【映画感想】クリード 炎の宿敵

主演: ドルフ・ラングレン。

わかってるよ!! クリードの続編ですよね!! いくら俺がバカだからって「クリード」ってタイトルがついてる映画の主人公がクリード以外なわけないよな、ってことくらいはわかって書いてますよ!!

思えばロッキーシリーズを初めて劇場で観た作品は「ロッキー4 / 炎の友情」で、その時ロッキーの相手となったのがドルフ・ラングレン演じるソ連のボクサー「イワン・ドラゴ」でした。エキシビジョン・マッチで本作アドニス・クリードの父親であるアポロ・クリードを叩き殺した、殺人マシーンと言っても過言ではない強さのボクサーだったんですよ。

そのドラゴが「クリード2」に登場するという話を聞いた時は、「マジか!! すげぇ!!」って鳥肌が立ちましたよ。アポロの息子とドラゴの息子が戦う、もう"因縁の対決"以外に言葉が見つからない、どこのロッキーファンでも思いつきそうな「俺の考えたロッキー続編」として待望されていた設定だと思うんですよ。

なので正直、アドニス側の話がなげーなー、と思いながら観ていたという想いがあります。

アドニスの嫁さんの突然な妊娠。その前のシーンで一応結婚はしてるっぽいんで、「出来ちゃった結婚」ならぬ「出来ちゃった出産」となり、順番が逆じゃなくてよかったね、という想いでした。実はぼくも昔入籍した際、しばらく子供を儲ける予定はなかったんですが、快楽を得る手段として日々セックスを重ねていたある日、嫁さんから「ひょっとしたらひょっとするんで、妊娠検査薬を買って来て」と言われ、近所のドンキまでダッシュして入手したら、見事に二本線が出たあの日を思い出してしまいました。その後数年で離婚してしまいましたが、産まれた息子は元気に成長しています。だからアドニスもがんばって。朝は味噌汁フーフー、昼は仕事でフーフー、夜はベッドでフーフー。以上祝電を賜りました。

さて、「家族三人の食い扶持を稼がにゃいかん」状態になってしまったアドニスでしたが、ドラゴの息子、ヴィクターに負けてしまいます。おそらく「Victory (勝利)」を意識してつけられたであろうその名前にドラゴの執念を感じました。数十年前のロッキーとの試合後、おそらく国を追われたのでしょう、ウクライナのキエフという街で暮らしていました。この場所どっかで聞いたことあるなーと思ったら、チェルノブイリ原発事故が起きた際によくニュースで取り上げられていた街でした。現在ではこの街を起点としたチェルノブイリ原発観光ツアーがあるくらいです。えっ、ミラ・ジョヴォヴィッチってキエフ出身なの!? (Wikipediaの「キエフ」の項を読んでいます。)

話を戻して。しかしドラゴ親子がどんだけ頑張ってもチャンスが無ければ現実は変わらない。それは「ロッキー」と一緒で、ドラゴ親子がそのチャンスを掴むため、映画を成立させるためにプロモーターが一枚噛みました。因縁の対決という打ち出しはビジネス的に興行を成功させる材料として価値が高い。本来憎むべきロシア政府も、今回においてはその想いをグッと堪えて利用する。めでたくアドニスを倒したドラゴ親子は政府主催の晩餐会に呼ばれます。や、やっとツキがまわってきた!! と思ったら、二人を捨てた元妻・ルドミラが同席しました。演じるのはロッキー4と同じくブルジット・ニールセン。スタローン主演の「コブラ」にもヒロイン役で出ていたので、ひょっとしたらこれから食べるのはベチャベチャにケチャップをつけたポテトフライだろうか、と固唾を飲んで見守りましたがそんなこたありませんでした。

んで、よく思い出せば、それまでのドラゴ親子の登場シーンって、彩度の低い、色の乏しい寒色の世界で暮らしていた気がするんです。着ているものもグレーとか黒とか。それが一気にこの晩餐会で暖色の世界に招かれ、プレゼントとして今まで見た中で一番華やかな彩りのものを手に入れます。それは「ドラゴ」と書かれたトランクスでした。この色使いの皮肉さよ。

前作の「クリード」とは意味合いの違うトランクスの受け渡し。アドニスは父親の形見でしたが、ヴィクターのそれは、「宣伝素材なんだからそれなりの格好をしろ」という、国家の威信がかかった衣装以上の意味はないアイテムでした。使えるものしか使わない、という確固たる姿勢を相変わらず貫いているロシア、なるほどロシアはそういう国だねおそロシア!! って一歩間違えば国際問題だぞ、おい。

しかしクライマックス、ヴィクターはアドニスに打ち負かされます。だってこれ、クリードの映画だしね。

ドラゴ親子は元の生活に戻りますが、トレーニングの一環として行なうジョギングの際、父は車を使うのを止め、息子と一緒に己が足で走るのでした。


......はいカット、撮影終了でーす!! お疲れ様でしたー!!

