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さぬき昔話3:備前下津井の宿で

明治の昔、讃岐の国の吉岡村に、八百屋の夫婦がいました。二人には幼い二歳になる女の子が一人ありました。

この八百屋の夫が、大阪に商用があると言って妻と女の子を残して旅立ちました。その頃は、大阪に行くには讃岐の多度津港から瀬戸内海を渡り備前の下津井港まで行くのに一日はかかりました。したがって、下津井の町で一泊するのは普通だったらしいです。
この八百屋の夫、実は浮気をしていて近所の若奥さんを連れてこの下津井の宿に泊まっていたのです。二人で朝起きて宿屋の洗面所で仲良く並んで顔を洗っていると、なんと隣にこの八百屋の妻と近所の若旦那とが仲良く一緒に並んで洗面所で顔を洗っているではないですか。夫も妻も内緒でここに泊まっているのに、全くの偶然で同じ宿屋に泊まっていたのでした。さらに驚くことに、同伴の近所の若奥さんと若旦那は夫婦だったのです。つまり、この二組の夫婦は全くお互いに知らずに相手方の夫婦と別々に浮気をしていたのです。二組の夫婦は、お互いに驚愕しましたが、この宿で、話し合いました。いっそ、夫と妻を入れ替えて結婚し直そうということになりました。若奥さんと若旦那にはまだ子はありませんでした。一方、八百屋の夫婦には二歳の女の子が一人ありました。この子がこの夫婦交換の障害になります。そこで、この女の子は隣村の辻村に養女に出されました。

この女の子は、私が子供のころには八十歳くらいのおばあさんになっていて、近所で子や孫に囲まれて住んでいたのを覚えています。140年くらい前の話です。

*なお冒頭の写真は、現在の下津井港の写真です。これは、岡山県のホームページ「下津井港のあらまし」から引用させて頂きました。
https://www.pref.okayama.jp/page/detail-42495.html


平成28年(2016年)11月20日随筆
令和4年(2022年)4月4日加筆(444の日)


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