言葉が大切

政治家には功罪ある。業績は歴史が評価する。
だが、国葬が終わり今私が感じるのは彼の言葉の軽さ、言葉への侮辱に対する憎しみである。そしてあまりにも空虚な存在としか言えない彼が長きに渡って日本の政治のトップに君臨した事に対する徒労感と倦怠感である。

2015年、ISに日本人湯川遥菜さんと後藤健二さんが拘束され人質となった。そのタイミングで安倍晋三氏はわざわざお膝元のエジプトに赴き「ISと闘う周辺諸国に総額2億ドルを支援します!」とぶった。

「テロに屈しない」「テロとの闘い」それはもちろん正しいのかもしれない。ただこのタイミングでこの場所でこの「威勢のいい」言葉を吐くことでいったいどんな影響を与えるのかを全く想像できない知性に眩暈がするのだ。

結局、この発言の揚げ足遠取られISは安倍晋三を名指して批判したうえで、湯川さんは殺されてしまった。

無論、悪いのはテロリストである。だが、ならず者に人質が取られている状況で、わざわざ相手を挑発するような発言をすることが、どのような結果を生むのか。彼の想像力の欠如が湯川遥菜さんを殺した少なくとも一因だと私は思っている。

自分の発言がどのような意味を持ち、どのような影響を与えるかという、責任ある立場の人間が当然持ち合わせているべき想像力が圧倒的に欠けていた。

森友学園「私や妻が関係していたら総理大臣も国会議員も辞める」。明らかな嘘というのは誰の目から見ても明らかな発言だった。

幼稚園の名前に安倍晋三の名前をつけようとさえしていた。昭恵夫人が訪問して教育勅語を暗誦する姿に感動して、100万円の寄付さえしていた。

彼の嘘発言を糊塗するために国会では虚偽答弁が重ねられ、公文書の改竄、隠蔽が行われた。挙句には良心に苦しんだ公務員が自殺する悲劇を生んだ。ある意味、安倍晋三氏の発言が赤木さんを殺したと私は思っている。

そして統一教会。2021に開かれた関連団体のイベントで基調演説をしている。教団トップに対して「韓鶴子に敬意を表します」と発言している。

一国の首相が宗教団体を纏った反社会的カルト団体のトップに敬意を表することがどういう影響があるのか、おそらく何も考えていない。
その後、安倍晋三事務所は「今後日本社会に深刻な悪影響を与える」という被害者弁護団たる全国弁連からの意見書の受け取りを拒否している。

山上容疑者はこのビデオを見て安倍晋三の殺害を決意したと言われている。

自らの浅薄な発言で人を死に追いやって来た人間。そこにはおそらく何の悪意も意図もなかったと思う。あるとすれば威勢のいい言葉を吐きたい、という馬鹿らしいほど子供じみた動機しか見えない。

だが、責任ある人間の言葉、政治家の言葉は社会に伝播し様々な変数を産む。だから慎重に回りくどく、時に曖昧にならざるを得ないはずなのだ。

そう考えると「この道しかない」「一億総活躍」など空虚で歯切だけがいい言葉が飛び交ったこの10年は究極の無責任状態であったと言えよう。

結局、自らの発言が原因で殺害されたという経緯を見るとやはり「因果応報」としか私には思えない。あまりにも言葉を軽んじ過ぎたのだと思う。ご冥福を。合掌。

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