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驚きの格差!米国と日本のリテールメディア市場規模

 こんにちは。マーケティング視点で読解力を高めるノートです。

 今回は、最近よく目にする、小売企業が展開するメディアビジネスである「リテールメディア」を取り上げ、米国と日本のリテールメディアの規模感を比較してみたいと思います。

 リテールメディアの定義や範囲を広義にとるのか、狭義で捉えるのか、さまざまありますが、小売業のアプリ、WEBサイトのディスプレイ広告、ECサイト上の検索連動広告、デジタルサイネージ、タブレット付きのカートの他、小売が持つ1stPartyデータを使った外部メディア(Yahoo!、YouTube、SNS)への配信等が含まれ、一般的には「小売が媒体社として自社名義で提供している広告媒体」のことを指してると考えています。


1.米国のリテールメディア市場規模

 2022年3月28日のBCGのレポートによると、2022年の米国におけるリテールメディア広告の市場規模(推定)は410億ドル(約6兆円)となり、検索連動型広告、SNS広告に次ぐ、第3の巨大市場に成長したとされています。

 また、今後の5年間で年間25%ずつ市場規模は成長し2026年には1,000億ドル(約14兆円)に達すると推計されており、デジタル広告の支出額の25%をリテールメディアが確保するとみられています。

BCGの推定:米国リテールメディア市場は2026年には1,000億ドルを超える規模まで成長する

2.米国リテールメディアの支出先

 2021年の360億ドルの広告費のうち240億ドル(構成比:66%)をAmazonが確保しています。Amazonのリテールメディアビジネス「Amazon Ads」は、2022年には377億ドル(約5兆円)の広告売上をあげており、Amazonは今後もこの分野で最大のプレーヤーになりそうです。

 ウォルマートやターゲット等の米国大手小売業の広告売上は2021年は80億ドル規模に留まっていますが、BCGの予測では、2026年には250億ドル(3.3兆円)の広告売上を確保する可能性があるようです。

 なお、ウォルマートの広告内製化プラットフォームである「Walmart Connect」の2022年の広告売上は、前年比30%増の70億ドル(約1兆円弱)まで伸長しているようです。

BCGの推定:リテールメディアの広告費の2/3がAmazonに対して投下されている

3.日本の広告宣伝費

 電通が発表した2022年日本の広告費は約7.1兆円であり、インターネット広告費が43.5%を占めています。そのうち約2.5兆円がインターネット広告媒体費として支出されており、この一部が、小売のリテールメディア(オウンドメディアやデジタル広告)へ支出されていると考えられます。

日本でも物販系ECプラットフォームへ約1,900億円の広告費が投下されている(楽天、Amazon等)

 2022年9月27日のCARTA HOLDINGSのプレスリリースによると、2022年の日本におけるリテールメディア広告の市場規模は135億円であり、内訳は、デジタルサイネージが70億円、オンラインメディア(※1)が65億円となっています。
 また、2026年のリテールメディア広告市場規模は、2022年の約6倍の805億円に達するという試算を出しています

※1:アプリ、ECサイトなどのオウンドメディアにおける商品告知広告やクーポン、メールマガジンのほか、匿名化された小売企業の顧客データを活用したターゲティング配信が可能なオンライン広告など、広告商品の企画、運営に小売企業が関与する広告プロモーションが対象

4.日米リテールメディア広告市場規模の比較

 2022年の日米の市場規模を単純比較すると、米国が410億ドル(約6兆円)、日本が135億円であり、日本のリテールメディア市場規模は、米国の1%に満たない規模に留まっているという形になります。

 ただし、この数字は日米の商慣行の違いが考慮されていない他、リテールメディア売上の集計範囲に相違があるため、同じ土俵で比較することが難しい部分があります。

 例えば、ブランドをマネジメントする部門や担当者(通称:ブラマネ)がマーケティング全体を統括する米国と異なり、日本は広告主であるメーカーの流通対策の営業部門(営業企画)と広告やデジタル部門の組織や予算が分かれています。 
 そのため、メーカーが特定の流通小売業者が運営するリテールAdsに対して支出する費用が、電通が発表した広告費の中に含まれていないケースがあると考えられます。
 さらに、広告配信や効果測定に使用されるデータを小売業から購入するデータ利用料が別の費目として支出されている可能性もあり、広告費の規模だけを単純に比較して日本と米国の市場を対比することは難しい、という側面があります。

