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全国の国立大学総額2兆8千億円の大借金の理不尽な理由

(はじめに)


 
 文科省のホームページに平成17年(2005年)8月29日に発表された「国立大学法人の平成16事業年度財務諸表の概要(説明本文)」を見たある方から、何故、国立大学は総額2兆8千億円もの負債(借金)を出したのかと、国立大学の将来を心配して、次の様な質問が、個人的に私の所に、来ました。本文はこの質問にお答えする形で、この大借金の理由について考えてみます。ご一読頂ければ、これは、国民全体の国家的な問題であることがわかります。多くの皆様に読んでいただければ幸いです。
 

1.(質問)予算の件ですが,先ず変に感じるのは,どこもそうですが,どうして借金が可能だったのでしょうか?しかもそんなに多額の?


 
 本来,特に旧国公立大学では,予算の年度繰越も年度を越えた借金も出来ない仕組みになっていたのではありませんか?したがって,常識的に考えれば,貸した業者にも応分の責任があるので,適当な割合で負債を免除してもらう交渉をすべきでしょう.あちこちの自治体でも,バブル期の放漫投資で出来た負債を銀行等で棒引きしてもらっているではありませんか.無責任な行為によって発生した負債のために,多くの善良な研究者・教育者が路頭に迷うような事になってはいけません.ぜひ,棒引き交渉を提案してみて下さい.
 

2.(私なりの回答)高度先端医療開発費は、法人化前の財政投融資からの別予算でしたが、法人化後各大学の借金とされたのが原因らしい


 
 御質問の何故こんな大きな借金が出来たのかですが、実は学内の誰も知らなかったのです。おっしゃる通り、個人に配分された、校費や科研費その他は年度内使い切りの予算ですから、年度を繰り越すことは当時出来ず、借金ができるはずがありません。そのため、おそらく全国の国立大学の先生方は、総額2兆8千億円もの大借金があることを知れば驚くはずです。うかつなことにほとんどの先生が、大借金があることさえ今も知りません。その上、S大学では学長も、財務部長も誰も学内で、説明しないのです。
 それで、インターネットで調べると、2年前の国会で質問した議員のホームページから判明するのは、各国立大学の大学病院が毎年巨額な赤字を出していたことがわかります。しかしながら、この赤字は、野放図な経営による赤字ではなく、高度先端医療開発のための研究費で、本当は赤字とは言えないものです。国立大学の病院が、国家の為に高度先端医療を開発する使命を果たしていたからです。例えば、S大学の医学部は、臓器移植などで大変活躍していましたので、これらの費用が、財政投融資から資金として、校費とは別枠で大量に供給されていたようです。この法人化前の高度先端医療開発費は財政投融資からの別予算が、法人化後借金とされたのが主要な大借金の原因のようです。
 国立大学医学部はもうかる体質には出来ていません。生体肝移植の費用が1件1000万円もかかるのを、もし、全て患者個人に背負わせるとなると、ほとんどの患者は金を出せずに死ぬほかないということになります。これでは、国家として国民の健康増進のため、新しい高度先端医療を開発する病院はなくなります。そこで、これらの医療費は今迄全て、個人には費用を負わせず、国立大学の医学部の研究費で賄われていました。だから国立大学の病院はもうかる体質には出来ていないのです。私立病院のように儲けろと言われると、このような高度医療の開発は国立大学病院では不可能となります。
 

3. S大学で大活躍されていた臓器移植のM教授


 
今(2023年)から約20年ほど前まで、S大学では、東大医学部でもやっていなかった生体肝移植などの臓器移植を、盛んにやっていました。その中心におられたのは、医学部のM教授です。M教授は生体肝移植の外科手術の分野において世界的に知られ、学内でも大変尊敬を集めて居られました。M教授がS大学に在任中、多くの生体肝移植が成功裏に行われ、その都度全国放送のテレビで放映されていました。S大学では、生体肝移植手術をはじめ多くの臓器移植手術が、行われていましたが、独立行政法人化後はほとんど行われなくなりました。私の記憶では、政治家の河野洋平氏が息子の河野太郎氏から生体肝移植の手術をうけた2002年4月がS大学での最後の臓器移植の症例だったと思います。そして、独立行政法人化された前後に、M教授もS大学から東大医学部へ移られてしまいましたので、臓器移植はS大学で行われなくなりました。
 

4.  国立大学の莫大な借金は放漫経営のせいではなく高度先端医療を研究開発していたため


 
このように、河野洋平氏を最後に、多くの患者を救った生体肝移植手術でしたが、これらの費用を財政投融資からの別予算の研究費で賄っていたため、独立行政法人化後、過去に財政投融資から賄った研究費は全て借金に付け替えられたため、莫大な借金として、S大学にのしかっかってきました。独立行政法人化後は、これらの借金を、各大学で償還する事になりました。そのため、教員の給与を下げ、職員の数を減らし、教員や学生の実験研究費を取り崩して、これらの借金を払うことに、結果的になったのです。したがって、国立大学の莫大な借金は、野放図な放漫経営のせいではなく、国民の健康増進のために高度先端医療を研究開発していたためなのです。誤解を恐れずに言えば、河野洋平氏がS大学の研究費で払ってもらった多額の治療費を、今のS大学の教員や学生が代わりに払っているという、理不尽な事になっているのです。
 
 

(おわりに: 善良な学生や教員が国策の犠牲になるという構図は、国民全体で考えなければならない問題)


 
 しかしながら、この大借金を含めこれらの問題が、学内で明確に発表も認識もされていません。学長や官僚が、大借金の真の原因を明らかにすると色々と都合が悪いので、学長や官僚が隠しているのではと疑われても仕方がありません。
 学内でこの大借金の返済に対して、合意が得られていないので、明らかにすると、責任のなすりあいになることを恐れているのではないでしょうか。しかし、医学部以外の学生や教員までもが先々もっと苦しくなり、研究教育に支障を来すと予想されますので、早い時期に学内を含め国民的議論を喚起すべきだと私は思います。善良な学生や教員が、国策の犠牲になるという構図は、国民全体で考え直さなければならない問題だと私は強く信じます。
 
 
 
平成17年(2005年)9月21日 随筆
令和5年(2023年)10月8日  加筆
 
 
*なお、冒頭の国立大学のイラストは、下記のURLからフリー画像を使用させて頂きました。
https://www.ac-illust.com/main/search_result.php?word=%E5%9B%BD%E7%AB%8B%E5%A4%A7%E5%AD%A6

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