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教材研究室

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同業者向けページです。本のまとめや論文のレビュー、授業案など。
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記事一覧

【ブックレビュー】鶴岡義彦編著『科学的リテラシーを育成する理科教育の創造』

鶴岡義彦編著『科学的リテラシーを育成する理科教育の創造』(大学教育出版、2019年) 概要 STS(Science, Technology and Society/科学技術社会論)は理科教育でどのように扱われてきたか、STSを理科教育でどのように扱うべきか、という話。理科教育が「純粋科学」に偏っていて、STS的内容を充分に扱えていないという問題意識がある。2019年出版だが、著者らが昔書いた論文をまとめたもので、全体的に話題が古い。 「科学的リテラシー」と「STS」 「

【ブックレビュー】『民主主義とは何か』宇野重規

『保守主義とは何か』の宇野先生。民主主義の基本をまとめた本を執筆しようとしつつも何度も挫折していたが、コロナで暇になったからとうとう書き上げたらしい。 よく知っているようで意外と知らない「民主主義」について、歴史的経緯や関連する思想をまとめた新書。ですます調で難解な語彙も少なく読みやすいが、矢継ぎ早に色々な思想家が紹介されるので結構読み応えがある。 +++ 本書も通説に従って民主主義の源流を古代ギリシアのアテナイに求めている。アテナイの民主主義は徹底した「参加と責任のシ

【ブックレビュー】『正しい核戦略とは何か』

ブラッド・ロバーツ著、村野将訳『正しい核戦略とは何か』勁草書房、2022年 概要  著者のブラッド・ロバーツは2009年から2013年までアメリカ政府で核戦略を担当(国防次官補代理 核・ミサイル防衛政策)し、現在はシンクタンクの所長を務める。“アメリカの視点で”現在の核政策のあるべき方向性を探る。 現代の核戦略の枠組み  「核戦略」をめぐる2つの極端な見解がある。一方は、核戦争や核テロの危険性を高く見積もって米国は早急に核廃絶を進めなければならないと主張し、もう一

【ブックレビュー】『日本の高校生に対する法教育改革の方向性』

橋本康弘他『日本の高校生に対する法教育改革の方向性 ―日本の高校生2000人調査を踏まえて―』風間書房、2020年 高校生2000人を対象としたアンケート調査から、高校生の「法知識」と「法意見」の現状と課題を認識し、課題を解決するための教育プログラムを開発する…という作業を第2章第2節までで行っているのだが、その作業に関わっていない第三者が問題設定そのものを批判する第2章第3節が面白い。第2章第2節までは、第2章第3節を楽しむための壮大な前振りだと考えるのが良いだろう。

【ブックレビュー】『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』

堀田隆一『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』研究社、2016年 冒頭の一節があまりに強烈で、折に触れて読み返したいと思わされる。中高における英語は数学と並んでとりわけ実用主義の強い圧力に晒されていて、「なぜ不規則動詞なんてものがあるんだろう?規則的な変化だけでは言語としてうまくいかないのだろうか?」なんてじっくり考えていたら瞬く間に置いていかれ、そのうち与えられる英文を満足に読みこなすことすらできなくなって、次第に興味をなくしてしまう。だから、素朴な疑問はなるべく

【ブックレビュー】『科学哲学入門』

内井惣七『科学哲学入門』(世界思想社、1995年) 教科書のようでいて、ときどき著者の見解が詳しく述べられる微妙な位置づけの入門書。科学哲学に興味を持って教養課程時代にそれなりに学んできた学生が、専門課程の序盤にこの本で歴史上の科学哲学者の実績を大雑把に把握して、その後専門分野を絞っていくイメージか。 一般的には(教養課程レベルの理解では)、科学哲学はベーコン&デカルト、論理実証主義&境界問題、ポパーの反証主義、クーンのパラダイム論あたりを"点で理解"されることが多いので

【ブックレビュー】『神を哲学した中世』

八木雄二『神を哲学した中世』(新潮選書、2012年) 中世に栄えた哲学を「スコラ哲学」と呼ぶ。 「スコラ」はschoolのラテン語で、「スコラ哲学」とは「学校の哲学」を意味する。近代になるとデカルトなどの新進気鋭の哲学者が学校で教えずに一般向けに書を出したのに対して、学校(大学)では中世風の神学がいつまでも教えられていた。つまり、「スコラ哲学」とは神学の近代以降の呼称なのである。 では、神学とは何か。 本来、哲学と宗教とは相いれないものだと思われがちだ。ローマ・カトリック

【ブックレビュー】『リヴァイアサンと空気ポンプ』

スティーヴン・シェイピン、サイモン・シャッファー [監訳]吉本秀之 [訳]柴田和宏、坂本邦暢 『リヴァイアサンと空気ポンプ』 名古屋大学出版会、2016年 概要 科学史家のシェイピンとシャッファーによって1985年に出版され、「クーンの『科学革命の構造』以降もっとも大きな影響力をもった書物」とも評される”LEVIATHAN AND THE AIR-PUMP”の邦訳本。「空気ポンプ」という実験装置を用いて自然哲学から“実験科学”を独立させたロバート・ボイルの思想と実験科学コミ

【ブックレビュー】『科学哲学への招待』

野家啓一『科学哲学への招待』ちくま学芸文庫、2015年 概要  東北大名誉教授、日本哲学会元会長の著者が放送大学のテキストとして作成したものを書籍化したのが本書。『科学哲学への招待』と題しているものの、「科学史」「科学哲学」「科学社会学」の3分野にバランスよく紙幅を割いている。特に、手ごろな入門書が無い科学社会学の第3部がありがたい。ちょうどこの本を(時間をかければ)読みこなせるぐらいが、高校卒業時点で求められる読解力と教養のレベルなんじゃないかという気もする。 内容

【ブックレビュー】『ドイツの政治教育 成熟した民主社会への課題』

近藤孝弘『ドイツの政治教育 成熟した民主社会への課題』岩波書店、2005年 概要  早稲田大学教育学部教授(執筆当時は名古屋大学大学院教育発達科学研究科助教)の近藤孝弘氏の単著。「右翼政党が政権に参加したことはなく」「国政選挙の投票率においては、日本はもちろんイギリスやアメリカを大きく上回っている」ドイツの政治教育を一種の成功したモデルと位置付けつつ、その課題も合わせて提示しながら日本の政治教育への示唆を探る。なお、ここでいう「政治教育」は科目としての公民科や政治科だけでな

【ブックレビュー】『大学入試改革は高校生の学習行動を変えるか』

山村滋・濱中淳子・立脇洋介『大学入試改革は高校生の学習行動を変えるか 首都圏10校のパネル調査による実証分析』ミネルヴァ書房、2019年 概要  「高大接続改革」の名のもとに高校教育・大学教育・大学入試の一体的な改革が進められ、大学入学共通テスト導入をはじめとして大学入試にも大きな変化があった。この改革の背景の一つにAO入試などの学力不問入試が高校生の「学習離れ」が進んだという認識があり、大学入試を変えることで高校生の学習行動を変化させる「逆流効果」が期待されていた。  と