 また、米国側のリテールメディア市場規模にはAmazonが含まれており、Amazon Adsのスポンサー広告(Amazonの出品者が広告主となる広告)の売上が計上されています。この事実から、日本においても、全広告費のうち2.7%に相当するECプラットフォームへの広告費(楽天、Yahoo!ショッピング、日本のAmazonなど※2)をリテールメディア広告費として考えても差し支えないでしょう。

※2:「日本の広告費」における「物販系ECプラットフォーム広告費」とは、生活家電・雑貨、書籍、衣類、事務用品などの物品販売を行うECプラットフォーム(これを「物販系ECプラットフォーム」と呼ぶ)上において、当該プラットフォームへ出店を行っている事業者(これを「店舗あり事業者」と呼ぶ)が当該プラットフォーム内に投下した広告費と定義。

 このような物販系ECプラットフォームに対する広告費である1,900億円を加算した場合、2022年の日本のリテールメディア市場規模は、約2,000億円超となりますが、それでも米国のリテールメディアの市場は、日本の30倍の規模感ということになります。

5.日本企業のリテールメディアの規模

 リテールメディアが注目される前である2019年から、自社名義のリテールAds「matsukiyo Ads」の取組みを開始している日本のリテールメディアの草分け的な存在であるマツキヨココカラ&カンパニーを取り上げ、日本における1社あたりの収益規模を確認してみたいと思います

 マツキヨココカラ&カンパニーの23年3月期決算短信のセグメント別売上を確認すると、小売以外の売上である、その他という項目があり、その他売上には「広告宣伝等に係る売上高が含まれます。」という表記があります。

マツキヨココカラ&カンパニー 2023年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

 広告宣伝等の関わる収益は「管理サポート事業」セグメントに計上されている「その他(注)1:28.3億円」に含まれていることから、この金額が、広告事業の収益上限であり、matsukiyoAdsの売上はこの金額内に収まっていると考えられます。

 22年度で比較すると、ウォルマートは約1兆円弱の売上をあげていることから、1社単位で比較しても、日米リテールメディアの収益規模には大きな差があることがわかります。

6.メディア集約的な事業特性

 2022年の米国小売(自動車、ガソリン等の燃料を除く)の市場規模は4兆1047億ドル(約554兆円)でした。一方、日本小売の市場規模は約154兆円となっており、3.6倍の差があるものの、リテールメディアの市場規模差と比べると小さい数字に見えます。

 日米の小売業の規模差に比べて、リテールメディアの規模で大きな差が生じている理由の一つは、広告が資源集約的なビジネスであるためです。メディアが持つ媒体力が増大するにつれて、広告出稿量や単価が急激に増加するという特性が影響していると考えられます。

 Amazon AdsやWalmart Connectは、他の小売が運営するメディアやECプラットフォームと比べ、メディアとしての力と、ECサイトとしての売り場の力が強く、その両方を兼ね備えています。

【メディアとしての力】
・利用者の分母の多さ×アクティブ率の高さ
・利用回数の多さ×メディア接触時間の長さ

【売り場の販売する力】
・利用者の分母の多さ×アクティブ率の高さ
・購入回数の多さ×1回あたりの購入品目数の多さ

 リテールメディアの資源集約的特性を考慮すると、2023年現在、米国のリテールメディアの主流が、Amazonやウォルマートが有する「自社ECサイト(メディア)」内での「ECサイト内広告」であること、Amazonやウォルマートと比べ、サイトの集客力や媒体力が限られている日本企業の広告収入規模が少ないことについて、一定の理解が得られます。

 日本国内でリテールメディアを立ち上げ、収益化を目指す場合には、「メディア力」×「売場力」の総和である媒体力を向上させることが重要だと言えるでしょう。

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