スタローン「よっしゃー終わったー!! ドルフ、メシ食いに行こうや!! なんか食べたいものあるか!?」
ドルフ「お、俺、鳥貴族とかで大丈夫......」
スタローン「何言ってんだよ!! 折角の打ち上げなんだからもっと豪華なもん食おうや!! 焼肉どうだ、焼肉!! 叙々苑、游玄亭!! おーい誰か個室抑えといてくれ!!」
ドルフ「だ、だったら俺、スタミナ太郎とかでも大丈夫だし、あそこ肉だけじゃなくてお寿司もあるし、ご、豪華......」
スタローン「いいからいいから、今日は俺が全部持つから!! よーしじゃあ俺ら先に行くから、みんなも撤収終わったもんからタクシー乗って来てくれ!!」

劇中のスタローンとドルフがロッキーの店で対面して話すシーンで、ずっとこんな妄想してたんですよ。

もしこの二人がロッキー4以降共演作がなかったら、このシーンはまた違った見え方をしていたのかもしれません。しかし「エクスペンダブルズ」とか観てるので、どうしても「仲良し二人が世間話してる」ようにしか見えなかったのです。もちろんドルフの演技は超良かった。ドラゴの復讐劇、と聞いた時は、数十年を経てどういう人間になっているのかという点が気になっていたんですが、「かつて殺人マシーンと呼ばれた復讐に燃える男が人間の心を取り戻した」という感じでホッとしました。とはいえ実はロッキー4を観ると、アポロを殴り殺した時にドラゴちょっと動揺してんですよね。ソ連に用意されたと思われる勝利コメントを棒読みしてるものの、目がキョドってる。そのあと「人間死ぬ時は死ぬ」とか追い討ちかけてるセリフのアップは冷徹な目になってますから、キャラ設定の演出が揺れて追加撮影とかしたのかなあ、とも勘ぐりますけど。

スタローンを信用しているから再びドラゴというキャラクターを演じたドルフと、ロッキーシリーズにおいてドラゴというキャラクターはロッキー、アポロに次ぐ重要な存在なのだということをわかっていたスタローンだからこそ、描けた設定だと思うんですよ。それなのに、あれだけ緊張感があるあの対面シーンでなぜか「いちゃいちゃしてんじゃねえよ」という想いが止まらない。

ドルフ親子の物語は、「もうひとつの (栄光を掴めなかった) ロッキー」という話でもありました。だからどうしても、今回アドニス側の話は結構どうでもいい。アドニスが負けて、プールに潜ってウワーってなるシーンも、いやだって負けたなら仕方ないじゃん、と観ているこちらとしては感情移入するのに何かが足りない感じがしました。それが単純に「一回負けたけど頑張って再び勝つ」という、ロッキーシリーズおなじみの展開に必要な要素だったとしても、食うに困らないだけの金があり、父親程度の名声も手に入れたアドニスには、「リタイアしてゆっくり余生をするのもいいんじゃね? あんだけ広い家に住んでるのにメイドの一人も雇ってないなら主夫になってイクメンするのも幸せじゃね?」という気持ちにしかなれませんでした。有頂天になってボクシングがおろそかになった、みたいな隙がアドニスにはなくて、どん詰まりからチャンスを得たロッキーと違い、応援する気持ちに欠けるのです。こういうのが今ふうで、若者にウケるなら仕方ないのかなとも思いつつ。

とりあえずクリードに関しては、もう描くことないよなぁ、という。ロッキーシリーズ延命時には、作品ごとに誰かが死ぬ、というお涙頂戴作戦が取られていましたが、じゃあ次でクリードの母親嫁子供が死んだらいいのかというと、そういうことよりは「誰となぜ闘うのか」が大事になると思うし、しかしじゃあ今度はクラバー・ラングの息子を出す、とかだと単なる焼き直しだし、やはりますます観たいのはアドニスよりもドラゴ親子の物語になるのですよ。

スピンオフ作ってくんねえかなぁ。キエフスタートで、徐々に勝ち上がっていくヴィクターの話とか超観たいよ。ボクシングがダメならドラゴ親子がロシア政府から依頼された密命を請け、ゲリラに捕らえられた人質を救出したり重火器ブッ放したりする話でもいいよ。とにかくキャラが立ってたので。

ヴィクターは (映画の中の) 試合に負けて、(観客の心を掴む) 勝負に勝った。

もし尺の関係でドラゴ親子のシーンで削除されたシーンがあるなら、完全版としてそれらを入れたものを観て観たいです。


p.s.
事前情報として鑑賞前に必要なのはロッキー4ですが、見返したらアメリカとソ連の国旗が書かれたグローブがぶつかり合ってボガーンと爆発!! というオープニングからはじまるので面食らうかも。下町のゴロツキだったロッキーがソ連国民にラストで説法ですよ。何かが、何かがおかしい。いつからこうなった。どうしてこうなった。

ほかにもロバート・デッパーの"No Easy Way Out"をまるまる一曲かけるためにスタローンがフェラーリでドライブしつつ回想をはじめたり (これまでのあらすじ、とかならまだしも、つい5分前のこととかも回想される。今見たから知ってるよ、それ!!)、ジョギングで気分がアガった勢いで山に登って山頂で雄叫んだりと本筋とは関係ないものがたくさんあるので、ザーッと観る感じで構いません。

それよりも予習するなら「ロッキー (1作目)」です。劇中、トレーナーのミッキーがロッキーの部屋を訪ねてきてこう言います。

「わしももう、76の老いぼれだ」

シルベスター・スタローン、御歳72際。うわ、もうすぐミッキーと同い年!!

そう考えて観ると、あの頃生意気にミッキーと口喧嘩していたゴロツキが、今度はその立場に立って若者を育成している。若い頃はわからなかったあれこれを、今はアドニスが悩んでいる。時間の経過、立場の入れ替え、人生に残されたもの。

というわけでクリード 炎の宿敵の後にロッキー見たらもうボロボロ泣いてしかたなかったです。あ、じゃあ予習じゃなくて鑑賞後のほうがいいのかな。

「ロッキー」大傑作です!! みんな観よう!!

おわり

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