済手段を利用する際の支払い額への充当

 クレジットカード会社は、自社カードの決済額に応じ、0.5%~1%程度のポイントを利用者に付与しています。JCBカードの「Oki Dokiポイント」や三井住友カードの「Vポイント」、セゾンカードの「永久不滅ポイント」等が、それに当たります。

 クレジットカードの決済ポイント原資は、加盟店が直接負担しているわけではありません。加盟店はクレジットカード会社へ加盟店手数料を支払っており、収受した加盟店手数料売上の一部が、ポイントとして還元されているため、広い意味では加盟店が負担していると言えますが、ポイントを利用者へ還元する主体はクレジットカード会社自身のため、ここでは、自社が原資負担するタイプとして取り扱います。

③グループ型

原資負担者:自グループ各社
還元先:自グループ各社

 同一の資本系列に属するグループ会社が、グループポイントの原資を負担し、ポイントの利用先は、同一グループ各社に限定されるクローズ型のポイントプログラムです。
 JR東日本の「JREポイント」や、イオングループの「WAON POINT」がそれにあたります。

④還元先開放型

原資負担者:自グループ各社
還元先:自グループ各社と外部加盟店

 ポイント原資負担者が、1社または資本系列を一にするグループ会社(当該事業のテナントやプラットフォーム内の出店者を含む)に限定されているものの、そのポイントの利用先が、自社グループ内に限定されず、オープン化されているポイントプログラムがこれにあたります。

 具体的には、PayPayポイントが、還元先開放型ポイントです。PayPAYは2022年4月に、「2022年10月より共通ポイント市場に参入し、PayPayポイントの外販を開始する」、という発表をしています。

 現在も、水面下では加盟企業に対する営業が行われていると考えられますが、2023年8月時点で、共通ポイント化が開始された、というリリースが発信されていない状況です。

 PayPayポイントは、PayPayでの支払い時、1ポイント=1円分として利用することができ、一見すると共通ポイントのように見えますが、現状は、ポイント原資負担者がソフトバンクグループに属する各社に限定されている、半クローズ型のポイントプログラムになっています。

 今後、PayPayポイントの外販が本格化したタイミングで、共通ポイント側にそのポジションを移すことになりそうです。

2.共通ポイントと発行企業のタイプ

(1)共通ポイントの定義

 共通ポイントは、ポイント原資負担者が複数のポイント加盟店であり、還元場所が主たる原資負担者以外へ開放されている、オープン型のポイントプログラムであり、複数の加盟店や提携するネット系のサービス利用時に、支払い金額に応じ、0.5%~1%程度のポイントが付与されるものです。

※ポイントプログラムの運営会社が提供するQRコード決済やクレジットカードの決済額に応じ、0.5%~1%程度のポイント(共通ポイントと同一名称のポイント)が付与されますが、このポイントの原資負担者は加盟店ではなく、決済事業者(イシュア)としてのポイントプログラム運営会社自身になるため、本件整理においては、共通ポイントとは別の決済ポイントとして取り扱います。

(2)共通ポイント発行企業のタイプ

①胴元型共通ポイント

負担者:加盟店/アライアンス先
還元先:加盟店/アライアンス先

 2015年頃までの共通ポイントは、1つの運営会社が、ポイントプログラムの加盟企業を募り、加盟企業が等しく権利義務を負い、互助的にマーケティング活動を行うプログラムが主流であり、このようなポイントを運営していたのが、TポイントとPontaです。

 このタイプのポイントプログラム運営者は、基本的にポイント原資の負担者ではありません。

 ポイント原資は、共通ポイント加盟店が、決済額に応じ、0.5%~1%分のポイントを負担(付与)することになっており、そのポイントは、共通ポイント加盟店での次回以降、1ポイント=1円分として支払い時に利用できるようになっています。

 ポイント原資負担者が1社または資本系列を一にするグループ会社(当該事業のテナントやプラットフォーム内の出店者)に限定されることなく、複数のポイント加盟店から構成されており、還元場所や還元手段が、主たる原資負担者以外へ広く開放されているプログラムが胴元型共通ポイントです。

②還元超過型共通ポイント

負担者:自グループ各社が大勢を占めるが、加盟店の付与分が存在
還元先:自グループ各社と外部加盟店

 胴元型共通ポイントとプログラムの構造自体は同じですが、ポイントプログラムの運営法人自身が、大多数のポイント原資を負担するのが還元超過型モデルであり、楽天ポイントとdポイントがそれにあたります。

 このモデルでは、年間で数千億円規模(楽天は2022年度に6,200億ポイントを発行)でポイントを付与していますが、ポイント加盟店の利用時に加盟店側が負担するポイント原資額は少なく、その大半は、楽天グループの各社やドコモ自身が負担する販促費が占めています。

 一方、発行されたポイントの利用先は、自グループ以外の加盟店に開放されており、加盟店での支払い時に1ポイント=1円分として支払いに利用することができます。

 ドコモの例を見ると、2022年度に発行した約3,400億円のポイントのうち、2,834億円(83.5%)が提携先で利用されており、提携加盟店が負担するポイント付与の総額を上回る分のポイントが、加盟店で還元利用されていると考えられます。 

 ポイントプログラムの運営会社自身が、ポイント原資の大半自社販促費として負担するプログラムが還元超過型共通ポイントです。

3.ポイント事業の類型化(整理)

 前述したポイント発行企業の分類を考えると、もともとdポイントは「自社ポイント」タイプのポイントプログラムを運営しており、楽天は「グループ型」、PayPayポイントをスタートする以前のソフトバンクやヤフーは、「胴元型共通ポイント」の加盟店という位置づけにありました。

 これらの企業が、共通ポイント化を志向し「還元超過型共通ポイント」へポジションをシフトさせる戦略的な意図はどこにあったのでしょうか?

 共通ポイントの導入を決めた企業に共通する特徴は、主力事業の顧客接点が主にオンラインにある空中戦型の法人であると考えています。 

 2010年代の中盤から後半にかけて、各社が模索していた新たな事業の方向性は、自社が提供する顧客IDを起点に、グループ内の複数サービスを契約してもらうことでLTV(顧客生涯価値)を最大化させる垂直統合型のプラットフォームビジネスの成立でした。

 自グループの空中戦のサービスだけでは、プラットフォームビジネスに必要になる顧客ID数とMAU(月間アクティブユーザー数)を獲得するに至らないという事業課題を解消するため、グループ共通の決済手段であるQRコード決済と支払いの際にポイントが利用できる加盟店ネットワーク作りに踏み切ったと考えています。

加盟店になってもらうための持参金が共通ポイント

 自グループ外の事業者の店頭を、自グループのサービスのタッチポイントとして活用する際の持参金が共通ポイントであり、加盟店が発行するポイント原資額以上に、共通ポイント事業者自身が発行する販促費が店頭で利用されることによる送客効果が期待され、2023年には、各社のオフラインの加盟店は、400万~600万拠点にまで広がっています。

 自社ポイントや自グループ型のポイントプログラムを提供していた企業による共通ポイント化の戦略的な意図は、自社経済圏の拡張にあり、自グループ以外のタッチポイントを確保する必要に迫られた企業による、ポジションシフトであったと整理することができそうです。

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